02 "AIさがし"のはじまり






「先生! うちのクラスにAIがいるって、ガチっすか!?」


 朝のSHRショートホームルームで元気よく手を挙げたのは、わたり

 すると、教壇に立つ担任の越智おち令児れいじ先生は、あきれた様子でフンと鼻を鳴らした。


「あんな噂信じてんのか。クラスにAIなんているわけないだろうが」

「え~、あの画像見てないの!?」

「悪質なイタズラだ。いま学校からSNSの運営元に削除要請をかけてるとこだ」


 越智先生の言葉に、生徒たちは安堵や疑念など、さまざまな反応を見せた。

 それでも、渡は食い下がる。


「だって、他の学校ではAIが見つかったって!」

「あんなもの、偽造だろ。AI倫理の授業で、フェイクには気を付けるよう教えただろうが」

「フェイクだっていう証拠もないじゃん~」


 渡をはじめ、数人の生徒たちは納得がいかない様子だったが、それ以上追及することはなかった。

 越智先生はスマートウォッチにちらりと目を落とし、教壇に両手をつく。


「いいか。妙な噂に惑わされるな。俺から言えるのはそれだけだ」

「なんだよ、越智セン~」

「越智先生だろうが! 渡、お前だけ課題増やすぞ!?」

「うそうそ、すんません、越智先生!」


 渡と越智先生のやり取りに、教室からはくすくすと笑いがこぼれた。








 その後、教室内のモニターで、ライブ配信による全校集会が行われた。

 その中で校長も、「妙な噂を信じないように」と繰り返すばかりだった。

 しかし、生徒たちが学校側の説明を素直に受け入れるはずはなかった。


「うちのクラスで怪しいのは、瀬名せなじゃね? 無口だし、無表情だし」

「それなら吉光よしみつも怪しくね? 俺、入学してからあいつの声聞いたことないぞ」

「それで言うと鈴鹿もじゃね? あと、AIレベルに頭いいっていったら、蒼佑? うわー、怪しいやつばっかじゃん」


 とうとう1年A組でも、"AIさがし"が始まってしまった。

 女子も男子も、まるで「自分はAIじゃない」と証明しようとしているかのように、誰がAIなのか予想を立てていた。


瀬名せな、笑ってみてよ。人間って証明してみ」


 瀬名せな真白ましろは、クラスメイトだけでなく他のクラスの生徒にまでAIを疑われ、声をかけられていた。

 美人でミステリアスな印象の瀬名だが、あまりにも愛想がないせいで、AIではないかと疑われていたのだ。


「……だる」


 しかし、本人は動じることなく、ウザ絡みしてくる男子を無視していた。


「鈴鹿! お前もAIの疑惑かかってるぜ」

「……どうでもいいっす」


 鈴鹿紘斗は平然とヘッドホンをかけ、男子の絡みをシャットダウンした。


「そういうの、ウザいから! 証拠もなく言うのやめようよ!」

「だって、早く見つけたいじゃん。AIがクラスにいるとか、普通に気持ち悪いし」


 葵衣が抗議したものの、男子は開き直ってそう答える。

 "AIさがし"のせいで、1年A組はどこか険悪な空気に包まれていた。






 放課後。日奈は帰宅のために、蒼佑と葵衣と一緒に教室を出た。

 すると校門前で、スーツ姿でサングラスをかけた見知らぬ女性が話しかけてきた。


「ちょっと、話聞かせてもらえない?」


 怪しげな雰囲気を漂わせるその女性は、大手出版社の記者を名乗った。名刺には『押守おしもり早苗さなえ』と名前が書かれている。


「聞きたいのは、AIのことなんだけど……」

「なにも答えられないっスよ。俺らもその噂、今朝知ったばっかなんで」

「あら、そうなの」


 蒼佑が答えると、押守はあからさまに残念そうな表情を見せた。

 どうやら彼女は、『鳴高にAIロボットがいる』という噂の真相を探りに来たらしい。

 だが、蒼佑も負けじと聞き返す。


「欅ヶ丘高校にAIがいたってのは、本当なんですか?」

「学校側は完全否定。ただ、AIの疑いをかけられた子は、それ以来消息不明になってる」

「「「えっ」」」


 押守の言葉に、3人は思わず声をあげた。


「今日は学校にも来ていないし、近所の人も姿を見てないって。じゃあ家族に取材を……って思ったら、今度は上からストップがかかっちゃった」

「上から?」

「うちの出版社の偉い人。恐らく報道機関に対して、政治介入があったんでしょうね」


 蒼佑は頷きながら聞いているが、日奈は明らかに動揺していた。


「ま、待って。AIに家族がいるんですか?」

「そうなのよ。まだ取材が始まったばかりで情報はまとまってないんだけど、欅ヶ丘以外の高校でAI疑惑が持たれた子も、みんな家族がいるみたいよ」


 押守の返答に、日奈と葵衣は言葉を失った。

 蒼佑も眉をひそめつつ、冷静に質問する。


「その、AIって疑われた子はどんな子だったんですか?」

「欅ヶ丘の子は……仮にK君とするけど。K君は、中学の頃病気になって、長い間県外で治療を受けてたんですって。その間にAIと入れ替わったんじゃないかって話よ」

「い、入れ替わった……!?」


 動揺した葵衣は、思わず声をあげた。

 これが事実だとしたら、"AIさがし"は遊びや冗談の域をこえてしまう。


「でもそれは、事実にもとづいた憶測にすぎないんですよね? 彼がAIだっていう確証は?」


 蒼佑が尋ねると、押守は手に持っていた手帳をパラパラとめくりながら答える。


「そもそも欅ヶ丘は中高一貫校で、ほとんどみんな中学からの顔見知りだったのよ。そんな中で2年間まるまる入院してたK君だけが"怪しい"って話になったみたい」


 そして、サングラスを少しずらして、わざとらしく神妙な顔をつくった。


「で、クラスメイトが追求のために彼を質問攻めにしたの。そしたら、んですって」

?」

「そう。まるで、機械がショートするみたいにね」


 押守の話に、とうとう蒼佑も押し黙ってしまった。

 押守はふたたびサングラスをかけなおし、手帳をパタンと閉じる。


「とはいえ、詳細な情報が集まってるのは欅ヶ丘高校の例くらい。あとはまだ調査中よ」


 そして押守は、日奈の二の腕にそっと手を添え、どこか含みのある声で尋ねてきた。


「ね、クラスに怪しいなって思う子、いる? いたら苗字だけでも、教えてくれないかな」

「わ、わかんないです!」


 日奈はブンブンと首を横に振ると、逃げるように駆け出した。蒼佑と葵衣も、慌てて日奈の後を追う。

 3人の背中を見送りながら、押守は小さく舌打ちをした。




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