第31話
胸ぐらを掴んだまま男の目を見た。
こいつ、性根が腐って居やがる。
正直こいつらの能力を奪うとか抗争とかには全く関心はない。
「おい、何する気だよ」
先程情報を読み取った中で幾つかこれまでに奴がしてきた事の場面を断片的に垣間見た。
「なに、って?害虫駆除だろ。」
冷め切った声を発すると同時に脳内であることを意識した。
俺は人より脳内の分泌物がどうにかなっているらしい。それはある意味才能だ。
その脳内物質の異常を相手に転送して再現する事を意図した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
掴んだ胸ぐらを外すと男は膝から崩れ落ちのたうちまわる。
「お前が他者にやった事、同等かそれ以上の感覚を反芻し続けろ。」
感情を呑み下すことも吐き出す事すら許されない。繰り返し繰り返し、その意識を咀嚼し続けるのだ。
あぁ、こうやって廃人…【LOST】になるのだな、とどこか乾いた感覚で違う次元から見下ろす心境だった。
精神の高みを目指し転落するものもあるがコイツはそうではない。
俺が強制的に引き摺りおろしたのだ。
残りの野郎二人も同じ目にしてやろうとしたがどうやら逃げたらしい。あのキヨカとかいう女の方もだ。
先に逃げたシオンって女が狙われてる可能性が高い。
異空間を作ることで余裕ぶっこいてたから、次からは通用しない事はわかっただろう。
策を練ろうにも揃いも揃って頭の回るタイプで無さそうだ。
そこが逆に読みづらいって意味もあるけどな。
厭に意識は冴えていた。
脳内分泌物のアンバランスを応用して一つの能力を発揮した事が関係しているらしかった。
おそらくヒヤマ君はこの事を言っていたのだ。
俺にとって組織とかルールなどは到底関心のない馬鹿げたものに思えた。
しかし何だってこんな胸糞悪い野郎を集めてるんだか。
そろそろ対峙するときが来たのかと言えば違ってる。
おそらく何度となくその手の話題については俺の耳にも入っているはずなのだ。
しかし記憶がない。
覚えてもいないって事は、取るに足らない些末なものだという判断しか俺にはなかった。
一人で行動するには限界かもな。
ヒルコを呼び出そうかと考えついたけれどついさっきヒツジを追ってきっと送りに行ったに違いないと察しがつく。
こういう時、いざってなると誰に頼るか悩ましい。
正直言って巻き込むのは好ましくない。
キヨちゃんは学生ながら事業展開して軌道に乗り出したところだ。こういう泥臭い事とは全然違う世界にいる感じがするし、
かと言ってキバじゃ洒落にならない。益々その道から抜けられなくなる気がしている。
キリクに関してはこんな次元の低い野郎どもが相手では論外だ。
かといって他の奴らも迂闊に巻き込みたくは無い。
—————ここは一人でケリつけるしかないか……。
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