第8話 面倒な依頼
受付の女に勧められた依頼内容は、この付近に出没する魔物の討伐だ。魔王の存在により増え始めた魔物は、放置していると王国に攻め込んでくる恐れ、物資運搬の際の妨げにもなっているため、依頼数は多い。
「魔物とかしたゴブリンの討伐をお願いしたいのですが……」
ゴブリンとは緑色の肌をした小鬼のことである。人権を得て100年経ったばかりなのに、魔王の誕生のせいで狂気に呑まれてしまい、多くの者が人間たちに狩られてしまう存在になってしまった哀れな種族だ。
「そのゴブリンたちは本当に魔物なんだな?」
アデリナはしつこいくらいに受付の女に聞く、それもそうだ、討伐したが実は普通のゴブリンでした、なんて事になったら面倒だからだ。最近の人権団体のゴブリン押しはうっとおしいくらいにイカれているからな。
「その点は問題ありません、通報された者によれば目が真っ赤になっていたらしいです。それに洞窟の巣穴に住み着いているのです。」
魔物とは、この世界においてほとんど知性がなく、凶暴で人間たちを襲う存在の事を指している。人間もゴブリンも普通の者は白目を持っている。しかし、恐怖に染まってしまった者は目が充血したように赤くなり、我を忘れて人間を襲うようになる。その現象を魔物化現象と呼ぶ
「なるほど……まあ、報酬も良いし受けてみよう。」
人権団体様のおかげで魔物のゴブリン退治の依頼報酬がグンと上がったのだ。貧乏勇者様御一行にとってはありがたい依頼だ、受けない理由は無かった。
「ありがとうございます! 本当に受けて下さる方がいなくて……」
受付の女は問題がなくなってほっと安心した様だ。
「も、もし魔物化してなかったら、そこのところ火を使うなりして、その……」
「ちゃんとはっきり言ったらどうだ? 証拠は残すなと」
アデリナはそう伝えて、依頼内容の紙を受け取りその場を後にした。受付嬢がなぜそんな事を言ったかというと、めんどくさいのだ事後処理とかいろいろと
「んで、どうなんだ? もし魔物化していないゴブリンだったら……」
俺は興味本意で聞いた。
「勿論、魔物化していなければそう報告する。」
「そうじゃない、あの女が言いたいのは魔物化してないのに殺してしまった時だ。そしたらどうする? あの女が言った通りに火でも使って証拠隠滅するのか?」
「いや、罪は罪だ。そんなことはしない、そうなったら誰に謝ればいいかわからんがな! うるさい人権団体か、ギルドの職員か、一般人の普通のゴブリンか。」
アデリナが戻ってくると、真っ先にシュメルが駆け付けた。
「どうでしたか、いい依頼はありましたか?」
アデリナが「ああ、あったぞ」と、依頼内容が書かれた紙を3人に見せる。
「ゴ、ゴブリン退治ですか!? 大丈夫なのですか?」
「ああ、ちゃんと魔物になったヤツらしい。」
シュメルは不安だったが、報酬金額を見て「うぅん」と苦い顔をして引き下がった。カリーナは汚れるから洞穴に入りたくないと言いたそうだが、アデリナの圧に負けて何も言わなかった。さて、勇者様はと言えば「ゴブリンなんて楽勝だろ?」と自信満々だった。
「勇者カイ、野生のゴブリンだからって油断はするな」
勇者様は「はいはい」と返事を返した。
しかし、時折カイよ、実はこの中でお前が一番弱いんだぞ。
俺は他人のステータスも見ることが出来る。総合的に見るとカイが一番低いのだ。この世界に転生してからまだ数日しか経っていないから仕方がないことだが、弱いくせにこんなに威張っている彼を見て俺は笑いを堪えるのに必死だった。
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