## パート6:学院への道

**レイの視点**


時が流れ、僕は十二歳になった。フレイムは十一歳、ルナとスカイは十歳。僕たちの力は日に日に成長している。


「レイ、集中して!」


父さんの声に、僕は我に返った。四源調和の訓練中だ。


「ごめん、父さん」


僕たち四人は円になって手を繋ぎ、それぞれの力を一点に集中させる。氷と虚無、炎、闇、風と星...四つの力が交わると、美しい虹色の光が生まれる。


「素晴らしい」父さんが満足げに頷いた。「四源調和が完成に近づいている」


「父さん」僕は訓練の後で尋ねた。「僕たち、そろそろ学院に行けないかな?」


父さんの表情が変わった。これまで僕たちは安全のため、屋敷で家庭教師から教育を受けてきた。でも、外の世界に出たい気持ちが強くなっている。


「そうね...」エリザベートお母さんが考え込んだ。「もう年齢的には入学の時期ね」


「でも危険じゃない?」リリアお母さんが心配そうに言った。


「いいえ」シャーロットお母さんが静かに言った。「彼らの力は十分に成長した。それに、永遠に屋敷に閉じ込めておくわけにもいかないわ」


「星の道も平穏を示しているわ」アリアお母さんが付け加えた。


父さんは深く考え込んだ後、ついに頷いた。「わかった。来月から王立魔法学院に入学させよう」


「やったー!」僕たち四人は歓声を上げた。


「ただし」父さんは厳しい表情になった。「いくつか条件がある。一つ、常に四人一緒に行動すること。二つ、異変があればすぐに報告すること。三つ、力の使用は最小限にとどめること」


