第2話 スキル

 家族でスキルのために注射を打ちに来た。

 討伐者専門の施設があり、注射はそこで無料で打ってくれる。

 そこは病院のような施設で、清潔な空間が広がっていた。

 俺たち以外にも多くの人がスキル習得に来ているしく、廊下には長い列が出来上がっている。


 時間にして二時間ほど並んだだろうか、ようやく注射を終え、俺たちは施設内の椅子に座って呼び出されるのを待っていた。


「次は何するのかな?」

「次は発現したスキルの確認。注射みたいに痛くないから心配しなくていいよ」

「心配してないよ~。お姉ちゃんの意地悪」


 姉と妹がそんな会話をしていると、俺たちを呼び出す声が施設内放送から聞こえてくる。

 指定された部屋には数人の職員の姿が。


「ではスキルの確認を行います。こちらにタッチしてください」


 機械に繋がれた大型のタブレットみたいな物が部屋の中心になり、俺たちは順番にそれに触れていく。

 触れると体全体が淡い光を放ち、機械が反応を示す。


「あなたのスキルは……【深淵】です」

「深淵……なんと物騒な」


 俺のスキルは【深淵】という物だったらしい。

 名前だけではどんな能力か認識できないが、あまりいい印象のない名前だな。

 しかしスキル名称を教えてくれるだけで、その内容は分からない。

 俺は職員の人にどういうことか尋ねてみることにした。


「あの、スキルってどんな内容か教えてもらえないんですか?」

「すみません。我々が出来るのはスキル名称を確認するところまでなんです。それ以上はご自身で確かめてもらうしか……」

「そうなんですね」


 どうやら分かるのは名前だけで、それ以上話をしても時間の無駄だと判断する。


 家に戻った俺たちは、自分たちのスキルに関して話し合いをすることにした。


「お父さんのスキルは【極大魔力】らしい」

「ヤバッ。絶対強いやつじゃん、それ」

「そうなのか?」

「極大とかついて弱いってことはないっしょ。メッチャ強そう。ちなみに私は【錬金術】だって。稼げそうじゃない?」


 父親は【極大魔力】、姉は【錬金術】。

 それから母親は【料理人】で椿姫は【聖女】。

 最後に紅葉は【ゲームマスター】らしく、問題無く全員のスキルが発現したようだ。


「名前は分かったけど、当たりか外れかは分からないわね~」

「まずは試してみたらいいんじゃない。僕以外で行ってきなよ」

「紅葉はどうすんのよ?」

「僕はゲームしてる」

「またゲームかよ! ゲームばっかで飽きないのね、あんた。スキルもゲームマスターだし、とことんまでゲーム中毒だ」


 ゲームをしながら会話をする紅葉に姉がそう言うが、全く動じない。

 弟はとにかくゲームが大好き。

 三度の飯よりもゲームなのだ。


「とりあえず、行ける人だけ行けばいいんじゃない。私はちょっと用事あるし」

「俺はいける」

「私も行けるよ、お兄ちゃん」


 椿姫は俺の腕を取り、嬉しそうな顔を向けてくる。


「父さんと母さんは?」

「父さんたちもこの後少し用事があってな、一緒には行けそうにない」

「ごめんね、太陽ちゃん、椿ちゃん」

「いいよ。じゃあ二人で行こうか」

「うん!」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 俺と椿姫は討伐者用のアプリに入った情報に従い、門の場所までやって来おり、そこはマンションとマンションの間の裏路地で、数人の人が入り口で待機していた。


