## パート2:黒猫との出会い

放課後、俺はいつものように図書館へと足を運んだ。昨日見つけた「虚無の律動」についてもっと調べたい。


図書館に入ると、ルーク館長は不在のようだった。代わりに若い女性の司書が受付にいる。彼女は俺に軽く会釈すると、自分の仕事に戻った。


古代魔法の書架へと向かい、昨日の本『古代律動の共鳴法』を探す。だが、その本はどこにも見当たらない。


「おかしいな…」


昨日確かにここに戻したはずだ。誰かが借りたのだろうか?それとも…


不安な気持ちで別の本を探していると、窓の外で動くものが目に入った。振り返ると、窓枠に黒猫が座っていた。漆黒の毛並みと、金色の瞳が印象的だ。首には小さな銀の鈴がついている。


「どこから来たんだ?」


俺が窓を開けると、猫はためらうことなく中に飛び込んできた。図書館に動物を入れるのは規則違反だが、誰も見ていない。猫は俺の膝に飛び乗ると、まるで昔からの知り合いのように落ち着いた様子で丸くなった。


「おいおい、勝手に…」


だが不思議と、この猫に対して警戒心が湧かなかった。むしろ、何か懐かしさのようなものを感じる。俺は思わず猫の頭を撫でていた。猫は気持ち良さそうに喉を鳴らす。


「お前、どこの子だ?」


首輪はないが、鈴には何か古い文字らしきものが刻まれている。よく見ようとすると、猫は素早く身をひるがえし、近くの本棚に飛び乗った。そして前足で一冊の本を指すように触れた。


「なんだ?」


その本を取り出すと、『精霊と導き手―古代魔法の伴侶たち』というタイトルだった。


「これを読めというのか?」


猫は小さく鳴いて、再び俺の膝に飛び乗った。まるで「そうだ」と言っているかのようだ。


俺は不思議に思いながらも本を開いた。ページをめくると、「導き手」についての記述が目に入った。


『強大な力を持つ魔法使いには、しばしば「導き手」と呼ばれる存在が寄り添う。導き手は精霊の一種であり、魔法使いの力の制御と成長を助ける役割を担う。多くの場合、動物の姿を取り、特に猫や鳥の形で現れることが多い』


俺は猫を見つめた。猫は金色の瞳で俺をじっと見返している。その目には、普通の動物とは思えない知性が宿っているように見えた。


「まさか…お前が…」


猫は答える代わりに、小さく鳴いた。そして本のページを前足で押さえた。そこには続きがあった。


『導き手は魔法使いにのみその真の姿を見せ、他者には普通の動物として映る。時に言葉を交わすこともあるが、それは魔法使いとの絆が深まった後のことである』


「信じられない…」


俺は猫を抱き上げ、目の高さまで持ち上げた。猫は落ち着いた様子で俺を見つめている。


「お前は俺の…導き手なのか?」


猫は小さく鳴いて、頭を傾けた。肯定でも否定でもない、謎めいた反応だ。


図書館の閉館時間が近づき、俺は本を元の場所に戻した。猫は俺の肩に飛び乗り、そのまま離れようとしない。


「ついてくるのか?」


猫は小さく鳴いて頷いたように見えた。


「わかった。名前をつけないとな…」


黒猫の金色の瞳を見つめながら、俺は考えた。


「ノア…お前をノアと呼ぼう」


猫は満足げに喉を鳴らした。こうして、俺と黒猫ノアの奇妙な共同生活が始まった。


学生寮に戻る途中、俺は空を見上げた。最初の星が瞬き始めている。昨日までの俺の世界は、「魔力ゼロ」という絶望に支配されていた。だが今、何か新しいものが生まれ始めているような気がした。


それが希望なのか、それとも新たな試練の始まりなのか、まだわからない。ただ、もう俺は一人ではないような気がした。肩の上で心地よく喉を鳴らすノアの存在が、不思議と心を落ち着かせてくれた。


俺たちが寮に向かう姿を、銀白の長髪を持つ少女が遠くから見つめていることに気づかないまま。

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