## パート4:紅玉の守護者

紅炎獣の咆哮が遺跡全体に響き渡る。その巨大な体は炎に包まれ、熱波が一行を襲った。


「分散して!」エリザベートが指示を出した。「一点に集中すると危険よ!」


五人は素早く散開し、それぞれの位置から魔獣に魔法を放った。エリザベートの氷の矢、リリアの炎の波、シャーロットの闇の鎖、アリアの風の刃。


しかし、紅炎獣はこれらの攻撃をほとんど物ともせず、逆に口から猛烈な炎を吐き出してきた。アリアが風の障壁を作り、かろうじて防いだ。


「通常の魔法が効かない!」シャーロットが叫んだ。


「零!」エリザベートが俺を見た。「あなたの力を!」


俺は集中し、左手から漆黒の光を放った。光が紅炎獣に触れると、獣は一瞬ひるんだように見えた。


「効いてる!」リリアが喜んだ。


しかし、獣はすぐに態勢を立て直し、今度は地面から炎の柱を立ち上げてきた。エリザベートが素早く氷の盾を作り、全員を守った。


「このままじゃ消耗するだけよ」エリザベートが言った。「もっと効果的な方法が...」


その時、俺のポケットの中で、アリアがくれた星型の結晶が光り始めた。


「アリア!」俺は結晶を取り出した。「これが光ってる!」


アリアの目が大きく見開かれた。「そうよ!私の星魔法と、あなたの虚無の律動...組み合わせるのよ!」


「どうやって?」


「私の星魔法をあなたの力で増幅して!」


俺とアリアは互いに手を取り、力を合わせた。アリアの青白い光と俺の黒い光が交わり、不思議な銀色の光を放ち始める。


「エリザ、リリア、シャーロット!」アリアが叫んだ。「私たちの力に、あなたたちの力も合わせて!」


三人も加わり、五人の力が一つになった。氷、炎、闇、風、そして虚無。五つの力が渦を巻き、巨大な光の柱となって空に伸びる。


「今よ!」エリザベートが叫んだ。


光の柱が紅炎獣に降り注いだ。獣は苦しげな咆哮を上げ、全身から炎を放出して抵抗するが、五人の力は圧倒的だった。


獣の体が徐々に透明になっていく。そして、最後の咆哮と共に光に変わり、消えていった。


「やった...」リリアが息を切らせながら言った。


「いいえ、まだよ」シャーロットが台座を指さした。


台座の上に、赤い宝石が現れていた。拳大の美しい紅玉だ。その内部には、炎のような模様が浮かんでいる。


「『紅玉の封印石』...」エリザベートが感動した声で言った。


俺はゆっくりと台座に近づき、手を伸ばした。宝石に触れた瞬間、強い波動が体を貫いた。まるで千年の時を超えて何かが語りかけてくるような感覚。


「何か...声が聞こえる...」俺はつぶやいた。


「何て?」エリザベートが興味深げに尋ねた。


「『六つの石を集め、最後の石へと至れ』...そんな声だ」


「六つ?」リリアが首をかしげた。「七色の封印石じゃなかったの?」


「いいえ、正しいわ」シャーロットが言った。「伝説では、六つの石を集めることで、七つ目の最後の封印石の在り処が明らかになるとされている」


俺は紅玉を手に取った。重量感があり、手の中で温かく脈打っている。


「これで一つ目だ」


「あと五つね」エリザベートが頷いた。「一歩ずつ進んでいくわ」


突然、地面が揺れ始めた。遺跡が崩れていく。


「急いで!」シャーロットが叫んだ。「遺跡が崩壊する!」


五人は急いで遺跡から脱出した。森を出る道のりも、虚無の律動の導きで迷うことなく、アザーウッドを脱出することができた。


森の外に出た時、夕日が地平線に沈みかけていた。一行は疲れた様子だったが、成功の喜びに満ちていた。


「やり遂げたわね」エリザベートが満足げに言った。


「みんなのおかげだよ」俺は紅玉を握りしめながら言った。


「私たち、本当に良いチームね」アリアが嬉しそうに言った。


「確かに」リリアも同意した。「零がいなかったら、絶対に無理だったわ」


シャーロットは静かに頷いた。「これが始まりに過ぎないことを忘れないで」


エリザベートが俺に近づき、静かに言った。「ありがとう、零。あなたのおかげで、千年の呪いを解く第一歩を踏み出せたわ」


彼女の氷青色の瞳には、感謝と何か別の感情が宿っていた。


「約束は守るよ」俺は微笑んだ。「最後まで一緒に」


帰路のキャンプで、一行は成功を祝って小さなパーティーを開いた。シャーロットが用意していた特別のフルーツワイン(弱いアルコール)を皆で分け合った。


「乾杯!」リリアがグラスを上げた。「私たちの冒険の成功に!」


「そして、これからの旅に」アリアが付け加えた。


皆でグラスを合わせ、夜空の下で語り合った。この日の冒険で、五人の絆はさらに深まった。


「零...」エリザベートが小声で俺に話しかけた。「今回の冒険で気づいたわ。私たちクリスタルローズは、いつも一人で戦ってきた。でも、力を合わせることで、もっと強くなれるのね」


「そうだな」俺は頷いた。「一人より、みんなで力を合わせた方が強い」


「呪いのせいで、それに気づけなかったのかもしれない」彼女は物思いにふける様子だった。「でも、あなたが来てから、少しずつ変わり始めている」


俺はエリザベートの横顔を見つめた。月明かりに照らされた彼女の顔は、いつもの高慢さがなく、柔らかな美しさを湛えていた。


この旅は、単に封印石を求めるだけのものではない。それぞれの心の中の封印も、少しずつ解かれ始めているのかもしれない。


紅玉を握りしめながら、俺は星空を見上げた。これが始まりに過ぎないこと、そしてこれからの旅がさらに困難になることは分かっていた。


だが、もはや俺は一人ではない。クリスタルローズのメンバーたち、そしてノアがいる。共に進む仲間がいるのだ。


「あと五つか...」


心の中で、次の封印石への思いを馳せながら、俺は静かに微笑んだ。

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