第1話 父さんの会社が倒産
「なあ、お前ってあの堂道葵さんの弟らしいな」
「それに堂道
「頼むからどっちか紹介してくんない?」
これは高校二年である俺の日常。
一学年上の姉と、一学年下の妹。
学校では彼女たちの話題を毎日振られる。
あまりにも似ていない俺と俺以外の家族。
それはそのはず、俺は皆と血の繋がりが無いのだから。
俺は平凡な見た目に平凡な人間で、自分自身に誇れるようなことは一つもない。
だが家族のことは胸を張って誰にでも言えるぐらい、皆素晴らしい人間だと考えている。
姉も妹も容姿に優れており、彼女らと比べられるのは日常茶飯事。
あまりにも多いのでいつも適当にあしらっている。
だが諦めが悪い男は多数おり、一日一回はそんなことを言われるのだ。
「姉ちゃんは金持ちとしか付き合わないらしいし、妹は好きな人がいるみたいだぞ」
「金持ちか……俺まだ高校生だし金無いわ」
「好きな人がいるならチャンスは無いか……」
何度も同じ話をしているはずなのに、何でこんなに落ち込むかな。
俺は呆れながら、肩を落とす男たちの背中を見送る。
「でも本当に似てないよね、あそこの姉弟」
「似てないのってあれだけでしょ? 他は美男美女ばかり」
「美男ってことは、男もいるの?」
「小学校一緒だったけど、弟見たことある。それにお父さんがバカみたいにイケメン!」
「えー、見たい見たい。イケメン大好き!」
女子たちが俺の話題で盛り上がっている。
正確には俺の家族の話題であるが。
俺は深いため息を吐く。
皆と違うのは俺が一番理解している。
美形家族に囲まれるモブ男。
悲しいまでの現実を突きつけられるが、だが俺は家族を愛している。
よその人間の言葉なんて気にしない。
血の繋がりこそ無いが、俺たちは本物の家族だ。
◇◇◇◇◇◇◇
「会社が倒産した」
それは土曜日の朝。
作業着姿の父親がそんなことを言い出す。
俺は唖然としたまま、寡黙な父親の顔を眺めていた。
ここは狭いマンションのリビング。
あまり綺麗とは言えない場所で、あまり家にお金の余裕はない。
家族は全員で6人。
そんな我が家の経済状況を知る家族全員は、テーブル席に着きながら父親の方を見ている。
「これからどうすんの。金無かったら生活も無理っしょ」
姉が携帯を操作しながらそんなことを言う。
あまり動揺していないらしく、余裕を感じられる。
「あらあら、これからどうしましょう。困ったわね」
笑いながらそう言うのは母親の
銀色の髪でポニーテールを作っている美魔女。
年齢は内緒だが、父親と同じく二十代前半にしか見えない外見。
容姿もずば抜けており、外を歩くだけでナンパされることが多々ある。
大きな胸に高めの身長。
ニットの上着と黒いスカート、その上からエプロンを付けている専業主婦だ。
「俺、バイトでもしようか? 友達らしい友達もいないし、学校終わったらフルで働けるよ」
「それは……俺がどうしようもなくなった時は頼む。家族のことを守ってくれ」
「どうしようもない時じゃなくても、協力しあったらいいじゃないか。明日にでもバイトの面接行って来るよ」
「あんたはバイトなんか行かなくていいのよ。私が溜めてた貯金、それを使ったら当面の間は大丈夫だから」
姉の発言に全員の目が点になる。
「葵ちゃんが……お金を出してくれるぅ!?」
「お母さん、驚きすぎ」
「だって金にがめつい蒼ちゃんがお金を出すなんて……ああ、これは夢のかしら」
「夢じゃねえし。夫の無職は現実だから」
母親は姉からきつくそう言われるが、笑ったままだ。
「お姉ちゃんがお金を出してくれるのはいいけど、いつかは底を尽きることになるよね」
「ああ。すぐに就職活動をする。心配はしなくていい。葵の金も父さんが働いて返す」
「そうしてくれると助かる。でも無理はしなくていいから」
「お姉ちゃんが優しくて良かったね、パパ」
妹の椿姫。
桃色の髪を前下がりのボブにしており、キラキラした大きな瞳の持ち主。
顔は両親のどちらにも似ていて驚くほど可愛い。
