【世界樹から始まる転旅録】~突然、異世界おじさんに世界樹へ飛ばされて守護者候補に選ばれた俺達。どうやら、終幕へと向かう世界達を救うことになりました~

NoiR/ノワール【カクヨムコン出場中】

救世主、始めました。

第一章 初めまして、異世界

第1話 残り物には福がある……かも?

 木々の群生によって日光が遮られ、鬱蒼うっそうと生い茂る緑が、ここが今まで生きてきた近代社会ではないことを嫌という程に実感させてくる。


 周囲には俺を取り囲むように狼の姿をしている魔物が二体、よだれを滴らせながらにじり寄り、今にも襲わんとする勢い。何を隠そうこの俺、橘雫たちばなしずくは自称異世界おじさんによって異世界へと転生───いや、転移させられてしまった。


          ◇───◇


 俺はいつものように生徒会の仕事を終え、自転車で帰路についていた。既に日は落ち、夕焼けの空が一日の終わりを知らせている。

 代わり映えのない風景を横目に、俺はつい最近の出来事を思い出していた。


『異世界転生はしてみたいか?』


『は?』


 今日の様な夕焼けの綺麗な日に、信号待ちをしているところを変なおじさんに訪ねられた。その時はなんかのインタビューなのかなとも思ったけど、今にして思えばだいぶ怪しかったなぁ。


『んー仲良い人と一緒なら楽しめそう!でも転移のが俺は好きかな!別の人間としてよりも俺、橘雫として異世界に居たい』


 一旦深くは考えない俺。まあ、仲間と一緒ならどこでも楽しいからね。


 その答えを聞いてすぐにどこかに居なくなったけど、本当になんだったんだろうか。その日は流石にそのことをツイートしつつ歌ってみたの告知もして、面白ツイートによるバズりを狙ったが何も起きなかった。残念ながら。


 そういやあいつらも同じこと言ってる人に会ったとか言ってたな。


「なら、世界を救う救世主になれ」


「ッ!?」


 思考から戻った俺の耳に一番に届いたのは、男の声だった。

 あの時と同じ場所、同じ時間、同じ声。


 一瞬にして恐怖を覚えた俺は、自転車から飛び下りて声の方へと振り返る。

 銀の装飾が施された黒いローブを纏い、フードを深く被っていてその顔は確認できない。でも、間違いなくあいつだ。得体の知れない恐怖に染まった俺の脚は、地面に縛り付けられたかの様に動かすことができない。


「一瞬だ、痛みは無い。お前が───いや、お前達が救世を成すんだ」


 その言葉と共に男は一瞬にして俺の隣に並び立ち、肩に触れられたと感じた時には、真っ白な空間に転移させられていた。


 そこには俺以外にも人がいて、見知った顔も数人。全員が全員、訳がわからないといった表情で、俺も全く状況が飲み込めずにいる。それもそうだ、急に景色が変われば混乱する。

 だが、既に恐怖心は無くなっており、どうやら何かをされるかもというものよりも、何者かはわからないがあのおじさんに対して俺の身体は拒否反応を起こしていたのかもしれない。


「な、なにこれぇ」


 思わずそう口にする。その瞬間真っ白な空間に、髪が長く混じりけのない純白の翼が背に六枚、俺達よりも数倍の大きさの麗しい女性が現れた。


 可愛い、美しい、麗しい、どの言葉でなら彼女を言い表せれるだろうか。だが、どうやら持ち前の頭スーパーブレインは、転移させられた影響であまり使い物にならないみたい。


『人の子らよ。そなた達は世界樹守護者の候補者としてここに召喚されました』


 女神の様に美しい彼女は口を動かさず、直接脳に語りかけることで俺達に説明をしているようだった。周囲の人達は唖然としているようだが、俺は何よりも好奇心が抑えられない。


 ───世界樹、守護者の候補者...テンション上がるじゃんよ!!


 心の中でそう叫び、顔のにやけ面はしばらく直りそうもない。


『既に異世界へ送った者を含め、計二十一人。そしてこれは、異世界へと送る前に私からのプレゼントだ。一つだけ、能力を選んで持っていくことができる。それと武器だ。能力と一緒に選ぶといい』


 そう言って彼女は一人一人の目の前に仮想液晶の様な物で様々な能力と武器を表示させる。表示されてない箇所含め、きっかり人数分のようで、おそらく表示されていないのは既に転移した人達が選んでいるんだろう。


 武器は多種多様で、正直全部見るのは大変すぎるかもしれない。能力はもうちょい用意してくれてもよかったんじゃないかと思ってしまうが、口にはしない。それに、俺はもう選び方を決めているのだから個数は関係ない。


 周りの人達は我先にと能力を選び、続々と選択肢が消えていく。そして最後の一つになったそれを選び、触れる。眩い光が俺を包み込み、不思議とその能力の使い方が脳裏に浮かび上がってくる。まるで産まれたその時からしていた呼吸の様に。


 ───そうさ、残り物には福があるって太古の昔から決まってんだからな!


