第15話

「今年の部費の割り振り、考え直すことにした」

「那奈、突然どうしたの?」


 昼休み、他の部員たちが練習に勤しむ中、音楽室にて、福島那奈は、会計係の黒瀬朱音くろせ あかねと話していた。


「管楽器のリペア用の予算も、確保したい」

「まさか、皆実に言われたの!?」

「違う。これは、私の判断」


 朱音は、不安げな眼差しで那奈を見つめる。


「部長判断なら従うけど……私は反対だな。皆実のやりかた、間違ってるよ。卑怯だと思う」

「まあまあ」

「1年間じっくりヴァイオリン教えてくれた那奈のことも考えず、好き勝手して、恩を仇で返すようなことして。私だったら絶交してるよ」

「私が皆実と絶交したところで、すでに賽は投げられたからね」

「勝手に投げたの、皆実じゃん。あと、投げたのは賽というか匙」

「……」


 浅野皆実の主張は、間違ってはない。しかし、その独断を、快く思わない人たちもいる。この事実に、那奈は頭を悩ませていた。


「管希望の子たち、たぶん何人か入ると思う。なのに学校の楽器が使い物になりませんだと、話にならないでしょ? さすがにかわいそう」

「やりたいなら自分で準備すればいいじゃん」

「弦楽器はちゃんとメンテされてて使えるのに、管楽器は自分で買えって?」

「……ごめん……軽はずみな発言でした」


 視線を落とす朱音。


「でもさ、ほんとに入ってくるかね? 管希望の新入生。昨日の演奏でも、私たちの演奏と、皆実の演奏、ぜんぜん本気度が違ったじゃん」

「入ってくるよ……入ってくる」


 那奈はそう、確信していた。


「どうして那奈はそう思うの?」

「あのトランペットの子、上手だと思わなかった?」

「私、管楽器のこと全然分かんない。中学に吹奏楽部なかったから。あ~トランペットだ~くらいしか感想なかった」

「相当上手いんだよ、あの子。私の中学、吹奏楽強豪校だったけど、中3の時、あの子の中学に全国大会行き、取られてね。並の中学生では霞んでしまうほど、上手だった」

「詳しいね。那奈って吹奏楽やってたんだっけ?」

「皆実の応援に行ってたから」


 朱音は、那奈に気づかれない程度に、一瞬、表情を歪めた。


「合奏はみんなでやるもの。だけど、上手い子がひとりいるのといないでは、変わるもんよ。モチベーションも目標も変わるから。そして、上手い子のところには、上手くてやる気のある子が集まる。強豪校ってのはこれを繰り返すから、強豪校になる。もちろん、顧問の存在も大きいけどね」

「だから那奈は、新入生が集まるって思うの?」

「うん」

「皆実、そこまで考えて昨日の演奏をしたなら、大したもんね」

「そこまで考えてやったかは分かんないけどね」


 書類の整理をひととおり終えた那奈は、自分の楽器ケースに手を伸ばす。


「朱音」

「ん?」

「皆実のこと、よく思ってないのは仕方ないと思ってる。だから、無理に仲直りしてほしいとは言わない。でも、後輩たちは巻き込まないでね。関係ないんだから」

「……それは分かった。皆実には言いたいこと山ほどあるけど、我慢する」

「言うのは自由だけど、TPOわきまえて」

「はーい」


 那奈は、穏やかに微笑むと、自分の練習を始めた。


 窓から渡り廊下が見え、そこにはふたりの生徒がいる。見覚えのある姿。しかし、那奈はそっと目をそらし、自分の世界に没頭したのだった。

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