第10話 新たなモンスター

「大丈夫ですか!」


 火だるまになっている男性の元に到着する俺。

 椿姫は急いで回復をする。

 俺は服を脱いで、火の上からかぶせて消そうとするが……上手くいかない。


「くそっ、ダメか」

「どけ、太陽」

「父さん?」


 父さんが魔術を使用するつもりのようだ。

 彼の右手から水が生じ――洪水が起きたように男の人は流されて行く。


「ぷはぁあああああああああああ! い、威力が高すぎるんだよ! でもありがとう、助かった!」


 遠くに流されてしまう男性。

 椿姫の回復のおかげで一命をとりとめたようだ。

 俺と椿姫は後方に飛び退いて難を逃れたが……やはり父親の魔力は尋常じゃない。

 極大魔力というスキルらしいが、とんでもないな。


「うむ、やはり手加減ができないな」

「ナイス判断だけど、コントロールできるようになればいいね」

「ああ。努力はしてみる」


 ようやく放出した水が落ち着いてくるが、場所を選ぶ能力だな。

 炎で周囲を焼き、水で見えるもの全てを流してしまう。

 周りにあった木々が、遠くの方で何本も重なっているのが見えた。


「それより敵。誰かがいる。そんな気配がするよ」

「そんなことが分かるのか、椿姫」

「うん。これも私の能力だと思う。悪い気配を感じるんだ」


 椿姫はここからでは見えない何かを見据えている。

 俺と父さんは彼女と同じ方角を向き、警戒をしていた。


「あれか……太陽、椿姫、気を付けるんだ」

「人間? いや、違うな」

「あれはモンスター。人間みたいな形をしてるけど化け物だよ」


 俺たちの前に現れたのはフードをかぶった人間のような見た目のモンスター。

 目が赤く光っており、悪意をこちらに向けている。

 相手は少し宙に浮いており、ゆっくりと俺たちに近づいてきていた。


「来るよ!」


 椿姫は何かが察知したのか、そう叫ぶ。

 すると相手は口を開き、炎を吐き出した。


 高速で飛翔してくる火の玉。

 そうか、あの人はこれを食らったのか。


 俺と椿姫はその攻撃を避けてみせるが――父親が炎の直撃を受ける。

 真っ青な顔をした俺と椿姫が燃える父親の方を見た。


「父さん!」

「パパ!」

「大丈夫だ、問題無い」


 炎の中で平然としている父親。

 直撃を食らってどうなるかと思ったが……俺は安堵のため息を吐く。


「避けるぐらいのことはしてくれよ」

「できないんだ。俺は太陽や椿姫みたいに身体能力が高くないみたいだからな」

「そ、そうなの? 父さんは魔力が高いだけなのか」


 確かに今のは並みの身体能力じゃ避けられないだろう。

 俺には強いモンスターの能力があり、椿姫はスキルによって肉体が強化されているようだからな。

 でも相手の魔術が効いていないことには驚いてしまう。

 魔力が高かったら、魔術に対しての耐性も高いのだろうか?


 敵は父親に攻撃が通用しなかったことに動揺することなく、ただ静かにこちらを眺めているようだった。

 何を考えているのだろう。

 俺は息を吐いて、相手の出方を窺っていた。


「俺たちも協力する。どうやって倒す?」

「まだ考え中です。でも相手は強いから気を付けて」

「ああ、分かってる」


 武器を持って敵と対峙する討伐者たち。

 さっき燃えた人も同じように参加している。

 

