第11話 商売繁盛
「子供たちには手を出させん」
相手の攻撃を食らう。
そう思った瞬間、父親の魔力がそれら全てを阻止する。
燃える景色。
敵の魔術は父親の火力が全てを消し去り、さらには相手にダメージを与える。
「がああああ!! どうなってるんだこいつの魔力はぁああああああああああ!?」
「はは……やっぱり父さんの魔力は桁違いだ」
「お前たちを守るためにこの力はある。今そのことを悟った」
「じゃあ私もだ。この力は家族のためにある!」
炎の中へ身を投じる椿姫。
しかし彼女の周りは淡い光が包み込んでいる。
おそらくあれは、自分自身を守る防御壁のようなものだろう。
その証拠に、炎の中でも熱さを感じていないようだ。
父親の攻撃を直接食らうと話は別だろうが、攻撃の後の残り火ぐらいなら問題無いらしい。
そして椿姫は熱さにもがく相手に接近し、拳を叩きつける。
「ぶはっ!!」
「このこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこの‼」
椿姫の重たい連撃が敵の顔面を何度も捉える。
その威力に相手の顔はみるみるうちに腫れていき、意識朦朧としていた。
「こ、この……」
「椿姫!」
相手が最後に何かを仕掛けようとする様子が見え、俺は椿姫の元に飛び出す。
手を突き出し、魔力を解放しようとしている。
「図に乗るな、小娘!!」
相手は瀕死の状態。
すでに俺の深淵が通用する程度まで弱っている。
敵が魔力を放出するその前に、俺は敵の体に触れて深淵を発動させた。
「なっ――」
「椿姫は俺が守る。お前なんかにやらせるか」
闇に飲み込まれていく相手。
周囲には酷い炎が残るだけであった。
「お兄ちゃん、熱くない?」
「ああ。魔術に対しての防御力、今取り込んだやつから手に入ったみたいだ」
どうやら敵を取り込んだことにより、魔力と魔術耐性が大幅に上昇したようだ。
熱さは感じない。
魔術耐性がいい仕事をしてくれている。
ちなみにモンスターの名前は『ゴルア』というらしいが、取り込んだ肉体などは使い道がないようで、深淵の中でゴミとして処理された。
どこに消えたのかは謎だが、あまり細かいことは気にしないでおこう。
そんなことより今は勝利の余韻に浸っていたい。
そして家族が無事だったことが何よりだ。
「クリスタルは……どうやら父さんの魔術で壊れたみたいだな」
「じゃあそろそろ出ないとだね。門が壊れちゃうもんね」
俺と椿姫は父親の元に戻る。
そして3人で出口に向かって歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇
「はぁ、終わった――って、どういう状況、これ!?」
門から脱出すると、大勢の人がこの場に押し寄せており、混雑しているようだった。
何が起きているのか分からず、状況を確認するため周囲を見渡す。
「お兄ちゃん、多分ママだよ、この騒ぎ」
「え……あ、本当だ」
椿姫が母親のキッチンカーを指差したのでそちらを視認してみると、どうやら母親の食事を食べるために多くの人が来ていたようだ。
大人気店ぐらい人が集まっており、母親の手料理を食べた人は満足した顔で帰って行く。
「ははは、凄い人気になってるな。でも今日の今日でどうなってるんだろう」
「そうだよね。人気店になるとしても、こんな早くはおかしいよね」
「ふっ、きっと葵の仕業だろうな」
父親は目の前に広がる光景を眺め、目を細めて嬉しそうに語る。
「あいつはなんだかんだで家族想いの優しいやつだ。配信をすると言っていたが、すぐに宣伝をしたんじゃないか」
「ああ、そういうことか」
ダラダラやるとは言っていたが、やることはしっかりやってるんだな。
やり手になるだろうとは踏んでいたけど、まさかこんな早く結果を出すとは。
流石は姉ちゃんだ、恐るべし。
「お姉ちゃんは綺麗だから、ママと同じようにすぐ人気になりそうだよね」
「ああ。あの人なら心配ないだろうな。心配なのは自分のことだよ」
討伐者としてやっていく自信は少しあるけど、母親たちに負けないぐらい活躍はできるかな?
