再会は突然に②
「やっぱり帰ろうかな……」
回れ右しようとするわたしの腕を、奏がガシっと掴む。
「杏ちゃん、敵前逃亡は女が廃るわよっ」
そのままグイグイ奥へ押された結果、吉秋の正面に座ることになった。
わたしのシステム会社は、吉秋の勤める損保会社の子会社だ。
吉秋は大阪支社にいるはずなのに……?
男女4対4の合コンは、自己紹介から始まった。
よっちゃん、なんでいるのよう。
あーちゃんこそ、なんだよ。
テーブルの下でコツコツ靴のつま先を蹴り合いながら目で会話する。
そんなことをしていたものだから、ほかの人の自己紹介をほとんど聞かないまま自分の順番が回ってきてしまった。
「広報室の
ぺこりと頭を下げると、まばらな拍手をもらった。
次は、吉秋の番だ。
「宝田吉秋です。えーっと、5年ぶりに大阪から本社に戻ってきたばかりです」
戻ってきていきなり合コンに参加!?
目が合って、にっこり笑う吉秋から顔をそらす。
とりあえずビールで乾杯した後、美味しそうな料理が次々に運ばれてきた。
ピカピカのお刺身盛り合わせとカニの甲羅焼きがある。
でも、わたしの席からは少し遠い。
吉秋がプッと笑う。
そして、カニの甲羅焼きに難なく手を伸ばしてわたしのお皿に置いてくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう……ございます」
そんなに顔に出ていただろうかと思いながらお礼を言うと、またもやプッと笑われた。
吉秋の隣から声がかかる。たしかさっき、
軽そうな印象の人だ。
「気をつけなよ。宝田はみんなに優しいからね」
知ってます。
心の中でだけ返事をして、こくこく頷いた。
スーツを着ている吉秋は、わたしの知っている「幼馴染のよっちゃん」とは少し違う。
しっかり大人の男性で、奏が言っていた通りのイケメンエリート営業マンに見える。
自分だけがひどく場違いに思えて気後れしていると、また神木さんに話しかけられた。
「犬飼ってるの?」
「お隣さんの犬なんですけど、散歩を手伝っているんです。とっても可愛いボーダーコリーなんですよ」
神木さんが頬杖をついてにっこり笑う。
「ふうん。坂井さんって恋愛経験少ないでしょ?」
「え……あの……」
犬の話からどうして恋愛経験が少ないとバレたのかと戸惑う。
神木さんの指摘は、間違いなくその通りなのだけれど。
「相手が困るような質問するな」
吉秋が神木さんを小突く。
実はそのお隣さんが、吉秋の実家だ。
宝田家が犬を飼い始めたのは、今年のお正月明けのこと。
ゴローと名付けられたボーダーコリーは、1歳になったばかりのやんちゃざかりの男の子だ。
ゴローはとにかくお散歩が大好き。
休日は車でドッグランに連れて行って走らせているけれど、平日のお散歩担当はおばさんひとりだ。
ゴローの運動量の多さにおばさんがヘトヘトになっているのを見かねて、わたしもお散歩を手伝うようになった。
今日は、夜のお散歩を手伝えなかったな。
わたしはそう考えながら、ひたすら食べ続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます