第7話 再び教会へ
ソーニャが懺悔に出向かなくなって数週間が経った。彼女は相変わらず鍛錬に励んでいたが、やはりどこかでユリウスのことがずっと気にかかっていた。
「……ああ、まったく。またユリウス殿のことを考えてしまった。本当に鬱陶しくて仕方ない。……だが、流石に言い過ぎたかもしれないからな。久しぶりに、顔を見に行くか」
その日の夜、ソーニャは教会を訪れることにした。
「おっ、ソーニャ。久しぶりだな。何だ、なんだかんだ言って俺に会いたくなったのか? まったく、素直じゃねえな」
ソーニャの姿を目にしたユリウスは破顔した。しかし、ソーニャは仏頂面である。
「いや、決してそういうわけではない。だが、この前はいささか言い過ぎたかもしれないと思ってな」
「ん? 顔も見たくないとか言ったこと?」
「……まあ、そうだな」
ソーニャはふいと顔を背けた。ユリウスはニヤニヤしながら、話を続ける。
「何だ、あんたにも可愛いとこあったんだな。別に俺は気にしちゃいねえから、心配すんな。……で、今日は何を話してくれるんだ?」
「私は、ただ詫びに来ただけだ。他に貴殿に用はない」
帰ろうとするソーニャの左肩を、ユリウスが捕まえる。彼の手に目をやると、それはごつごつと骨張っていた。いかにも男性の手という感じである。
「おい、待てよ。あんたに用がなくとも、俺にはあんだよ。あんたから話を聞くっつう用がな」
「……」
ソーニャはユリウスを軽く睨んだ。ユリウスはソーニャの肩から手を放した。
「おお、怖い怖い。別に俺だって、あんたを怒らせてえわけじゃねえんだよ」
「人の信仰を否定しておいて、何を言っているのだ。まったく、理解に苦しむ」
「いや、俺はあんたの目を覚ましてやろうと思って言ってるんだよ。老婆心ってやつ?」
「目を覚ます、だと? 何を世迷言を。神は確かに存在し、あまねく人々を見守ってくださっている。貴殿も聖職者ならば分かるだろう、この国の人々がどれだけ信仰に救われているか」
ソーニャの真剣な眼差しに、ユリウスは大きなため息をつき、頭をふるふると振った。
「あー、駄目だな、こりゃ。脳髄まで聖光教に侵食されてやがる。あんたを助けるのは骨が折れそうだ」
「なっ、侵食だと!? 何という言葉を使うのだ!」
「まあまあ、そうかっかしなさんなって。……そうだ、一ついいことを教えてやろう。教会は、人々を騙して金を巻き上げてんだ」
「……はっ!?」
ユリウスの口から出た言葉をすぐには理解できず、ソーニャは大声を上げた。ユリウスは慌てて彼女の口を塞ぐ。
「んぐっ」
「ちょ、声がでけえって。こんな話、ジジイどもに聞かれたらめんどくせえことになるに決まってんだから」
「……そんな話をいきなりされたら、驚かない方がおかしいだろう。どういうことなのだ、騙してるというのは」
「そのまんまの意味だよ。ほら、お布施ってあるだろ? 教会は、架空の神をでっち上げて、その神サマへの信仰の証として、国民から金をぶんどってんだ。ホント、悪質だよな。人の弱みにつけ込んで、暴利を貪ってんだからよ」
「だから、何度も言わせるな! 神は……リーアス神は、実在する!」
悲鳴に近い声で言い切るソーニャに、ユリウスは苦笑し、お手上げというように両手を挙げて首を横に振った。
「あーあ、もう手の施しようがないとこまで行っちまってんな、あんた。俺はなんとかして、一人でも多くの人を聖光教のまやかしから救いてえと思ってんだけどな」
「まやかし、だと? また貴殿は、そのような言葉を使うのだな。……やはり、もう私はここには来ない。二度と顔も見たくないと言ったことを詫びようと思ったが、撤回する」
「そうか、寂しくなるな。俺のちょうどいい退屈しのぎだったのに」
「私は、貴殿の暇潰しのために来ていたわけではない!」
叫ぶソーニャに、ユリウスは困ったように笑った。
「……なあ、あんた、何でそこまで聖光教を頑なに信じるんだ? もう来ねえっていうんだったら、最後に教えてくれよ」
「……」
ソーニャは腕を組んでしばらく黙っていたが、やがておもむろに口を開いた。
「……良かろう。もう二度と貴殿に会うことはないだろうからな」
彼女は一つため息をつくと、ぽつぽつと語り出した。
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