 心の中で叫び、能力が身体中に馴染んで行く感動を噛みしめる様にして笑ってしまう。


 次に武器だ。どうやら刃物だけでなく、銃器も少しあるみたい。悩ましいが、これもほぼ一択。


 俺は刃物のコーナーにある日本刀を選択する。青白い粒子と共に、目の前に刀が顕現した。刀に憧れがあった俺にはぴったりの代物だ。


 ───くぅ~!!これこれぇ!最高だぜぇ~


 俺と離れた位置にいる見知った顔の1人、親友の月代つきしろ幸成ゆきなりはどうやら剣を二本選んだらしく、既に二本の剣を肩から背中でクロスするように提げていた。手には革製のフィンガーグローブを着用していて、なんの迷いもなく女神の発言を待っている。


 流石だ、適応が早すぎる。


 俺はあいつの元に駆け寄り声をかけた。


「っよ!幸成」


「やっぱお前もか、雫」


 俺がいることにあまり驚きを見せない幸成は、俺の格好を下から上に流し見してフッと笑う。


「なんだよっ」


「いや~別に?やっぱ刀なんだなって思ってさ」


「そういうお前こそ二刀流じゃねぇか!」


 お互い様だろと軽快にツッコミを入れる。


「あったり前だろ?魂の形がそうなんだよ」


「ちょっと何言ってるかわからない」


「なんでわかんねぇんだよ」


「わかるわけないんよ」


 俺達が軽口を叩き合っていると、転移者達の準備が整ったのか、女神様は再び説明を再開した。


『この世界での一年はそなたらの世界での約一時間程。そこに関しては心配する必要はない。大前提として、この世界での死は、そなたらの世界での死を意味する』


 その言葉で一気に緊張が走る。


 どこか現実離れしたゲーム感のせいで失念していた。俺達の世界での死、日本に住んでいればあまり身近に感じることはない。他殺、自殺共に俺が目にするのなんてニュースとかネットでくらいだ。でも、異世界じゃそうも言ってられないんだろう。能力があって、武器がある。これはもう、そういうことなんだろ。


 俺含め全員が心の何処かに恐怖心が芽生え、何かの拍子に開花してしまいそうだ。そこに開花するのはどんな花なんだろうか。答えはきっと彼女が持っている。


『すまないが、拒否権はない。既にそなたらは能力を得てしまっているのだから。まあ、元から拒否させる気はこちらにないのだが。では、ここからは異世界の話をしよう』


 そう話し、仮想液晶で世界地図の様な物を表示させた。


『まず異世界というのは、ここ世界樹から枝分かれした先にある無数の世界の一つ。そなたらの世界も枝分かれした先の一つだ。幹に近ければ近い世界程、そなたらの世界で超常現象とされる力が存在する世界がある。今回は枯れ逝く運命を辿りつつある世界を救ってもらいたい』


 世界地図が拡大されていき、おそらくその世界の様々な地域の写真が複数映される。そのどれもが美しく、本当に存在しているのかと疑いたくなる程で、俺がいる世界ではあり得ないような場所まで存在していた。今までゲームやアニメで見てきた空想の世界に高鳴る鼓動を抑えられない。


 次々と映し出されるそれには、そこに住まう人々やその生活、俺の世界にはいない未知の生物───


 そして、魔法。


 燦々さんさんと輝く魔法によって繰り広げられる、未知の生物との戦闘は目を見張るものがある。


 闘技場の様な場所では対人戦も行われていて、重なり合う魔法がまるで花火のようにきらめいていた。


 どうやら魔法は人々の生活に溶け込んでいるようで、ライフラインにも用いられているのが見てとれる。


『救ってもらう世界、アルシュデビュンへはわたしが送ろう。だが、それぞれを全く別の場所に転移させる。それ以降は協力しようが、一人で挑もうが好きにするといい』


 女神様は映し出された世界から切り替え、次に俺達候補者の写真が映し出された。


『世界樹の守護者というのは、単に世界樹を守ればいいというものでもない。無数に広がる世界全てを観測し、救う。これこそが守護者に求められるものだ』


 女神様の言葉にはどこか重みを感じる。消えゆく世界一つ一つに感情が向けられているのが、よくわかる。


『あくまでアルシュデビュンという世界を救うのは、通過儀礼に過ぎない。これから先、領域外……外来種と対峙する為には数多の世界を救い、実績を積んでもらわねばならない』


「てことは色んな世界を渡り歩くことになるわけか」


「だから転生ではなく転移なんだろうな」


 俺の隣で幸成は納得した様に呟く。


『妾は願っている。其方ら全員が救世の光になることを』


 そう言って彼女は手を上に掲げる。その手の平から漏れ出す光が俺達を包んでいく。


「そんじゃ、あっちでな。どうせ合流する気だろ?」


 幸成は光に包まれつつ俺に拳を向けてくる。


「おうよ!んじゃ、向こうでな!!」


 それに応えるべく、俺は拳を突き合わせて笑みを浮かべる。


 次第に視界が白んでいき、光に包まれた視界が晴れた先に彼は居らず、鬱蒼とした森が広がっていた。


 見渡す限りの緑は、ここが現代日本ではなく異世界であることを実感させてくれる。


 けど、小鳥のさえずりは全く聞こえない。流れる空気は澄んでいるはずなのに、その静けさは俺の心の不安を駆り立てる。


 その時、森の奥から低く唸るような咆哮が響いた。


「ッ!」


 俺は思わず息をのむ。


 心臓が跳ねて緊張で汗が背筋を伝う中、女神の言葉が脳裏をよぎった。


『妾は願っている。其方ら全員が救世の光になることを』


 救世。女神様はそう最後に告げて、俺達を見送った。


 そうだ。だからこそ、俺はならなくてはいけない。


「なってやるさ。世界に救世の光を灯す、英雄に!」

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