掌中の掌

要想健琉夫

掌中の掌

 私は全てを失った、全てを、私は、失ってしまった。

掌中しょうちゅうたまと言う物は、私の掌から転がり落ちて行ってしまい。

ただ、私だけが、この掌の中に残った。

 妻と娘は共に去って行ってしまった、本はと言えば、妻の不倫の所為だというのに、妻は私以外の見知らぬ男と身体を重ねた、私の気も知らずに、そんなに私じゃ満足しなかったのかと幾度も無く、考える。

それに伴わず、妻は娘を抱え、この家を出た。

 どうやら、不倫相手と暮らすらしい、勝手にしろ、彼奴だけが行くならそうは言いたかった、しかし、娘も連れて行くと言う事は、私は聞かされていなかった。

私は、妻が娘を抱えて去る、玄関で、必死に抵抗した、暴力で捩じ伏せる事等、容易かった筈だが、私は何処までも臆病であった、妻と娘は私の抵抗も虚しく、家から去った、去って行ってしまった。

 娘は、妻の腕に抱かれながら、必死に小さな腕を私の方に伸ばし、泣いていた、泣き喚いていた。

私はそれを、尻目にしても、何も出来なかった、出来なかったのだ。

 私は、暴力を振ってでも、妻を止めなければならなかったのだろうか、そんな事ももう解りやしない、私は大切な愛娘の為にあの裏切り者を排除しなければならなかったのか、もう解らない。

 私はたった、一晩にして、大切な愛娘と嘗て恋した女を、奪われたのだ。

 私は、遣る瀬無い気持ちをその心に浮かべながら、娘の為に買ってやった、もう使われやしないであろう、玩具をリビングのソファーに投げた。

私は、ふと我に返って、おずおずとした態度で、玩具を取りに、ソファーに手を掛けた。

ソファーはまだ温かく、温もりが残っていた、私は目頭を熱くしながらも、もう泣く事は見っとも無いと思って、涙を抑えた。

 私は、玩具を拾ってから、嘗て家族であった、二人の部屋を片付ける事にした。

私は、リビングを出て、廊下へと出た。

 私は、脚を動かし、夜に成って、真っ暗な廊下を歩いた。

 廊下には唯私の足音しか響いていなかった。

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