親に売られて勇者お姉さんに買われる話。~経験豊富なお姉さん? いいえ、つい見栄を張っちゃう最強お姉さんです~
ナガワ ヒイロ
第1話 売られる俺と買いたいお姉さん
「ドナドナドーナードーナー」
「なあ、坊主。頼むからその歌はやめてくれねぇか? よく分からんが、妙に気が滅入るんだ」
「……おっちゃんに俺の気持ちが分かるか? 異世界転生して、十五歳になったら冒険者になろうって意気込んでた矢先に親に売られたんだぞ」
「いやまあ、気の毒だとは思うが。……異世界? 何の話だ?」
馬車に引かれている鉄格子の檻に入れられ、俺はどこかに運ばれていた。
俺の名前はリオ。
年は十二歳、好きなものは唐揚げとハンバーグたポテチ。ちなみにポテチはのり塩派。
実は前世の記憶を持っており、女神様からチートスキルをもらってこの世界の住人として転生した元日本人である。
しかし、今はただの奴隷だ。
俺の生まれ育った農村は貧しく、親が俺を奴隷商人に売り払ったのだ。
チクショウ、毒親どもめ!!
「まあ、そう落ち込むなよ。坊主のご両親もいい主人に恵まれることを祈ってたぜ」
「俺を売って得たお金が詰まった袋の中身を数えながらだけどな!!」
「世知辛い世の中だよなぁ」
ちなみに御者のおっちゃんは奴隷商人であり、両親から俺を買った人物でもある。
奴隷商人と言うからには悪人をイメージするかもしれないが、このおっちゃんは商品をきちんと大事にするタイプらしい。
ちょっとしたわがままなら聞いてくれる。
それどころか農村で暮らしてた頃より美味しいものを沢山食べさせてくれる程だ。
「おっちゃん。俺は文字の読み書きも計算もできるし、いっそ俺を雇わないか? しかも俺はアイテムボックス持ちだ!! 絶対に商売の役に立てるぞ!!」
俺が女神様からもらったチートスキル、それがアイテムボックスである。
まあ、アイテムボックスのスキル自体は数万人に一人の割合で持っているらしいが、俺のはちょっぴり特別製だ。
湖の水を丸ごと収納できる圧倒的な収納量、しかも収納したものの時間を止める機能付き。
冒険者になったら絶対に役に立つと思って女神様に要求したのだ。
え? もっと強いチート能力を女神様から貰わなかったのか、だって?
何事もやりすぎは面白くないからな。
圧倒的な力を思いのままに振るって凶悪な魔物を倒すことの何が楽しいのか。
俺が異世界に求めていたのは仲間たちとの友情、努力、勝利。
そういう青臭いものであり、ありがちなチート無双ライフではない。
だからあったら便利なアイテムボックスを女神様に要求した。
しかし、俺のアイテムボックスは商人や冒険者であれば喉から手が出るほど欲しがる便利なスキルだ。
必ずしもいい主人に恵まれるとは限らないし、ならいっそおっちゃんに自分を売り込んで俺も商人になる方がいい。
冒険者も捨てがたいが、行商人になれば世界中を見て回れるだろうしな。
しかし、俺の期待とは裏腹におっちゃんは首を横に振った。
「悪いな、坊主。オレは奴隷商人、つまり売り物は奴隷だ。アイテムボックスは生き物を入れられないだろ?」
「ぐっ、そ、それは、そうだけど」
「それに坊主は顔がいい。顔のいいガキは何かと売れるからな。アイテムボックス持ちなら尚更だ。絶対に高く売れる」
「いやほら、目の前のお金じゃなくてもっと先の未来を見てみない? 絶対におっちゃんに損はさせないから!!」
「お、交易都市ラガンに着いたぞ」
「おっちゃん!! おい、おっちゃ――おいコラ、ハゲ!! 話聞け!!」
「まだハゲてねーよッ!!!!」
鉄格子を乗せた馬車が高い防壁を潜り、交易都市ラガンなる町に入る。
行き交う人の数が多く、この世界に転生してから初めて訪れる都会の町並みだった。
まさか奴隷として鉄格子に入れられて訪れるとは思わなかったが。
「よーし、この辺でいいだろう。さあさあ!! よってらっしゃい見てらっしゃい!!」
大通りの空いていた場所に馬車を止め、おっちゃんの呼び込みが始まる。
どうやらこのラガンという都市は金持ちがお忍びで遊びに来ることが多い場所らしい。
足を止める客も裕福そうな人物が多く、俺をじろじろ見てきた。
何だろう、動物園にいる動物の気分だ。
「お、おおッ!! 何と愛らしい少年だ!!」
しばらくして、シルクハットを被ったちょび髭の中年男が歓喜の声を上げた。
ちょっと嫌な予感がしてきたぞ。
「おい、商人。ワタシはハッドゲイ男爵と言う。その少年に金貨100枚を出そう。ワタシに譲ってくれ」
「き、金貨100枚!?」
「ああ、その少年は実にワタシ好みだ。夜空のような黒髪と月のような黄金の瞳、人形のような愛らしい顔立ち……今から夜が楽しみだよ」
は? え? ちょ、は!?
