第六話 グリナの苦悩



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「あはは。ドラスさーん。私元気でづよ!だからいつでも戻って来てくださいお!」



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「ん?ドラスさんが、一人で戦いに行った?!行きます!私も行かせてください!!」



 それからだったなー。本当に、急いで休暇から戻って、杖の手入れ、なんか色々して自分をすぐに駆けつけて、それで急にドラスさんがいないみたいな話しを聞いた時は上手く呼吸が出来なかった。すぐに勇者パーティーの皆が集まると私は、嬉しく思いながら出立するギリギリまで公務を行っていた。その後は、ユイドさんがエルデルさんとゼゴラさんが生きていたらしくて、私達は凄く喜んだ。ニーナさんも最初は受け入れていなかったけど、顔をベタベタ触ったりして、何度も抱擁を交していた。あのときのドラスさんのお仲間さんたちが、どうやらエルデルさんやゼゴラさんを秘密裏に死んだことにして、しばらく身を潜めていた。エルデルさんはその間に、十分に休息を取ると、意地でもニーナさんに会いに行こうとしてたが、エルデルさんがもしも生きていると王国側にバレても、またあの地獄に行かされるだけったので、しばらくドラスさんが説得してなんとか秘密裏に動いていたらしい。



ちなみに2人ともユイドさんにしっかり殴られていて、痛そうにしていたけど、なんだか前の勇者パーティーの時に戻ったみたいで少しだけ嬉しかった。そして、今回の問題は、魔神が復活する可能性があるということ。そしてそれに近隣の国が関与していて、既にドラスさん率いる部隊が行っているらしいけど、作戦は続行不可能と手紙が遙か魔王城があった場所から遠く離れたヴァハニト王国に手紙が届いた。そして、そこには『青鉄の騎士ドラス』が単独で、一ヶ月以上魔神幹部を足止め中、至急勇者パーティーの招集を』とまるで急いで書いたような手紙が一ヶ月経ってからこのヴァハニト王国に来ていた。そして、その距離を移動するには、私の使える転移魔法にて行くしかなかった。幸いなことに、以前使っていた転移魔法があったので、それを再利用することになった。



 そして、行く直前の日になると、少しだけ猶予をもうけてもらった。そして、行く日になると、ドラスさんがいた街にあるいつも泊まっていた宿から出ると、すぐそこには、コワモテのお兄さんやお姉さんたちがいて、手に何かを持っていた。それは、かつて、私たちが魔王を討伐した時に身につけていた杖に似た物だった。



「ドラスの兄貴、いえ、ボスがこれをと、以前魔王軍が襲って来たときに魔竜エグゾードを討伐した時の素材で作られたものです。魔王との戦いの時よりはそんなにでしょうが」

「...すいません。ありがとうございます」

「俺達の兄貴を頼みます!!」



 たったそれだけの言葉で、ドラスさんがいかにこの街で好かれているのかが分かった。本来だったらボスというなら、もう少し怖そうな顔をしそうなのにも関わらず、それが全くない。ドラスさんが深く信じられている証拠だと思った。それに、魔法士用のローブまでもらって私は深く感謝をしながら城へと向かった。なんでか分からないけど、今まで以上に魔法が使えるそう思った。そして、城へ向かうと謁見場へ向かい、謁見を済ませると、すぐに皆と合流した。



 中に入るとユイドさんやゼゴラさん、エルデルさん、ニーナさんが既にいて、みんなそれぞれ、装備が以前と違っていた。そして、それは私もで、なんとなく皆も気づいていた。きっと皆ドラスさんにもらったのだろうと思うと私はやっぱりあの人は、優しくて、誰よりも仲間思いのいい人だ。そういう誰にでも優しいところが好きだった。だから、絶対に帰ってきて、なんでもアタックして、絶対ドラスさんの彼女になってみせる!!



 だけど、物事はそう上手くことは運ばなかった。それに、普通に考えていたら分かることだった、連絡が来たのは一ヶ月前で、更に一ヶ月前からドラスさんは戦っていたのだ、正直言って私だって絶望的だと思っていた。だけど、もしも生きているなら助けなきゃいけない。それに私は絶対に生きてるって信じてるから絶対にドラスさんは生きてる。だから、絶対に信じる。



そして、転移を始めると、おそらく魔神幹部の誰かしらの能力で転移が妨害されているけど、無理矢理こじ開けるとそのまま転移魔法を使ってその場から移動する。人類の中間防衛ラインの要塞に着くと私たちはとにかく情報を集めた。



 ニーナさんも初めは聖魔法や、治癒魔法が扱えなかったけど、祈りを捧げ、エルデルさんと手を握るとまたあの時のように魔法を扱えていた。そして、情報収集をしていると、斥候の方が帰って来る。顔が紫色に変化していることから魔の魔力をかなり浴びたのだろう、顔面蒼白で、今にでも倒れそうだった。