母親と同じくよくナンパされているが、好きな男がいるので全て断っていることのこと。
背はそう高くなく、胸も控えめ。
可愛らしい洋服にロングスカート姿は、清楚の権化ではなかろうかと思っている。
「でも仕事ってなると、また工場勤めになるよな。どこかいい仕事があればいいけど」
「どこも似たようなものだろう。家族を養うためならどこでもいい」
「どこでもいいはちょっと違うんじゃない? お金は稼がないと。家族を養ってくれてるのは感謝だけど、自分が一番納得できるのがいいと思うんだけどな」
「自分が納得するよりも家族に飯を食わせること。それが父さんにとって一番大事なんだ」
姉の言葉にそう反論する父親。
いつも家族想いの父親だが、姉もまた家族想い。
父親が自分を犠牲にしていると考えている節があり、ことあるごとに父親にこんな話をしていた。
「ちなみにだけど、自分のことだけでいいなら親父はどんな仕事したいの?」
携帯をしまい、姉は真っ直ぐ父親を見据えてそう聞く。
「そうだな……討伐者として活動するのも悪くないかもな。誰かのために働く。俺にはそういうのが性に合っているような気がする」
「皆を守るお父さん……ああ、考えるだけでキュンキュンしちゃうわー」
実際に父親が活躍している姿を想像しているのだろう、母親が体をくねって嬉しそうに笑いを浮かべる。
俺たちは呆れながら、そんな母親を見ていた。
「でも討伐者か……悪くないかもね。この際、皆で討伐者に参加してみるってのはどう?」
「なんで突然そんなこと言うの、お姉ちゃん?」
「討伐者になるにはスキルが必要になる。そのスキルってのは良し悪しがあってね、当たりを引けたら、一攫千金も夢じゃないのよ」
姉の説明に父親が興味を示す。
「スキルか……それは簡単に手に入るものなのか?」
「注射打つだけだって」
「注射か……どんなスキルが手に入るか試してみるのもいいかもな」
「じゃあ皆で行ってみる? 誰かが当たりを引いたら、お金持ちになれるなんて素敵だわ」
母親は胸の前で手を組み、金持ちになった時のことを想像している。
俺も同じように想像しようと試みるが……ダメだ、金持ちの想像がつかない。
良い車に乗って大きい家に住む。
それぐらいしかイメージが無い。
「それって僕も行かないといけないの?」
会話に参加せず、ゲームばかりしている弟の
長く伸ばした黒髪で顔が半分ほど覆われている。
表情は見えにくいが、嫌がっているようには見えない。
でもあまり行きたくないような、そんな印象だ。
「紅葉ちゃんが行きたくなかったら来なくてもいいわよ」
「でも家族のためなんでしょ。なら行くよ」
「やっぱり紅葉ちゃんも優しいのね。お母さん皆のこと大好き!」
そう言って紅葉の背中から抱きつく母親。
紅葉は嫌がることなくその行為を受け入れながらも、ゲームをする手は止めない。
「じゃあ皆で行こっか。ね、お兄ちゃん」
「ああ。当たりを引いたらバイトしないで討伐者をやるよ。それで皆に良い物食べさせてやろうかな」
「じゃあ私も! お金稼げたら、美味しいの食べに行こうね」
皆がお互いを思い合う優しい家族。
自分を卑下せず、対等に家族と接することができるのはこんな素敵な家族に囲まれているからだ。
皆が心からオレを受け入れてくれており、愛情を注いでくれている。
だからこそ皆を守りたい。
姉の貯金だってそこまであるわけではないだろう。
父親が仕事を探すとはいっているが、俺だって協力して家族のために頑張りたい。
これまでは甘えてばかりいたけど、そろそろ働いてもいいだろう。
そのためにできるのはバイトか、あるいは討伐者ぐらいだ。
スキルの当たりを引けたらいいんだけどな。
笑う家族を眺めながら、俺はそんなことを思案する。
そんな俺にはとんでもない結果が待ち受けているのだが、当然この時の俺はそんなことを知るはずもなく、優しい家族たちと笑い合うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます