第2話 いざ実践!

 という経緯で俺はこの大自然の中に放り出された訳なのだけど、もう問題が発生しているよ?すぐそこにいるんだ、明らかに俺に敵意を向けてるヤバイのが。


 対峙する魔物らしき二体に向け、威圧する様に───あくまで雰囲気だけではあるが───左の腰に下げた刀を鞘から引き抜く。


 刀は想定していたよりも重く、今の俺じゃ両手でしっかりと握らないと振り回されてしまうだろう。刃は深紅で、おそらく原材料は鉄ではない何か。表面にはこの世界の言語が刻まれていて、これがあることで魔法やらなんやらが発動するのかもしれない。


 だが、俺はまだ魔法を発動させるすべを知らない。その為、素早そうで魔力を使ってくるかもしれない魔物と、使ったこともない刃物で戦わなくてはならないらしい。


 開始早々終わったかも!


 痺れを切らした二匹の内の一匹が俺に飛びかかって来た。口を大きく開けたあいつの鋭い牙が迫り来るが、その口めがけて刀を横薙ぎに振るって、防ぐ。どうやら奴の牙は相当硬いらしく、軽く火花が散った。


 もう一匹が襲ってくる前にと、そのまま力任せに刃を押し進め、その勢いを使って横に飛ぶ。着地と同時に、刀を落とさないようゆっくりと構え直して次に備える。


 しかし、一度刀を振るっただけでその重さにより手が震え、あいつの強靭な牙のせいで若干手が痛い。


 あいつらが小さく唸ったかと思った次の瞬間、身体から赤い粒子が放出された。それを全身に薄く纏った姿が、身体強化の様な物だと直感的に察するが、生憎あいにく防ぐ術は持ち合わせていない。


 というかそんなもん知らん。


 一層気を引き締めてあいつらを注視する。互いに出方を伺い、次はこちらから仕掛けてみることに。


 刃先を後方に向け、旋回するように駆ける。遅れてあいつらも俺に向かって駆け出した。あの粒子の影響か、先の攻撃よりも数段速い動きで接近してくるが、その動きは単調で読みやすい。対応するのは思いの外簡単だ。


 そう、頭の中ではね。


 俺はさっきよりもより強く、走る運動エネルギーを利用して刀を振るう。


「ふんぎゅいぃぃいいい!!」


 情けない声を出しつつ、こいつの攻撃をギリギリで避け胴の部分に刃を走らせる。その柔らかい肉に入ったことで、弱々しい鳴き声と共に血飛沫を上げた。


 魔物はドサッという音と共にその場に倒れた。その一匹の息の根を確実に止めるべく、喉元に刃を突き立てて仕留める。


「はぁ、はぁ...」


 心臓の跳ねる音が鮮明に耳に届く。


 生々しい肉を裂く感覚が手に伝わるのことに少しの恐怖を感じつつ、もう一匹へと意識を集中させる。あいつは白い息を吐き出し、先程よりも明確な殺意が俺に向けられているのを肌で感じて、固唾を飲む。殺意と無縁の世界に居た俺でもわかる、ヤバイくらいに。


「こっっえぇぇ」


 そう呟いて刀を引き抜き、滴る血を意識しないようにしながらあいつに向かって走り出す。


 一拍遅れてあいつも走り出す。すぐに飛び上がり、今度は牙ではなく前足での攻撃だ。俺は前屈みになることでそのまま前転をして、体スレスレになんとか回避。尻餅気味に足が地面に着いた瞬間、地を蹴ってその勢いのまま刃を上向きに斬り上げる。


 その切れ味は凄まじく、一切の引っ掛かり無く骨すら断って、魔物は真っ二つになってしまった。


「ま、まじか~......」


 呑気にぼやくが、その言葉とは裏腹に俺の目の前には少々───いや、かなりグロテスクな惨状が広がっている。俺が住んでいた世界じゃ、そうそう見られない光景だ。あまり見たくは無いが。


