第20話
「ねぇ、ミィ。旦那さまはわたしをどう思われたかしら」
皿から魚のほぐし身をはぐはぐ食べる猫を見下ろしながら、美月はしゃがんで小声で問いかけた。
昨夜のことは美月にとっては何もかもが初めてで、無我夢中だったけれど。
はたして煌はどうだったのだろう。美月に失望していないだろうか。
(お花をくださったのだから、嫌われたわけではないと思うけど)
せめて家にいるあいだくらい側にいたいと思うのは、美月だけなのだろうか。
ドアが、三回ノックされた。
タキだろうか。
そう思った美月はその場で声をかける。
「どうぞ」
ドアが開く。そこに立っていたのは煌だった。
「旦那さま」
美月は慌てて立ち上がった。
側にいたいとは思ったけれど、こんなふうに部屋を訪ねてくれるとは想像もしていなかった。
煌は直立の姿勢のまま一歩入室し、後ろ手でドアを閉めて尋ねる。
「皆の前では訊きにくかったのだが、体は大丈夫か?」
食堂にはタキや給仕の者たちがいた。
皆、主の会話に口を挟むようなことはせず空気のように振る舞っているが、煌にも聞かれたくない会話というものはあるようだ。
昨夜の行為のことを尋ねられたのだと気づき、美月は恥ずかしさに俯きながら言う。
「は、はい」
ほんとうはまだ痛みも疼きもあるけれど、怪我をしたわけではない。
「そうか。あなたは俺に比べてあまりに華奢だから、無理をさせたかと心配していた」
そんなふうに気遣ってもらえるなんて。
「もしや、それで今日は早めにご帰宅してくださったのですか?」
「それもあるが……いや、急ぎの案件もなかったのでな」
仕事が暇だったとうそぶきながら、煌は視線を逸らした。
(やっぱり照れていらっしゃる?)
自分より強くたくましい夫が、可愛らしく見える。
それ以上に、思いやりが心から嬉しい。胸が弾む。
そんな美月を、煌は両手で抱きしめた。
温もりに包みこまれ、それだけで幸福に胸が満たされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます