## パート3:次世代の目覚め

「はっ!」


レイの気合とともに、氷の矢が的を射抜いた。


「素晴らしい、レイ!」俺は息子を褒めた。「集中力が増しているぞ」


「ありがとう、父さん!」レイは嬉しそうに笑った。


特別訓練が始まって一週間。子供たちの成長は目覚ましかった。特にレイは、氷結魔法と虚無の律動の基礎を驚くほど早く習得していた。


「次はフレイム」俺は赤髪の少女に声をかけた。


「はい!」リリアの娘は元気よく前に出た。彼女の手から炎の渦が生まれ、的を完全に焼き尽くした。


「力強いね」俺は頷いた。「でも、制御にも気を配るんだ」


「はーい」フレイムは少し恥ずかしそうに笑った。


ルナとスカイも順番に魔法を披露した。ルナの闇の力は繊細で正確、スカイの風魔法は柔軟で創造的だ。


「みんな、今日は特別なことを教えよう」俺は四人を集めた。「力を合わせる方法だ」


「力を合わせる?」レイが興味を示した。


「そう」俺は頷いた。「一人一人の力は素晴らしいけれど、それを合わせるとさらに強力になる。これが『調和の魔法』の基本だ」


子供たちの目が輝いた。調和の魔法は、俺と四人の妻たちが開発した新しい魔法体系。互いの魔法を増幅し合い、新たな効果を生み出す。


「まずは二人ずつ組んでみよう」俺は提案した。「レイとフレイム、ルナとスカイ」


子供たちは指示に従い、二人一組になった。


「レイの氷とフレイムの炎。一見相反する力だけど、二つを調和させれば、蒸気の力が生まれる」


二人が力を合わせると、確かに温かい蒸気が生まれ、それが渦を巻いて上昇した。


「すごい!」フレイムが喜んだ。


「ルナの闇とスカイの風。これを合わせると...」


二人の力が交わり、黒い風が生まれた。それは音もなく動き、周囲の物を通り抜けていく。


「見えない風...」ルナがつぶやいた。


「そう」俺は頷いた。「これが調和の力だ。互いの個性を生かしながら、新たな力を生み出す」


訓練を続ける中、突然アラームが鳴り響いた。屋敷の防衛魔法が発動したのだ。


「父さん!」レイが不安そうに俺を見上げた。


「心配ないよ」俺は冷静に言った。「みんな、屋敷の中央ホールに集まりなさい。そこが一番安全だから」


子供たちを急いでホールへと導き、四人の妻たちと合流した。


「何があったの?」エリザベートが緊張した面持ちで尋ねた。


「侵入者だ」俺は答えた。「北の森から複数の気配がする」


「暗黒同盟?」リリアが警戒した。


「おそらく」俺は頷いた。「子供たちをここで守ってくれ。俺が対処する」


「一人では危険よ」シャーロットが反対した。


「大丈夫」俺は自信を持って言った。「ここ数日、新しい防衛魔法を仕掛けておいた。それに...」俺は微笑んだ。「俺は最強なんだから」


四人は少し安心した様子を見せたが、それでも心配の色は隠せない。


「父さん...」レイが俺の袖を引いた。「気をつけて」


「もちろんだ」俺は息子の頭を撫でた。「すぐに戻ってくるよ」


屋敷を出ると、既に護衛兵たちが戦闘態勢を取っていた。彼らの先頭に立ち、俺は森の方向へと向かった。


「灰崎様」護衛隊長が駆け寄ってきた。「約20名の侵入者を確認しました。黒いローブを着ています」


「やはり暗黒同盟か」俺はつぶやいた。「彼らを生け捕りにしたい。可能な限り殺すな」


「はっ!」


森の縁に近づくと、黒いローブの集団が見えた。彼らは屋敷に向かって進んでいる。


「ここまでだ」俺は彼らの前に立ちはだかった。


「灰崎零...」先頭の人物が低い声で言った。「ついに会えた」


「何の用だ?」俺は冷たく尋ねた。


「我々は『暗黒同盟』」男は言った。「そして我々の目的は明白だ...次世代の器を求めている」


「子供たちには手を出させない」俺の左手から漆黒の光が放たれ始めた。


「抵抗するつもりか」男は笑った。「我々は十五年前の暗黒結社とは違う。より強く、より賢く...」


「それは見てみたいものだな」俺は静かに言った。


男が手を上げると、黒ローブの集団が一斉に動き出した。彼らの手から様々な魔法が放たれる。火、水、風、土...多様な属性の攻撃だ。


しかし、俺は微動だにしなかった。左手を上げると、漆黒の光の壁が現れ、全ての攻撃を吸収した。


「これが...虚無の律動」男が驚いた声を上げた。


「驚くのはまだ早い」俺は右手も上げた。純白の光が現れる。「これが十五年間で得た新たな力...『虚実調和波』だ」


黒と白の光が交わり、波動となって広がった。敵の魔法使いたちは抵抗しようとしたが、波動に触れるとすぐに意識を失い、倒れていった。