「ドラスさん...は、一人で、戦って」



 それだけ言うと気絶し、すぐに持ってきた物資で動ける騎士に預けるとすぐに出立する。そして、要塞の正面にあった、青く輝いている槍が一本だけ刺さっていた。おそらくこれはドラスさんに背中にあった槍の一つで、結界を張り、魔物や他国の侵入、魔神の手下などの攻撃から守っていることが分かった。これがまだ動いているということは、まだ生きている!そう思うと私たちはすぐに飛び出した。




 途中まで馬で行って、逃げ出したくなるような距離まで申し訳ないけど、連れて行ってもらった。そしてその瘴気が濃い部分に着くと、聖女ニーナさんが瘴気を払い、先に進めるようになった。先に進むと地面には、大量の他の国の騎士や、魔物、魔神が生み出した尖兵ネグレクトの死体がいくつもあった。それの上位種や、魔神幹部の死体まで。それがずっと先の方まで続くのを見ると私は、きっとこの先にいるのだと信じて歩みを止めない。



ドラスさんが殿を務めたことで幸い死者はそんなに出ていない。軽傷者、重傷者はかなり出たが、死者が本来の戦争をした時よりも少ないのはきっと幸運だと思った。先に進むと奥からとてつもなく大きい、魔神がいた。黒い角が頭に二つあり、黒い翼、禍々しいまでの爪、それにその身に纏う瘴気の密度。全てが最凶クラスで、私たちは息を呑む。



 そして、私たちはドラスさんを見つけた。立った状態で笑みを浮かべたドラスさんの姿を。その姿はまるで物語で出て来る英雄のようで、身体中に穴が開いていて、血液が身体から流れないぐらいだったのだろう、左腕すらなく、ただ正面を見つめていて、立ったまま死んでいた。視線の先には、魔神幹部であろう死体があり、おそらく魔神幹部を一人で全員倒したのだろう。そしてその結果あの槍を使い過ぎた、もしくは、大量に血液を失ったことで死んだのか分からないけど。



私は、その事実を受け止めることが出来なかった。ただ、立ち尽くしていた。だけど、あまりにドラスさんの笑顔が綺麗で、そして、本当にやり切ったという顔を見ると私は胸が来るしくなって張り裂けそうだった。ドラスさんは腕を切られたのだろう。既に左腕はなく、右手で最後まで戦おうとしていたのがわかった。



 ユイドさんが「バカ野郎!ドラスお前なんで死んだ!!」とか言ったりして、ドラスさんに聞くが、ドラスさんは答えない。それどころか、ユイドさんはドラスさんの顔を見ると何も言えないでいた。



だって、本当に幸せそうで、もう何も思い残すことはないって顔をしていて、私は、少しだけイラついた。私の告白を断って来たけど。勝手かもしれないけど、私はドラスさんが好きだっtqのに。許さない。魔神め、必ず倒す!!



 私が生き急いで魔法を使うとニーナさんに止められるが、納得いかず何発も魔法を打ち込む。するとゼゴラさんが前衛に出て、その後にエルデルさんとユイドさんが前に出ると前と陣形は同じだった。



「聞いてグリナ。ドラスさんは、グリナ、あなたと私たちを信じて来れていたの。女神様よりもよっぽど信じていて、絶対勝てると」

「...」



 私は黙って首を縦に振るとそこからの記憶はあんまりないドラスさんに抱きつき、少しの間だけ泣いていると段々とユイドさんたちが劣勢になって来て、私も動くことにした。動く時はドラスさんにキスをして、最大火力をお見舞いして上げた。そして、私たちが戦っていた時に奇跡は起こった。



 急に背後にある要塞にあったはずの青い槍が地面に刺さる。それを見た瞬間、一瞬だけど、ドラスさんが動かしたのだと思った。魔力とは違うもっと別の何かで。そして、最大火力をぶつけるために、エルデルさんとユイドさんが攻撃の準備をする。その間にゼゴラさん中心に気をこちら側に集めて時間を稼ぐ、しかし、ゼゴラさんでも厳しく、途端に破られそうになると青い槍が魔神の身体に突き刺さり、一瞬で身体中に青い鎖が出てくる。動きを止めると、二人の攻撃が炸裂し、魔神を討伐することに成功した。



戦いが終わると皆地面に手を着く。だけど、私はそのまま後ろを振り向くと、幻なのか分からないけどドラスさんが一瞬だけ動いていた気がして、だけど、そんなのはすぐに消えた。