「後、父さん。椿姫のことはどうなのさ」
「ああ。合格だ。今回みたいなアクシデントに対しても冷静に対処できていた。いつの間にか子供も成長するんだな」
「やった! じゃあ私も討伐者として頑張るね。ありがとう、パパ」
父親に抱きつく椿姫。
俺は伸びをして、母親の方を見る。
「忙しいはずなのに顔色一つ変えていない。もしかしたら一番凄いのは母さんかもな」
「あの人は誰よりも強くて優しくて、素敵な人だ。今更そんなことに気づいたのか」
父親の言葉は誠実さに溢れている。
心の底からそう思っているのだろう。
そしてそれだけ言うと、母親のキッチンカーへと向かって歩き出す。
「お母さんを手伝ってくる。2人は先に帰ってろ」
「私も手伝う。注文ぐらいは受けれると思うし」
「俺も手伝うよ。父さんは接客なんてできないだろ」
「……では頼む」
父親は人と会話をするのがそう得意ではない。
手伝うといっても、皿洗いをするぐらいの感覚だったはずだ。
それから俺たち4人で協力してキッチンカーを一日繁盛させた。
そして最終的にミノタウロスの肉は完売し、次に何を出すか家族で楽しく会議しながら、俺帰路に着くのであった。
◇◇◇◇◇◇◇
今日は学校がある平日。
天気は晴れで、朝から気分が良い。
キッチンカーの成功で、収入も面白いぐらい増えた。
まさか一日で結構な額を稼げるとは。
両親にとっても嬉しい誤算だったようだ。
「お姉ちゃん、配信動画観たよ。スタートとしてはいっぱい人が集まったみたいだね。それにママの店の宣伝、動画でもSNSでもしてたんだね」
「ま、私だし? 上手くいって当然だと思わない? ね、太陽」
「はいはい。姉ちゃんは凄いよ」
「何。適当に言ってない?」
「そんなことないよ。葵姉ちゃんは誰よりも凄いし誰よりも綺麗です」
誤魔化すように俺がそう言うと、姉は疑いの眼差しをこちらに向けていた。
俺は全身から愛想という愛想を集め、最高の笑顔を作る。
「ま、別にいいけどさ」
「それより紅葉も頑張ってたんだね」
「ああ、うん」
「動画面白かったよ」
紅葉の配信動画を観たらしく、椿姫は紅葉の横で楽しそうに動画のことを語っていた。
紅葉は椿姫の話を聞きながらゲームをする手は止めない。
「そろそろ学校に行かないと遅刻するわよ~」
母雄がそう言うと、俺たち全員ぞろぞろとリビングを出て行く。
自室に戻り、上着を着る。
俺と椿姫は部屋を二人で使用しており、彼も同じように着替えをしていた。
「良いよな、兄ちゃんは」
「何がさ?」
「荷物持たなくていいのが羨ましいって言ってるの。ゲームもいつでも取り出せるし、どこでもゲームし放題じゃないか。授業中は流石にゲームできないから、生きてるのが辛いよ、僕」
「紅葉。そんなことで辛いとか言うなよ。俺だって頑張って授業受けてるんだぞ」
「そっか。皆一緒か。学校なんて爆発したらいいのにね」
長い髪で隠れており表情は見えないが、半分ぐらいは冗談だと思う。
だけどもう半分ぐらいは本気で言ってそうだよな。
着替えを済ませて家を出て、電車に乗って学校に行く。
ここまでおよそ40分。
移動時間も結構かかるよな。
どうにかして短縮できたらいいけど、物理的な距離をどうすることもできない。
あ、もしかしたら走った方が速いかも知れないな。
今度試してみるか。
俺は教室の自席に座りながら、そんなことを考えていた。
「ち、ちょっと一ノ瀬くん!」
「え、どうしたの?」
珍しく数人の女子たちが俺に声をかけてくる。
もしかしてモテ期襲来か?
そんなことを思案するが、相手は慌てた様子。
どうかしたのだろうか。
「こ、これを観て!」
「え、これって……」
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