星を喰う竜と最後の配信者
JASピヲン
第1話:星が消えた夜
ミオはヘッドセットを床に叩きつけた。
「また0人かよ…!」
画面の右下、視聴者数を表す数字が冷たく光る。
0……いつも通りだ。
引きこもりの彼女にとって、配信は唯一の世界だった。
外に出る勇気もない。
友達もいない。
ただ、マイクに向かって喋って誰かが聞いてくれるのを待つだけ。
それがミオの日常だった。
部屋は薄暗い。
カーテンの隙間から漏れる街灯の光が埃っぽい机を照らす。
モニターだけが唯一の灯りだ。
ミオはため息をついて缶コーヒーをあけた。
苦い味が口に広がる。
「もうやめようかな…」
そんな呟きが、マイクに拾われることもなく消えた瞬間——空が割れた。
ドンッ!
爆音が部屋を揺らし、ミオは椅子から転げ落ちた。
「何!?」
慌ててカーテンを開けると、空が赤く染まっていた。
いや、違う……星が消えている。
いつも見慣れた夜空の輝きが、一つ、また一つと消えていく。
そして、その中心に——巨大な影が浮かんでいた。
竜だ。
鱗が月光を反射し、翼が風を切り裂く。
まるで神話から抜け出したような姿。
でも、こんなの現実じゃない。
ミオは目を擦った。
でも、消えない。竜はそこにいた。
「何…何!?」
震える手でスマホを手に取る。
Xを開くと、トレンドが埋まっていた。
「#星が消えた」「#竜出現」「#終末」
TLがパニックで溢れてる。
誰かの投稿。
「今、空に竜がいる。マジでやばい」
ミオは息を呑んだ。
冗談じゃない、これは本物だ。
その時、スピーカーからノイズが走った。
ザザッ…ザザザッ…。
「ん?機材おかしくなった?」
ミオがヘッドセットを拾い上げた瞬間、低い声が響いた。
「……我は星を喰う者……星を喰らい、此の地を終焉に導く……」
竜の声だ。
ミオのマイクが、なぜかその声を拾っていた。
「うそ…!?」
心臓が跳ねる。
竜の目が、こっちを見てる気がした。
いや、見てる。
ミオの部屋をモニター越しに覗き込むように。
「やばい、やばい、やばい!」
逃げなきゃ!
でもどこへ?
引きこもりのミオに外の世界なんてない。
震える指が、なぜか「配信開始」のボタンを押していた。
画面が切り替わり、いつもの配信画面が映る。タイトル欄に慌てて打ち込む。
「【緊急】空に竜がいる!助けて!」
カメラはオフ、声だけだ。
でも、それがミオにできる精一杯だった。
視聴者数、0……いつも通り。
「誰も見てないよな…はは…」
乾いた笑いが漏れたその瞬間——数字が跳ねた。
1、10、50、100…
「え!?」
コメント欄が動き出す。
「マジかよ何!?」「竜!?」「声聞こえた!」
視聴者数が止まらない。
500、1000、5000…
ミオの喉がカラカラになった。
「うそ…バズってる…?」
コメントが溢れる中、一つのメッセージが目に飛び込んできた。
「ミオ、『いいね』を押せ。竜が弱る!」
「は!?」
意味が分からない。
でも次の瞬間、竜の咆哮が途切れた気がした。空の赤が少し薄くなった。
「まさか…?」
ミオは震える指で「いいね」ボタンを押した。視聴者数、1万突破…………。
そして——竜が吼えた。
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選択肢で主人公の行動が変わるようにしていく予定なので参加していただけたら嬉しいです。
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