『ありがとう』



 消える直前にきっと皆んなに送った最後のメッセージだったのがわかった。ドラスさんの幻影なのか、本人だったのか、分からないけど、ドラスさんがいなくなった瞬間に全ての青い槍から色が失われる。それは、まるで、役を終えたかのようで、私はつい手に取ってしまった。すると血がのりのように付いていて、頑張ったんだなと心から思った。



 そして、魔神を倒した私たちは、私の転移魔法で王国に戻ると、すぐに王様に連絡を取り、すぐに治療が行われた。これでも、かなりの全員満身創痍で、ギリギリの戦いだった。私とニーナさんはすぐに目覚めたけど、エルデルさんとユイドさん、ゼゴラさんはすぐには目を覚さなかった。ニーナさんが少しだけ不安がっていたけど、今回は心配はしているものの、どこか必ず帰ってくると信じているのだろう。



 そして、一週間後に全員が起きると、すぐに王様の元へと報告をしに向かう。するとそこで言われたのは各国からの停戦協定だった。領土は欲しいがそちらの好きな条件で呑むと言う話しで、少し怪しく思ったらしいけど、魔神を討伐したことがすぐに広まるとまるでかつての魔王を討伐する前の姿に戻っているのだと思った。



 そして、少しだけ日にちが開けるとドラスさんの埋葬と、それを悔やむ催しを王自らが、志願した。名は、ドラス。そして、『青鉄の騎士』、勇者パーティー最後のメンバーとして墓石には書かれることになった。英霊として安置される場所は英霊の墓にて厳重に保管される。元の武具は、遺族に渡されるか、遺族が断れば国宝として宝物殿に入れられることになる。



 ドラスさんの亡くなった時の顔が頭をよぎりながらも、ドラスさんの遺体を見る。身体の色は完全に真っ青になり、ニーナさんの再生魔法によって痛々しかった身体の傷は癒やされていた。今にでも動きそうで、私は本当はただ皆と同じように、眠っているだけなんじゃないかと思ってしまう。



それから、私は、勇者パーティーの仲間として最大限の敬意と、安寧を込めて一応は体裁を整えながら祭礼を行った。ただ、ユイドさんは、言いたいことがあると言って、少しだけ時間をくれるように言って来た。すると雨が降ってくる。まるで私たちの心を表しているようで、切なかった。涙が止まらなかった。



 ユイドさんはしばらく、泣きながら何かを言っているみたいだったけど、最後はきっと言い切ったのだろう。それを言うと、こちらに戻って来た。



「グリナ。お前も言いいたいことあるんだろう?今しか言えないから言って来い」

「ああ。僕たちの気持ちも頼む」

「あいつには助けられてっぱなしだからな。今度酒を持ってくって言ってくれ」

「...あなたのおかげで立ち直ることができました。どうか、安寧と、安息を、そして感謝を捧げます」

「....うん」



 ゆっくり歩いて行くと、石で出来たお墓の前に立つ。すると今まで耐えていたはずの涙が止まらなくなって、目の前が霞んで見える。言わなきゃいけないことがたくさんあって、伝えなきゃ行けないこともあるのに。悲しくて、辛くて、受け止めるには余りにも短くて、英霊としてお墓に入れば実際に姿を見ることは出来ない。



ドラスさん、エルデルさんは命を救われたことに感謝を、ニーナさんも立ち直るための助けをありがとうと、そして、ゼゴラさんも今度酒を持って行くって、ユイドさんは、安心して眠れだそうです。



「ああぁぁ!でも、私は!生きていて、欲しかった。せめて選ばれなくてもいいから!あなたの生きている姿が見られれば、それで十分だった!なのに!いない!ドラスさん私はこれからどうしたらいんですか?」

「...」

「何か言ってくださいよ。いつものあの優しい声で」

「...」

「私頑張ったんですよ!村の期待に応えて!国の期待に応えて!魔王も倒して、魔神まで倒して!なのに、こんななんて、ふざけるなぁ!」



 そう言うと私は泣き崩れて、まるでドラスさんに懺悔するような格好になってしまった。しかし、私は続ける。続けなきゃいけない。



「ドラスさん。ねえ。もう一度帰って来ませんか?皆さん生きてます。私も」

「その報酬があったって良いじゃないですか!ドラスさん!私頑張ったんですよ!」

「...」



 何も言ってくれない。誰も、皆んなには、大切な人がいる。でも、私には、ドラスさんしかいないって言うのに。それで、婚約のことを話されたって、嬉しくない。私にはこの人が運命の人だ。赤い糸で結ばれてるって信じてる。だから、生き帰って慰めてください。



「ドラスさん!」



 しかし、返事は帰ってこない。かけて欲しい言葉を、声を聞きたいのに聞こえない。意味が分からない。私もドラスさんも頑張ったのに、こんな仕打ち。絶対に認めない。私がなんとかする。だから、今だけは、泣かせてください。





 





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