虫の知らせ


この頃、愛果は就職して忙しくしていた。姉とも連絡を取っていなかったが、久しぶりに姉から連絡が入った。

「お姉ちゃん、久しぶり」


「あのさ〜、玄関におばあちゃんがいるの」


「おばあちゃんが玄関に? あ〜、玄関におばあちゃんの物を置いてるでしょ?」


「置いてる。玄関でおばあちゃんが浮いて座ってる……お墓行ってみない?」


「ずいぶん行ってないから行ってみよう」


姉と愛果は、おばあちゃん達のお墓に行った。

「お久しぶりです〜」と住職の奥さんに挨拶をすると、奥さんが言った。

「いま愛果ちゃん達の親戚のてるさんのお母さんの法事やってるわよ」


姉と愛果は、これだぁ~と同時に言った。

すると奥から親戚のてるおばさんが来てくれた。

姉がおばあちゃん達のお墓参りに来たら話を聞いてと、てるさんに伝えた。父方の親戚にあたるが、おばあちゃん達が亡くなってから付き合いがなくなっていた。

「あら、久しぶりね。お線香あげてやって」


愛果達は「うんうん、もちろん」と奥に入っていった。


「愛果達のお父さんに手紙送ったけど、戻って来ちゃって」


「お父さん引越したから……転送届出してないのかな? ちゃんと言っとくよ」


姉は「ちょっとトイレ」と言い、席を外した。

15分程たった頃、お父さんとお姉ちゃんが来た。姉が電話して呼んだのだ。お姉ちゃん、容赦ないなぁと愛果は思った。


「のぶ、久しぶりじゃないの? 引越したの? 連絡しなさい」と父は叱られていた。


お父さんは気まずい顔をしながらお線香をあげ、席に着いた。祖父母が元気だった頃、よく遊びに来ていた親戚で、愛果も小さい頃、「ばぁ〜ちゃん」と呼んでいた。

愛果は「ばぁ〜ちゃんも亡くなったんだなぁ。キャラメルよくもらったなぁ」と思い出していた。

すると、おばあちゃんとおじいちゃんにそっくりな親戚がいて、愛果と姉は驚いていた。


「そっくりだろ?」とお父さんが言った。


「似過ぎてて驚いた」


「親父達は親戚同士で結婚したんだよ」


また新たな真実を聞かされ、愛果はお父さんの家系は複雑だなぁと思った。


帰る前に祖父母のお墓にも花とお線香を置いた。


「そうだ、お姉ちゃん、おばあちゃんの(形見は)玄関じゃなくてサイドボードのところにしてあげて」


「うん、わかった」


てるおばさんが言った。

「のぶ、ちょっと待ちなさい。これ持ってきな。あんた好きだったでしょ?」


「あ、あ〜、ありがとう」


「いつでも連絡しな。変わってないから全部」


「あ、あ〜」とお父さんは歯切れの悪い返事をした。父をよく見ると、目を潤ませていた。


「てるおばさん、またね」


「はいよ。あんた達も連絡してきなよ、家族なんだから。お母さんにもよろしく伝えてね」


「お母さんに伝えときます」

それぞれ家路についた。


帰ってすぐ、お母さんに今日の出来事を伝え、てるおばさんの伝言も伝えた。そこに姉から電話が鳴った。愛果は電話の内容がすぐにわかった。


「おばあちゃん、玄関にまだ座ってるんでしょ?」


「そう。なんで?」


「今すぐ、玄関からサイドボードにおばあちゃんの形見、移動して」


「わかった、電話切らないでよ」


「はい、はーい」


おばあちゃん、お姉ちゃんが形見を移動しないのわかってるから教えてるんだなぁと愛果は思った。


「移動したよ」


「おばあちゃん、わかってるからお姉ちゃんの性格」

姉は愛果の言葉の意味に気づいた。


「そういうことね」


「そういうこと。もう大丈夫だよ」


ニコリと笑い、おばあちゃんが上に戻ったのが愛果には見えた。

「あっ、スッと消えた」と姉は言った。

その夜、姉はおばあちゃんに夢で「形見を大事にしてね」と釘をさされた。


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