あっという間に、20名の侵入者全員が地面に横たわっていた。一人も死者はない。


「これが...零様の力...」護衛隊長が畏敬の念を込めて言った。


「彼らを拘束して」俺は指示した。「グラント将軍に連絡し、尋問のために王都へ送るように」


「はっ!」


侵入者たちが処理される中、俺は先頭にいた男に近づいた。彼だけはまだ意識があり、俺を見上げていた。


「なぜ子供たちを狙う?」俺は厳しく尋ねた。


「我々には...『予言』がある」男は弱々しく言った。「次世代の器...七つの鍵を開く者...彼らこそが新たな時代を...」


「七つの鍵とは何だ?」


「それは...古の力...」男の意識が薄れていく。「我々は...ただの使者...真の主は...」


彼は気を失った。


俺は考え込みながら屋敷に戻った。七つの鍵、次世代の器、予言...謎は深まるばかりだ。


ホールに戻ると、子供たちが駆け寄ってきた。


「父さん!」レイが俺に飛びついた。「大丈夫だった?」


「もちろんだよ」俺は微笑んだ。「心配させてごめんね」


「敵は?」エリザベートが尋ねた。


「全員捕まえた」俺は答えた。「王都へ送って尋問する」


「何か情報は?」シャーロットが冷静に尋ねた。


「七つの鍵のことを言っていた」俺は彼女に目配せした。「それと...予言」


「予言?」アリアが身を乗り出した。


「詳しくは後で」俺は子供たちの前でこれ以上話すのを避けた。


「さあ、みんな」リリアが明るく言った。「危険は去ったわ。おやつの時間よ!」


子供たちは喜んで台所へと向かった。彼らが去った後、俺は四人の妻たちに詳細を説明した。


「予言...」アリアがつぶやいた。「私の星占いと関係があるかもしれない」


「七つの鍵を開く者...」シャーロットが考え込んだ。「封印石と似ているわね」


「でも封印石はもう力を失ったはず」エリザベートが言った。


「調査が必要ね」リリアが決意を固めた。


「ああ」俺は頷いた。「そして...子供たちの訓練も強化しよう。彼らが自分自身を守れるように」


四人は同意し、それぞれの役割に戻った。


その夜、俺はレイの部屋を訪ねた。息子は窓辺に座り、夜空を見上げていた。


「まだ起きていたのか」俺は部屋に入った。


「父さん」レイは振り返った。「今日の人たち...僕たちを狙ってたの?」


やはり敏感な子だ。嘘をつくのは無意味だろう。


「そうだ」俺は正直に答えた。「だが心配いらない。父さんとお母さんたちが必ず守る」


「でも...なんで僕たちを?」


「それはまだわからない」俺は息子の隣に座った。「だからこそ、君たちには強くなってほしい。自分の身を守れるように」


「うん...」レイは決意を固めたように頷いた。「僕、もっと頑張るよ。フレイムやルナ、スカイも守れるように」


「頼もしいな」俺は息子の肩を抱いた。「でも無理はしないように。まだ子供なんだから」


「父さん」レイが真剣な表情で俺を見上げた。「昨日の訓練...あの調和の魔法をもっと教えてほしい」


「もちろんだ」俺は頷いた。「明日からさらに特訓しよう」


「やった!」レイの顔が明るくなった。


息子を寝かしつけた後、俺は書斎に向かった。そこでは既にシャーロットが古文書を調べていた。


「何か見つかった?」俺は尋ねた。


「まだ...」彼女は疲れた様子で答えた。「でも、七つの鍵についての断片的な記述はある。古代の力を封印するために作られたものらしいわ」


「封印石と似ているな」


「ええ」シャーロットが頷いた。「でも違うのは、封印石が力そのものを封じたのに対し、七つの鍵は『場所』を封印したようなの」


「場所?」


「詳細はまだわからないけど」彼女は古文書を指さした。「『永遠の扉』という記述がある。七つの鍵で開く扉...」


「興味深いな」俺はつぶやいた。「調査を続けてくれ」


「ええ」彼女は頷いた。「それと...零」


「なに?」


「子供たちのこと...特にレイが心配よ」彼女が真剣な表情で言った。「彼の中に眠る力は...想像以上かもしれない」


「気づいていたのか」俺は驚いた。


「ええ」シャーロットが頷いた。「彼の中には、あなたの虚無の律動とエリザベートの氷結魔法が完璧に調和している。それは...」


「特別な力になる可能性がある」俺は彼女の言葉を先取りした。


「そう」彼女は静かに言った。「だからこそ、彼が狙われているのかもしれない」


「守らなければ...」俺は決意を固めた。


夜が更けていく中、新たな危機の予感が俺の心を占めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る