「これで全員かな。この門のレベルは低いから、気楽に行こう」


 そんなことを言うのはベテランらしき人。

 門にはレベルがあるらしく、その大きさでだいたいではあるが判別できるとのこと。

 確かにここにある門は小さい。

 裏路地に納まる程度のサイズだからな。


 今回の門への挑戦をするのは6人。

 俺と椿姫を抜けば4人だ。


 少し緊張しながら門をくぐると、一瞬で別世界にいた。


「ここが門の中か……」

「思ってたより怖くないかも」

「だな。もっと危ない雰囲気かなって考えてたけど、そこまで怖くない」


 今回の門の中――人はそこをダンジョンと呼ぶのだが、中身は普通の洞窟のような作りだった。

 壁にある大きな石が光を放っており、たいまつなどは必要ないようだ。


「あの、俺たち入り口付近で練習していてですか? スキルを取得したの、午前中だったんで」

「ああ、本当の初心者だったんだ。でも報酬は貰えないけど、いいかな?」

「はい。それでいいですよ」


 他の討伐者たちは俺たちを置いて奧へと進んで行く。

 俺と椿姫は自分のスキルを確認しに来ただけだから、今回は報酬もいらない。

 お金稼ぎは自分の能力が分かってからでも遅くはないだろうしな。


「じゃあ早速試してみるか。外じゃ危なくてスキルを使えないからな」

「うん。それにモンスター相手にどれだけ通用するかも確認したいもんね」


 まず俺は自身のスキルを発動させてみた。

 すると立てた人差し指の先に黒い渦が生じる。

 これが深淵?

 どうやって使うのだろう。

 そう考えていた時、俺の頭の中で能力のルールを理解する。


「なるほど……使い方が分かってきた」

「そうなんだ。それでお兄ちゃんの能力ってどんなの?」


 深淵にはいくつかのルールがある。

 ルールその1。

 弱いモンスター、弱っているモンスターを飲み込むことができる。

 戦いに扱える能力だろうか。

 一度試してみないことにはまだ分からないな。


 ルールその2。

 深淵の中には好きなだけ物を収納できる。

 これはメチャクチャ便利なのでは?

 好きなだけ収納できるって、リュックなどは必要なくなるよな。


 ルールその3。

 吸い込んだものを解析、分解、それから再構築することができる。

 ただし分解した物を元の形に戻すことは不可能。

 例えばだがモンスターの『肉塊』を出すことはできるが、元のモンスターに戻すことはできない。

 但し物と物を組み合わせることによって、新しい物を生み出すことはできるようだ。

 それが再構築。

 細かいルールはあるみたいだが、まずは試してみないことには分からないことが多いな。


 これらを椿姫に説明してやると、彼女は手を叩きながら話す。


「お兄ちゃんのスキル、当たりじゃないかな。普通は足が速くなったり、力が強くなったりとかそれぐらいみたいだし」

「椿姫だって当たりじゃないか? 聖女なんてカッコいいじゃないか。名前からして」

「だといいけどね」


 俺たちは笑顔を向けないながら、少しだけ先に進むことにした。

 それからそう広くない岩造りの通路を歩いていると、モンスター界で最弱とまで言われているスライムが出現する。

 丸い形で緑色の物体。

 それがスライムだ。

 大きさもそう大したことはなく、大人の頭ぐらいのサイズだろう。


「あれ、スライムだよね。弱いって聞くけどどうなんだろう」

「とりあえず俺がやってみるよ。椿姫は少し離れてて」

「うん。頑張って、お兄ちゃん」


 可愛い妹の応援が背中にある。

 ここはカッコ悪いところは見せられないな。


 スライムはこちらにまだ気づいていない様子。

 このまま接近して攻撃を食らわせてやろう。

 

 忍び足で近づき、相手のすぐ後ろに位置する。

 その瞬間、俺は深淵を発動した。


「どうだ?」


 弱いモンスターを吸い込めるということらしいが――

 どうやら成功のようだ。

 掃除機でゴミを吸い込むように、スライムの体を深淵が暗い尽くす。


「ふー。上手くいったな」


 スライムを深淵の中に取り込むと解析が進み、その使い道などが分かるようになった。


「なるほど……解析するとこういう風になるのか。スライムの強さと、取り込んだモンスターの肉体の使い方が分かったよ」

「凄いね。ちなみにどうやって使うことが出来るの、スライムの体って」

「残念ながら使い道は無いってさ。食べることはできるらしい。但し味は悪くないけど、毒があるって」

「毒か……私の能力でどうにかならないかな?」

「ああ、聖女ってそういうことできそうなイメージだよな」


 最初のモンスター退治はあっさりと終わった。

 次は椿姫の能力を試す番だが……どうなるかな。



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