 すると敵はこちらの数を数えるように首を縦に何度も振った。

 嫌な予感がし、俺は周囲に向かって言い放つ。


「皆、逃げよう! 何かが来る!」

「何かって……」

「おい、来てからじゃ遅いぞ! 俺たちより強い彼が言ってるんだ。俺みたいに火だるまになりたくなかったら逃げろ!」

「あ、ああ!」


 燃えた男性の一言もあり、全員がその場を立ち退く。

 俺は父親を抱き抱え、相手から距離を取った。


「すまないな」

「いいや、どうしたしまして」


 飛んで上空から敵を見ていると、相手は自分の周囲に炎を生み出していた。

 驚くことにその数は尋常ではなく、それを一気に周囲に吐き出す。


「まさか……周囲一帯燃やし尽くすつもりか!」


 激しい炎が木々を燃やしていく。

 敵の周り360度、全方位が炎に包まれていた。


「あ、あんなの食らったら次は火だるまぐらいじゃ済まないな」

「どうするんだよ、あんなの相手に勝てるのか?」

「もうこのまま逃げる方がいいんじゃないか?」


 弱音を吐いている討伐者たち。

 俺は彼らの考えに賛同し、地面に着地した後に撤退を進める。


「逃げた方がいいですよ。俺たちが引きつけますから、その間に逃げてください」

「だ、だが……」

「足手まといだ。守る対象が多かったら、太陽たちが動きづらい」

「……すまない」


 父親を下ろし、逃げて行く討伐者たちの背中を見送る。

 残ったのは俺と椿姫と父親。

 父親の言う通り、これで動きやすくなった。


「それでどうやって倒す、お兄ちゃん?」

「そうだな……もう父さんに全部任せようか。魔術が効かないみたいだし、押し切ることができるんじゃないか?」

「能力解禁か?」

「ああ。好き勝手に暴れていいよ」


 俺がそう言うと、父親はフッと短く笑う。


「任せろ」


 眼鏡の位置を正し、右手を前に突き出す。

 そして発動するのは――初級魔術だ。


「ファイヤー」

 

 敵の炎よりも圧倒的な火力を誇る父親の魔術。

 敵は驚きを見せた後、激しい炎に飲み込まれた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 眼前には火が泳ぐ景色しか見えず、敵の様子は確認できない。

 だが効果は覿面だったようで、相手の叫び声が聞こえてきた。


「終わったか?」

「どうだろう……警戒は緩めない方がいいと思う」


 熱気が凄まじく、改めて父親の魔力の高さに唖然とする。

 どれだけ威力があるんだよ。

 これで初級魔術とか嘘だろ?

 規格外の能力を誇る父親。

 そして妹もそうだが、二人がいたら大概のダンジョンは攻略できるのでは?

 そう思わずにはいられない圧倒的威力であった。


「あ、見えてきたよ」

「ああ……相当効いているみたいだ。そろそろ終わりなんじゃないかな」


 フードが燃え尽き、相手の姿が露わになっている。

 毛髪の無い頭には太い血管がいくつも走っており、それ以外の見た目は人間そのものようだ。

 そして相手の肌には火傷が多く見え、父親の魔術が効いていたことを物語っている。


「貴様ら……許さんぞ!」

「あ、人間の言葉を喋れるんだ」

「許さん許さん……許さんんんんんんんんんんんんんんん!!」


 モンスターの肉体が肥大していく。

 見た目はそのままで、全長3メートルほどの大きさになった。


「おいおい……あれだけ大きくなって、強さも増したのか?」

「そうだと思う。相手が持つ魔力が大きくなってる」


 見た目に比例するように、強さも上がったようだ。

 椿姫は喉を鳴らして相手を直視し続けている。


「ぉおおおおおおおおおおおおお……」


 敵が力を溜めるような動作を始めた。

 これはマズい。

 そう感じた俺は弓を取り出し、相手に向かって矢を放つ。


「ぐっ……」


 腹部に矢が刺さるが、相手はそれに耐えている。

 もう一発食らわせてやる。

 そう考え新たに矢を取り出そうとするが――

 こちらより早く、相手が攻撃に転じてきた。


「食らえ、我が奥の手を!」


 敵の周囲に火、風、水、岩、魔力で形成されたそれらが浮かび上がる。


「まさか……あれを全部打つつもりかよ!」

「死ね!」


 一気に放出される魔力の数々。

 周囲を炎が焼き、水が薙ぎ払い、風が切り刻み、岩が破壊していく。

 その絶大な威力に呆然とするばかり。

 逃げ場が無い俺たちは、それを眺めているしかなかった。


「うわぁあああああああああああああ!!」


 魔力による暴力が襲い来る。

 このままやられるしかないのか? 

 凄まじい魔力の波を感じながら、俺は身を固くした。

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