「はい!」僕たちは揃って答えた。


その夜、僕は興奮して眠れなかった。ついに外の世界に出られる。同年代の友達もできるだろう。


「レイ兄ちゃん、起きてる?」


ドアが開き、フレイムが顔を覗かせた。彼女の後ろにはルナとスカイもいる。


「みんな、どうしたの?」


「学院に行けるって聞いて、興奮して眠れないの」フレイムが嬉しそうに言った。


「私も」ルナが珍しく感情を表した。


「僕、ちょっと怖いけど...楽しみ」スカイが小さな声で言った。


「大丈夫だよ」僕は三人を安心させた。「僕たちには四源調和の力がある。それに、父さんたちも見守ってくれる」


「レイ兄ちゃんは強いもんね」フレイムが目を輝かせた。「父さんみたいに」


「まだまだだよ」僕は照れた。「父さんは本当に強い。五人のお母さんたちを魅了するほどの力と魅力がある」


「父さんのハーレム、すごいよね」フレイムが無邪気に言った。


「フレイム!」ルナが彼女をたしなめた。「そんな言い方...」


「でも事実じゃない」フレイムが反論した。「父さんは五人のお母さんたちと結婚してるし、みんな父さんのことが大好きだもん」


「確かに...」スカイが考え込んだ。「父さんはすごいよね。強くて優しくて...」


「僕も父さんみたいになりたい」僕はつぶやいた。「強くて、多くの人に愛される人に」


「レイ兄ちゃんなら絶対なれるよ!」フレイムが元気よく言った。


四人で夜更けまで話し込み、学院での生活について夢を膨らませた。


一ヶ月後、入学の日がやってきた。王立魔法学院は王都の中心にある荘厳な建物で、国内最高の魔法教育機関だ。


「緊張するな...」僕は学院の門の前で呟いた。


「大丈夫よ」エリザベートお母さんが僕の肩に手を置いた。「あなたたちならきっとうまくやれる」


「困ったことがあったら、すぐに連絡するんだよ」父さんが真剣な表情で言った。


「はい!」僕たちは揃って答えた。


入学式は盛大だった。大広間に集まった新入生たちの中で、僕たち四人は特に注目を集めていた。


「あれが灰崎零の子供たちだって?」

「クリスタル家の血を引いているんだよね」

「四人とも特別な力を持ってるらしい」


囁き声が聞こえてくる。僕たちの家族は有名なのだ。


「気にしないで」僕は三人に小声で言った。「ただ普通に振る舞おう」


クラス分けが発表され、僕たちは特別クラスに配属された。父さんの血を引く者として、最高レベルの教育を受けることになったのだ。


特別クラスの教室に入ると、十人ほどの生徒がいた。全員が名門の子弟か、特別な才能を持つ者たちだ。


「あ、灰崎家の人たちだ!」


明るい声で話しかけてきたのは、金髪の少女だった。


「私、ソフィア・ブライトハート!よろしく!」


「あ、よろしく」僕は少し驚きながら挨拶した。「僕はレイ・灰崎。こっちはフレイム、ルナ、スカイ」


「知ってるよ!」ソフィアは目を輝かせた。「灰崎零様の子供たちでしょ?すごいなぁ!」


彼女の明るさに、僕たちも自然と打ち解けていった。


しかし、教室の隅からは冷たい視線を感じる。黒髪の少年が、腕を組んで僕たちを見つめていた。


「あれは誰?」僕はソフィアに小声で尋ねた。


「ダーク・シャドウよ」彼女も小声で答えた。「シャドウ家の一人息子。とっても優秀だけど、性格は...ちょっと難しいかも」


授業が始まり、僕たちは魔法の基礎から学び始めた。父さんたちから既に多くを学んでいた僕たちにとって、授業内容は簡単だった。


「では、実践練習に移りましょう」教師が言った。「基本の火球魔法を順番に披露してください」


生徒たちが一人ずつ前に出て、火球を作り出していく。多くの生徒は小さな火球しか作れなかったが、ダーク・シャドウは人の頭ほどの大きな火球を作り出して、教師を感心させた。


「さすがシャドウ家の後継者だね」教師が褒めた。「次は...レイ・灰崎君」


僕は前に出た。父さんの教えを思い出し、手のひらに集中する。


「基本の火球なんて、朝飯前でしょ」


ダークの冷たい声が聞こえた。明らかに僕を挑発している。


「レイ兄ちゃん...」フレイムが心配そうに見ている。


僕は深呼吸し、手のひらから火球を生み出した。しかし、普通の火球ではなく、氷と虚無の力を混ぜた特別なものだ。青白い炎のような球体が浮かび上がり、教室中を明るく照らした。