「お、おっちゃんおっちゃん!! おい、おっちゃん!!」
「ん? なんだ?」
「なんだじゃないよ!! 俺の目がおかしいのか!? あのオッサン、どう見ても男だよな!?」
「まあ、世の中には色々な人がいるからなあ。早速買い手が見つかったな!!」
「何喜んでんだよ!! 俺はノーマルだ!! あんなオッサンに掘られたくないよ!!」
俺は悲痛な叫びを上げる。
すると、それが聞こえていたらしい中年男はニヤリと笑って言った。
「安心したまえ、君。ワタシはネコ、君がタチ。つまり君が掘る側だ」
「知りたくねーよ、そんな情報!! どっちも嫌だよ!!」
「あぁ、そんなに睨まないでくれたまえ。興奮してしまうではないか」
「ひぃ!? ちょ、せ、せめて女の人!! 誰か女の人!! 俺のこと買ってください!! 金貨100枚以上出せる女の人ぉ!!」
俺が鉄格子の中から助けを求めると、一人の救世主が手を上げた。
「ならその少年、アタシが金貨200枚で買い取りましょう」
「っ、女の人の声!! やっ――ええ!?」
女性の声が聞こえて一瞬舞い上がるが、俺はすぐに意気消沈した。
手を上げた女性は、人間ではなかったのだ。
オークとでも言うのだろうか、でっぷりと出たお腹周りと豚のような顔をした女かどうかも分からない人物だった。
「お、おっちゃん、あの人、人? は……」
「ここは交易都市だからな。オークみたいな魔族だって訪れるさ。ま、金さえ払って貰えるなら誰だろうと客だ」
「おっちゃん。俺、嫌だよ。ホモもオークも嫌だよぉ!!」
「おいおい、種族差別はよくねーぞ。異種族理解こそが世界平和への第一歩だ」
「正論言うな!! チクショウめ!!」
俺がおっちゃんに抗議していると、メスオークがのっしのっしと鉄格子に近づいてきた。
ひっ、怖い!!
「ぶふふ、アタシの名前はマリアンヌ!! 本当に可愛い子ねぇ!! 食べちゃいたいわあ!!」
「お、俺の側に近寄るなああああああッ!!!!」
「あら、生意気ねぇ? まあ、そういう生意気な子を躾るのが楽しいのだけど。ぶふふふふ」
これならまだネコオッサンの方がマシ……。
いや、甲乙付けがたいけど!! どっちも嫌なんだけど!!
「誰かぁ!! 俺のこと買ってください!! 俺、アイテムボックスが使えます!! 湖の水を全て収納できるくらいの容量です!! あと文字の読み書きや計算もできます!! 何でも真面目に頑張ります!! お願いします何でもしますからああああああああああああああッ!!!!」
「ふむ、ではワタシが金貨300枚出そうッ!!」
「ネコオッサンはお呼びじゃねぇッ!!」
「ならアタシは金貨400枚出しましょうッ!!」
「メスオークもお呼びじゃねぇッ!!」
その時だった。本当の救世主が舞い降りたのは。
「――金貨1000枚、私が出そう」
「「「え?」」」
手を挙げて凄まじい額を提示したのは、綺麗なお姉さんだった。
女性にしてはかなり背が高い。
燃え盛るように真っ赤な長い髪を結い上げてサイドテールにした、鎧をまとった凛々しい雰囲気の女性である。
鎧の上からだと分かりにくいが、おっぱいが大きい上に太もももムチムチ。
しかも腰はキュッと細く締まっている。
まるで女神のような美しさを誇る絶世の美女であった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ちなみにハッドゲイ男爵もマリアンヌさんは女子力が高くて一人に尽くすタイプ。やったねリオ君、お前が家族になるんだよ!!」
リ「嫌だよ!! あとその情報この世で一番知りたくなかったよ!!」
「ハッドゲイ男爵がええキャラすぎる」「おっちゃん面白い」「これは主人公に同情する」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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