再愛の人

時岡継美

再会は突然に①

 大学を卒業し、東京の郊外にあるシステム会社に入社して半年が過ぎた。

 それなりに充実した日々を過ごしていると思う。


 午後の業務が始まってすぐのこと。

 手交しなければならない重要文書を、秘書室へ届けた。

 ペーパーレス、印鑑レスと言われている昨今でも、必ずこういう書類はある。


 無事に役目を果たし、所属の広報室へ戻ろうとした時だった。

 

「杏ちゃん!」

 

 給湯室から同期の手島奏てしまかなでが顔を覗かせる。

 控えめなメイクでありながら華やかな顔立ちと、たおやかな笑顔の可愛らしい同期だ。


「お疲れ様」

 笑顔で返すわたしを、どういうわけか奏がじーっと見つめている。

 と思ったら、ガシっと腕を掴まれた。


「ねえ、杏ちゃん今夜時間ある? 暇だよね!?」


 同期の飲み会ではいつも「恋人はいないし家と会社の往復だけ」と言い切っているわたしだ。

 もちろん今日も、業務終了後は真っすぐ帰るつもりでいる。


「一応なにも予定はないけど……」

「じゃあ決まり。合コン行こう!」


 いや、突然言われても困る。

 

「そういうの、ちょっと……」

 地味で気の利いたことなど言えないわたしは、あの雰囲気が苦手だ。


「その不慣れな感じがいいんだよ。親会社のイケメンエリート営業マンと、うちの秘書課の合コンなんだけどね。先輩がひとり残業確定なの。だからお願い!」


 両手を合わせて上目遣いのお願いポーズをされると、同性のわたしでも言うことをきいてあげたくなる。

 明日は土曜日だから、帰宅が遅くなってもかまわない。

 業務時間中に仕事以外の話を長々とするのも気が引けるし、最後は「美味しいご飯をご馳走してもらえる」の一言で陥落した。


 ひとり暮らしを始めて半年。

 帰宅したら自動的にご飯が出てきた親との同居のありがたみを実感しているところだ。

 地味なわたしは、イケメンたちの視界にすら入らないだろうから、奏たちの引き立て役にすらならないだろう。

 でも、美味しいご飯が食べられるなら良し!と思った。


 この選択が間違いだったと気づいたのは、数時間後のことだった。


「よっちゃん……」


 待ち合わせの和風創作ダイニング。

 イケメン4人はすでにスタンバイしていた。


 それはいいとして、その中のひとりがあろうことか宝田吉秋たからだよしあきだったのだ。


 吉秋もすぐにわたしだと気づいたようで、目をまん丸にして驚いている。


 わたしの幼馴染であり初恋の相手。

 しかもファーストキスの相手でもある。


 その吉秋と、5年ぶりにこんな形で再会することになろうとは、思ってもみなかった。


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