「こ、これは...!」教師が驚きの声を上げた。「氷炎球!上級魔法じゃないか!」


クラスメイトたちがどよめく。ダークの表情が曇った。


「すごい、レイくん!」ソフィアが拍手した。


「ふん、運がよかっただけだろ」ダークが冷たく言った。「灰崎零の息子だからって、特別扱いされて...」


「何か言ったか?」僕は静かに尋ねた。


「言ったさ」ダークが挑戦的に前に出てきた。「お前たちは親の名前で生きてるだけだって。本当の実力なんてないんだろ?」


「ダーク!」教師が注意した。


「いいんです」僕は教師を制した。「彼の言いたいことはわかります」


僕はダークをまっすぐ見つめた。「確かに僕たちは有名な親を持っている。でも、それは僕たちの本質じゃない。自分の力で道を切り開くつもりだ」


「口だけなら誰でも言える」ダークは冷笑した。「証明してみろよ」


「どうやって?」


「放課後、訓練場で勝負だ」ダークが挑戦状を突きつけた。「お前と俺、一対一で」


クラス中が息を呑む。


「いいよ」僕は冷静に答えた。「受けて立とう」


「レイ兄ちゃん...」フレイムが心配そうに近づいてきた。


「大丈夫」僕は彼女に微笑んだ。「父さんの教えを思い出すよ。『力は示すべき時にのみ示せ』ってね」


授業が終わり、放課後の訓練場には多くの生徒が集まっていた。噂は瞬く間に広がったのだ。


「灰崎零の息子とシャドウ家の後継者が対決するんだって!」

「どっちが勝つと思う?」

「さあ...どっちも相当な実力らしいよ」


訓練場の中央に、僕とダークが向かい合って立った。


「ルールは簡単だ」ダークが言った。「先に相手を場外に出すか、降参させた方が勝ち。魔法は自由に使っていい」


「了解」僕は頷いた。


「始め!」審判役の上級生が叫んだ。


ダークは一瞬で動き、手から黒い炎を放った。確かに実力は本物だ。


僕は左手を上げ、氷の盾を作り出して攻撃を防いだ。


「なかなかやるじゃないか」ダークが認めた。「でも、これからが本番だ!」


彼は次々と攻撃を仕掛けてくる。黒い炎、風の刃、雷の矢...多彩な魔法を操る能力は見事だった。


僕は防御に徹していた。父さんの教えで、「必要以上の力は見せるな」という言葉を思い出していたからだ。


「なんだ、防御しかできないのか?」ダークが挑発してきた。「さすが偽物だな!」


「偽物?」僕は眉をひそめた。


「そうさ」ダークの目が憎しみに燃えた。「お前のような者が灰崎零の息子のはずがない。あの伝説の魔法使いの子なら、もっと強いはずだ!」


その言葉に、僕の中で何かが切れた。


「わかった」僕は静かに言った。「少しだけ、本気を見せよう」


僕は左手を上げ、漆黒の光を放った。父さんから受け継いだ虚無の律動の力だ。


「なっ...!」ダークの表情が変わった。


漆黒の光はダークの攻撃を全て吸収し、彼の周りを取り囲んだ。


「これが...虚無の律動...」観客たちがざわめいた。


「信じられない...」ダークは後ずさった。「本当に...」


「まだある」僕は右手も上げた。今度は氷結魔法だ。氷の結晶が空中に浮かび、漆黒の光と交わる。


「氷虚無の調和...」


氷と漆黒が混ざり合い、青黒い光となってダークに迫った。彼は必死に防御魔法を唱えたが、光はそれを突き破り、彼を場外まで吹き飛ばした。


「勝者、レイ・灰崎!」審判が宣言した。


会場は静まり返った後、大きな歓声が上がった。


僕はダークに近づき、手を差し伸べた。「立てる?」


ダークは一瞬僕を見つめ、そして手を取った。「認めるよ...お前は本物だ」


「敵対する必要はないんだ」僕は静かに言った。「お互いの力を認め合い、高め合おう」


ダークは少し考え、そして小さく頷いた。


その日から、学院での僕たちの評判は一変した。特にダークとは、ライバルでありながらも、少しずつ理解し合える関係になっていった。


「レイ兄ちゃん、かっこよかった!」フレイムが放課後、僕に抱きついてきた。


「まあまあだったわ」ルナも珍しく褒めてくれた。


「僕も、レイ兄ちゃんみたいになりたい...」スカイが目を輝かせた。


「すごかったよ、レイくん!」ソフィアも駆けてきた。「あんな魔法、見たことない!」


「ありがとう」僕は照れながらも、嬉しさを感じていた。


家に帰り、今日のことを報告すると、父さんは複雑な表情を見せた。


「力を見せてしまったのか...」


「ごめんなさい、父さん」僕は頭を下げた。「でも、必要だったんです」


父さんはしばらく考え、そして微笑んだ。「まあいい。時には力を示す必要もある。ただ、傲慢にならないように」


「はい!」


「それにしても」リリアお母さんが嬉しそうに言った。「レイったら、もう女の子にモテモテなのね」


「え?」僕は驚いた。


「ソフィアって子、レイに気があるみたいよ」リリアお母さんがウインクした。


「そ、そんな...」僕は顔を赤らめた。


「まあ、零に似て当然ね」エリザベートお母さんが微笑んだ。「彼も若い頃から女性にモテたもの」


「特に美少女たちを魅了する才能があったわね」シャーロットお母さんが珍しく冗談めかして言った。


「星が示していたわ」アリアお母さんも笑った。「レイも父親似になるって」


「もう、やめてよ」僕は恥ずかしさで顔を覆った。


父さんは僕の肩を叩き、「大変だな」と笑った。


学院生活が始まって一週間。僕たちは少しずつ新しい環境に馴染んでいった。そして、新たな友達も増えていく。


特にソフィアとは親しくなり、休み時間には一緒に過ごすことが多くなった。彼女は明るく優しい性格で、クラスの人気者だ。


「レイくん、明日の魔法史のテスト、一緒に勉強しない?」ソフィアが放課後、僕に声をかけてきた。


「いいよ」僕は微笑んだ。「図書館でどう?」


「うん!」彼女は嬉しそうに頷いた。


「レイ兄ちゃん、私も行く!」フレイムが割り込んできた。


「私も」ルナが静かに言った。


「僕も...」スカイも加わった。


「もちろん」僕は頷いた。「みんなで勉強しよう」


ソフィアは少し残念そうな表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。「いいわよ!みんなで勉強会ね!」


この平和な日々が続くことを願いながら、僕たちは新しい生活を楽しんでいた。しかし、心のどこかでは、暗黒同盟の脅威がまだ去っていないことを感じていた。


七つの鍵と永遠の扉...その謎は、まだ完全には解けていないのだから。

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