 流石に想像通りの動きは出来なかった。ズバンッ、ザシュッ、バタッ、相手は倒れた、なんてものは不可能。しばらくは動けても今のようなギリギリで硬い動きになりそうだ。


 俺は刀に着いた血を、麺を湯切りする様に何度も振って飛ばしてから鞘に納める。取り敢えず目先の脅威は去ったわけだが、如何いかんせんどこに行けばいいのかわからない。

 周囲を見渡してみると、戦闘中には気が付かなかったが、俺の足元には人が三人程横に並んでも余裕があるくらいの砂利道が出来ていた。遠くの方を目を凝らして見てみると、点々と灯りが設置されている。

 おそらくこの先に街があるのかもしれない。


「うーし、取り敢えず道に沿って進んでみるか!!」


 はやる気持ちが抑えきれずに道を走り出す。高校生活中、部活は軽音部でドラムをしていたことと、中学の時はバスケ部だったこともあってか、体力にはもう少し余裕がある。

 徐々に木々が減っていき、視界が開けていく。俺はその絶景に立ち止まり、息を飲んだ。


「すっげぇ広い草原……それにあれって街だよな!すげぇよ、まじでファンタジーな世界だ!!」


 叫びながら街へと急ぐ。小鳥のさえずり、草原を巡る風、降り注ぐ日差し、その全てが心地いい。

 街は高い石垣に覆われていて、門の前に立っても全くその全貌がわからない。門の前には二人の衛兵がいて、彼らは銀の鎧に身を包み、槍を持って鋭い眼光を向けることで、周囲の警戒をしていた。


「っあ、こんにちは〜」


 一旦そのまま入れるのか試してみることに。

 2人の衛兵にこれでもかという程のスマイルを向けて、門を潜ろうとする。しかし、俺の行動に呆気に取られていた2人は、すぐに衛兵としての役割を果たすべく、俺の腕を掴んでドスの効いた声で威圧してきた。


「おい、何者だ!身分がわかる物を提示したまえ!」


「いや、スゥ〜……身分の分かる物とか持ってなくて〜。一応世界樹から来たんですけども……」


 俺にそう言われた衛兵は怪訝そうな表情で俺を見つめる。


 ───っあ、世界樹からって伝わるのか...??


 一瞬不安に思ったが、もう言ってしまったのだから仕方ない。


「ああ!ようこそお越しくださいました、冒険者の街【ペリペティアス】へ!女神様の神託で皆様がこの世界に来られることは、前々から把握しておりました。どうぞお入りください!」


 衛兵はすぐに姿勢を正して左右にけて、俺に敬礼をした。


「よかった~!んじゃ、入らせてもらいまっす!」


 サッと敬礼を真似て街へ足を踏み入れる。


「おっほほ~!!まじでゲームの世界みたいだ、現実だなんて信じらんねぇ!!」


 そう叫んでしまうのも無理はない。ラノベやゲームで散々見て、読んで、妄想した街が目の前に広がっているのだから。建築様式はゴシックかロマネスク、ルネサンスにバロック、正直見ても判断はつかないが言うなれば、中世ヨーロッパ時代の建築って感じだろう。


 一級建築士を志した時期もあったから、若干の知識はある。とはいえ全くの素人だ、詳しくはわからない。


 街を行き交う人々は様々な格好をしていて、冒険者の街と言っていただけのこともあり、武装した者も多い。


「うーん流石に世界を一人で救えるわけ無いしなぁ。冒険者になってあいつら探すのが一番いいかもな!」


 この世界に転移させられているであろう幼馴染達を探すのが、俺の今後の目標だ。


 一番人の出入りが激しい場所、そこの看板には冒険者ギルドと書かれており、ゴツゴツの装備をしたおっさんから軽装備の女性などなど様々な人が出入りしている。


 ふむ、いいね。目の保養だ。


 なんて思いつつ歩を進める。ギルドの前は広場のようになっており、噴水やベンチなんかが設置されていて、冒険者以外の人達も利用して賑わいを見せていた。


 そんな喧騒を余所に、俺は冒険者ギルドの扉を叩くのだった。

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