ジオラマの中の人形を愛した妖精

もち雪

第1話

 僕の家には揚羽蝶の羽根をつけた妖精が住んでいる。


 その妖精は、サラティア姫押しで、今日も朝から僕のジオラマの中心人物である彼女に愛を囁いている。


 しかし僕は3月の終わり、僕が小学校を卒業するとともに東京に引っ越す時には、彼ともお別れとなるだろう。そんな事も知らず、今日も妖精はいつもの日課をおこなっている。


「今日も可愛いな俺のサラティア姫は!」


「その子、サラティア姫なんだけど……」

 サラティア姫というのは、有名なゲームに登場する妖精のお姫様だ。


 そのゲームの主人公たちが並ぶ、ジオラマを僕の叔父さんが、去年の僕の誕生日に買って、僕にプレゼントしてくれた。


 それからは休みの日には、毎週一緒に作った思い出のジオラマだ。


 そんなジオラマの前に、ある日の朝、妖精がやって来たのだ。


「なぁ雅人まさと、今日も『ソルト王子の妖精砂漠の大探険』やろうぜ!」


 サラティア姫が大好きな妖精は、サラティア姫押し力も強いが、本人の押しも強い!


「今日は宿題が忙しいから、アニメの方を見てて!」

 そう言うと、彼はいつものようにこう言うのだ。


「あっちは子ども受けするように、サラティアの年齢を下げてきている。サラティアの幼い頃と思えば、受け入れられる。しかしだ! 俺が見たかったのはこのジオラマやゲームの彼女であって、幼い彼女ではないんだ。 これは映画で、完全版をやるべきだと思うが、雅人はどう思う?」


「実写になって、ずっと人間くらいの大きさにされるかもね?」


「oh!……」

 妖精は、そう言ったと思うと、頭を抱えながら、僕のサラティアと長時間話しこんでいた。と、言うか語りかけていた。




 そんな彼も引っ越しという壁は、越えられなかったようで、新しい家で起こされた僕が目が覚ますと、妖精は居なかった。 さよなら妖精。


 彼に引っ越しについてとうとう話すべき時となった、引っ越しの日まで1ヶ月を切った頃。


 僕は彼に、僕の部屋で引っ越しの事を話し、妖精にある選択を迫られていた。


「①この俺のサラティアを、友達に渡しここを去るか。②引っ越しにサラティアの同行を許す代わりに、引っ越しに俺を連れて行って、今まで通り俺を面倒をみるか。①と②どっちにする?」

 彼は珍しく真面目な顔で、そう言った。


「③のサラティア姫だけ連れて行くで!」


 僕が指で3を表し、彼の顔の前につきつけた。すると、すぐさま彼の顔を曇る。


「やはり人間の子どもには、血も涙もないのか……」

 そう僕に涙をながし、訴えるのである。


「①と言ってる事は変わらないよ!」


 そう言って、僕は勉強机の椅子からおり、ベットへねっころがるとクッションを投げ、キャッチを繰り返す。


 ぐぬぬとなっていた彼は「では、②しかないな。いいか雅人、問われたら問われた中で答えを出すんだいいな。 試験にない番号書いちゃだめだぞ? バツになっちゃうぞ」


「妖精はさーー、僕を言い負かそうとしてそんな事を言うけど」


 そこまで言うと、僕はベットの上に転っている小さなぬいぐるみを、妖精に向かって投げた。


「何をする!?」


 そう言った彼の体を突き抜けて、ぬいぐるみは後ろの壁に当たる。


「ねっ、ぬいぐるみは突き抜けた。そして君はその羽根を守るためなのか、寝ぼけて飛びながら壁に埋まってしまう。そうすると僕は触る事も出来ない。だから……東京まで行く間、妖精が眠ると車の外に飛んでっちゃうと思うんだよねーー」


「大丈夫だ。俺は寝ない」


 僕はそんな大真面目な彼の顔から目をそらし、ふたたびねっころがりクッションを投げる。


「大晦日かの年越しは?」

「えっ……ああ、寝た」


「じゃーーサラティア姫が出るって騒いでた、アニメ版の第一話は?」

「寝た……」


 僕の部屋で、僕の投げるクッションの音だけ響く。


「僕も離れたくないけど、僕にはどうする事も出来ないから……。うーーん、なんかちょっと眠い。寝るね」

 そう言って布団に、潜って泣いた。


「俺は愛する女と、お前とも決して離れない!」

 そう、布団の外から聞こえた。それはそれでどうかと思うよ。


 そう思いながら、僕はそのまま寝てしまった。




 そして引っ越しの当日、彼は僕のぬいぐるみに、しがみつきやって来るはずだったのに……。


 車の到着した、新しいに家に着いた時、やはり妖精は居なかったのだ。


 妖精との別れの後、僕はほんの少しだけ運が悪くなった。

 もう踏んだり蹴ったりの状態になった……と思い、落ち込んだ。


 転んだり、消しゴムを忘れたり、どれも些細なものだったが、妖精のいた間には全然気付かなかったけど、僕に規定量以上の幸運がやって来てたのかもしれない。


 今は、その帳尻合わせのように、僕には思えた。


    ☆


 そんなある日、「サラティア姫、会いたかった」と、言ってジオラマケースに半分埋もれている妖精がいた。


「妖精!! え? えっ?! どうやってここがわかったの?」


「俺は、お前たちから離れたりしないって言っただろう。お前に、ちょっとばかり呪いをかけた。後は、呪った相手がどこにいるか、わかるシステムを使っただけさ」


 そう妖精はかっこつけて僕を指差し言った。


「ごぬん、やっぱり出てってくれる? 今は話したくない」


「えっ!? 喜んでくれると思ってばかりいたけど、怒った? 怒ったの? 雅人君、僕は君の友達の可愛い妖精さんだよ?」


 そう言って妖精は、しばらくの期間、僕に媚びたのだった。


 そして今日も朝も、起きるとサラティア姫押しの妖精が、僕のジオラマに向かって愛を囁いている。


        終わり


 







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ジオラマの中の人形を愛した妖精 もち雪 @mochiyuki5

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