第18話

 リアナが声をかけたことで、王都メロディアから来たという数人の男たちが集まってきた。


「なるほど。そういうことなら、俺たちに任せてくれ。……瑠衣、一緒にメロディアに連れてってやるからな」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 そう挨拶して、わたしは彼らに連れられて街をあとにしたのだった。


 王都メロディアまでは、大きな湖を船で渡っていくことになる。そこから、ついこの間までミレイユと過ごしていたあの『笛の森』を超えていくと、王都までの道に出るのだと言う。男たちは商人だったから、仕事で運ぶ荷物とともに、ついでにわたしのことも船に乗せてくれるということだった。


 いつぞや、ミレイユの箒に乗せられて見た時の景色を思い出す。湖はかなり広くて、海と見紛うような大きさだ。彼らの船では十数時間かかるとのことだったので、ひとまずゆっくりさせてもらうことにした。


「まあ、しばらくここで休んでくれ」


 船長のおじさんもそう言って、わたしに船室の一つを使わせてくれることになった。


 これでようやく一息つける。そう思ったのも束の間、だった。船の揺れにも慣れて、昨日までの疲れからついつい眠ってしまいそうになっていたときだった。船室のドアが急に開いて、何人かの男たちが中に入ってきた。


「おい」

「……はいっ!?」

「お前、瑠衣と言ったか」

「そうですけど?」


 急に話しかけられて面食らっていると、男たちはわたしのギターケースに視線を向ける。


「それで、お前のその奇妙な道具は、どうやって使うんだ」

「ちょっと触らせてみろ」

 

 そんなことを言って、わたしのギターケースをあろうことか、勝手に開けようとしてくる。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「なんだよ、減るもんでもないだろ」

「ちょっとくらい、いいじゃねえか」


 彼らは、街にいたときとはうってかわった馴れ馴れしい態度で、わたしに接してくる。どうやら今までは猫を被っていたようで、実際にはかなり強引な人たちのようだった。


 しかし、いくらなんでも、わたしの大事な相棒を勝手に触られて、壊されてしまったら困る。


「見るだけですよ。これは危ない道具なんですからね?」


 わたしはつい、そんなはったりを言ってみる。


「どう危ないってんだよ」

「俺たちを脅すなんて、いい度胸だな」


 彼らは強気な様子だ。


「いいですよ。聞かせてあげます。……でも、ちょっとだけですよ?」


 仕方がないので、わたしはそう答える。ギターを出して、この間、街の広場で弾いてみたときみたいに、演奏を披露してやることにした。


 まずはチューニングをして、指慣らしのアルペジオから。それからいつもの練習曲に入る。きちんと弾くのは1日ぶりだったから、つい嬉しくなってしまう。


 ……ポロン、ポロロン。


 今日はそれに加えて、昔練習していたバッハの曲を一曲弾いてみることにした。


 しかし、そうするうちに、目の前の男たちの顔色が、みるみる変わっていく。


「うぅ、なんだ、これは……」

「だめだ、頭が……おかしくなる」


 そう言って、男たちはうずくまってしまう。さっきまでの威勢はどうしたやら、である。だけど実際、思っていたよりも強い効力に、自分でもびっくりしてしまっていた。


「そんなに嫌そうにしなくても……いい曲なのに」


 ミレイユの前で初めて演奏したときと同じような反応に、なんだかちょっと傷つかなくもない。

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