検証(3)
「ふむ……。となると、犯行が可能だったのは全部で五人か」忠岡が話をまとめるように言った。
「晩餐会の途中で席を外した星影、鳳凰殿エマ、ファウスト阿久津。そして晩餐会を欠席した遠藤と悲伝院美智流……。もちろん外部犯の可能性もあるから、このうちの誰かが犯人と決まったわけじゃないが……」
「ねぇ、それよりあなたはどうなのよ?」エマが忠岡を指差した。
「さっきからずっと仕切ってるけど、あなたは席を立たなかったわけ?」
「あいにくだが、俺はずっと食堂にいた。星影に聞けばわかることだ」
「あ、そうですね……。忠岡さんはずっと席にいたと思います」星影が頷いた。
「ふむ。だが君が離席した後のことは定かではない」滝沢がパイプで星影を指した。
「ディレクター君の右隣は元々空席だ。左右が空席なら、離席しても誰も気づかなかった可能性もある」
「左右が空席の時間があったのは事実だが、正面には出栗さんがいる。俺が席を外せばすぐ気づいたと思うが」
「あ……はい、そうですね。忠岡さんはずっと食堂にいらしゃったと思いますよ」出栗があたふたと答えた。「もちろん私もずっと見ていたわけではありませんので、百パーセント確実というわけではありませんが」
「ちなみに、出栗さんも席を立たなかったはずだ」忠岡が付け加えた。「阿久津と熱心に話し込んでいたのを覚えている」
「ふむ、いいだろう」滝沢が頷いた。「ならばディレクター君とジャーナリスト君は除外するとして、他の関係者の行動の検証に入ろうじゃないか。
まず僕自身だが、一人で食事とワインを嗜んでおり、離席はしていない。鳳凰殿君と阿久津君が証人になってくれるはずだよ」
「さぁどうかしら。あたし、慎ちゃんのことしか見てなかったから覚えてないわ」エマが素っ気なく言った。
「私もあなたにはさして関心を払っていませんでしたからねぇ……。あなたが本当に席に着かれていたかどうか、確証はありませんよ」阿久津が薄笑いを浮かべて便乗した。
「おや、そうかい? このエリート滝沢を見ていないとは……君達の目は注目すべき対象を誤っていると言わざるを得ないね」
滝沢が気分を害したように言った。アリバイを証明してもらえなかったことよりも、自分が注目されていなかったことが不満のようだ。
「……まぁいい。ひとまず他の人物に話題を移そう。まずは君だ、倉敷君。君はずっと食堂にいたのかい?」
滝沢が夜未の方を見やって尋ねる。つられて室内の視線が一斉に彼女の方に注がれ、夜未はそこから逃れるように膝の上に乗せていた狐のぬいぐるみを見つめた。
「ちょっと滝沢さん、夜未ちゃんを疑ってるんですか?」星影が慌てて口を挟んだ。
「夜未ちゃんはまだ十歳なんですよ? しかもご両親が迎えに来られなくなって、一人で知らない家に泊まることになって不安でいっぱいなんです。そんな子を疑うなんて……」
「なに、僕は可能性を全て検討しておきたいだけさ」滝沢は気にした様子もなく答えた。
「それで? 倉敷君、君は席を立たなかったのかい?」
夜未はしばらく黙りこくっていたが、一分ほど経ってからようやく「……よみ、どこにもいってない」と答えた。だが、それを聞いた遠藤がすかさず鼻を鳴らした。
「はっ。どうだかな。お前の席は端で、向かいには誰もいない。しかもほとんど喋らねぇから存在感もねぇ。こっそりいなくなったって気づかれやしねぇだろうよ」
「遠藤さん……止めましょうよ。相手は十歳の女の子ですよ」星影が窘めた。
「けっ。最初に喧嘩売ってきたのはそっちじゃねぇか。人にされて嫌なことはするなって学校で習わなかったのか?」
遠藤が顎を上げて威圧するように夜未を見下ろす。夜未は無言で俯いた。
「まぁ、倉敷君のことはひとまず置いておこう」滝沢が言った。
「残る容疑者は二人。まずは執事君だが、彼は雇い主君と共に食堂を出た後、しばらく戻ってこなかった。犯行の時間は十分にあっただろう。問題は残りの一人だね」
「残りの一人? 誰のことですか?」星影が眉根を寄せた。「今までの話で、全員の行動を洗い出せたと思うんですけど」
「おや、君は肝心なことを忘れているようだね。いるじゃないか。未だ僕達の前に姿を見せていない、この屋敷のプリンセスがね」
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