S級美少女たちに告白された結果、1人を選ぶ為になぜか全員と付き合うことになりました。
戸来空朝
第1話 彼女が(3人)出来た日
夕暮れ迫る放課後。
グラウンドから聞こえてくる運動部の活気ある声と鳴り響く吹奏楽部の演奏。
そんなどこまでも正しい学校の放課後の空気の中。
俺、
ここの廊下はグラウンド側な為、窓から見下ろせば部活中の生徒だったり、下校中の誰かの姿が見える。
その中に今日はデートだと嬉しそうに話していた悪友の1人であるクラスメイトの男子の姿を見つけた。
なんでも、お花見デートらしい。
なんとはなしに眺めていると、後ろからこれまたクラスメイトの女子が追いついてきて、合流した2人は仲睦まじそうに手を繋いで歩いていく。
(まあ、なんと言うか……あれだな)
遠ざかっていく2人の背中を見下ろしながら、俺はふう、とアンニュイなため息を漏らし、
「——あいつ急に重度の花粉症になってお花見デート楽しめなくならねえかな」
悪友に向かって思いっきり私怨を吐き出した。
だってそうだろ!? 彼女とお花見デート!? ざけんじゃねえよ! 俺だって彼女欲しいわ! 桜の花びらが舞う下でイチャイチャしてえわ! そんな甘酸っぱい青春送ってみてえわ!
要するにただの妬みだが、彼女のいない人間に延々と惚気話をしてくる方が悪いと思います。
「……いや、こんな妬みを言うのも今日までだ……!」
なぜなら、俺は今、仲のいい女子から呼び出しを受けているからだ。
仲のいい女子からの放課後、屋上という人気のない場所への大事な話があるという呼び出し。
いつもは距離が近くても童貞特有の痛い勘違いをしないように自分に言い聞かせてはいるが、シチュエーション的にこれは期待してもいいはずだ。
(でも、本当に告白だとして)
俺はそれを受けてもいいのだろうか。
浮つきかけた心に問いかける。
断じて、その女子のことが嫌いなわけじゃない。むしろ異性としては最も気になっていると言っても過言じゃない。
ただ、俺にはそいつと同じくらい仲が良くて、気になっている女子があと2人いる。
不誠実と思われるかもしれないが、好きとまでははっきり言えないものの、確実に気になっている女子が呼び出してきた奴を含めて3人いる。
「はっきりと誰か1人が好きってわけじゃないのに、ただ告白されたってだけで付き合ってもいいのか……?」
そんなの相手に失礼じゃないのか?
「って、やべ。そろそろ行かねえと」
そもそも告白されるって決まったわけじゃない。
でも、やっぱり、もしかしたら……。
さっき自問しておいて舌の根も乾いてない内にあれだが、どうしたって抱いてしまう淡い期待を胸に、俺は屋上へと辿り着いた。
扉を開ける前に深呼吸を挟み、扉を開くと、
「——やっと来たわね」
そんな声が俺を出迎えた。
そこにいたのは勝ち気な雰囲気で、明るめな茶髪を片側だけ括って背中側は下ろしたままにしている女子だ。
でも、そこにいたのは1人だけじゃなく、
「はるか。待ってた」
「来てくださってありがとうございます」
俺が仲が良くて、呼び出してきた奴と同じくらい気になっている2人……前髪が長めでどこか眠たそうな眼をしている黒髪ボブカットの女子と、腰まで伸ばした色素の薄いプラチナブロンドヘアの青い瞳の女子も一緒だった。
それを確認した俺は、
「ぐぅ……ッ!」
思わず目を片手で覆い、天を仰ぎ見た。
(現実ってやつは……! 半端に期待させておいていつも裏切りやがる……ッ!)
3人が一緒にいるということは、つまり告白の線は消えたということ。
心の中でどれだけ葛藤したところで、俺だって彼女が欲しい男子高校生! 正直8割くらいの期待はしてたさ!
「ちょ、ちょっと? 急にどうしたのよ?」
「いや……やっぱ現実ってクソだなって再認識してただけだ」
心配そうな顔をして近付いてきたのでそう告げると、俺を呼び出した女友達、
「……で、わざわざこんな所に呼び出してなんの話だ?」
気を取り直して、俺はちはやに向き直りつつ問いかける。
告白という夢が潰えた以上、なんの話なのか、見当もつかない。
「そ、そうよね。うん、は、話……話、よね」
尋ねた途端、ちはやがなぜか顔を少し赤くして、急にしどろもどろになった。
いつもはっきりとものを言うこいつにしては珍しい態度だ。
怪訝に思う俺の前で、ちはやはちらっと俺をしおらしく見上げてきて、数度深呼吸してから、意を決したように唇をきゅっと引き結んで、顔を赤くしたまま叫んだ。
「——は、遙! あ、あたし……! あたし、あんたが好き! あたしと付き合って!」
「………………へ?」
今、なんて……?
今目の前で起きたことに処理が追いつかず、俺がフリーズしていると、
「ちはや、間違えないで。はるかを好きなのはちはやだけじゃなくて私たち」
「そ、そうですよ。自分だけ好きみたいに言うなんてずるいです」
他の2人がちはやに不満そうな目と声を向ける。
「いや、告白なんて大事なこと人任せにしようとしないでよ」
そんな2人に対して、ちはやはジト目で応じた。
「あんたたちになにも言わずに告白するなんてフェアじゃないから報告はしたけど、今日そもそも告白するって言ったのはあたしだし、あんたたちは勝手についてきたんでしょ? 気持ちを伝えることまで面倒見られないわよ。それは自分でやりなさい」
「う、そ、それは……」
「……そうだね」
フリーズしてなにがなんだか状況を理解出来ない俺の前に、ずいっと寄ってきて顔を見上げてきたのは、前髪が長めな黒髪ボブカットの
「——私も、はるかのこと好き。大好き、だよ? だから、私と付き合ってほしい」
ちはやに次いで告げられた想いに、今度はリアクションすら取れなかった。
ただでさえちはやの告白の処理が終わってないところに2人目の告白。正直パンク寸前だ。
「あ、あう……柚乃さんまで……!」
ただただ呆然としていると、最後に残った1人である、ライラ・フレリックが顔を赤くしたまま、俯きがちになった。
「……あのさ」
ライラがちはやと柚乃を見て、もじもじとしている時間を利用して、どうにか動くようになった口を動かして、問いかける。
「状況的に、ライラも俺のことを、その……好き、なんだよな……?」
「……っ、……はい」
ライラは顔色を更に赤く染め、やがてこくんと小さく頷く。
それから、潤んだ青い瞳で見上げてくる。
「ずっと……ずっと、好き、でした……。遙くんに、わたしの恋人になってほしい……です」
つっかえつっかえになりながらも、いじらしく伝えられた気持ちに、三度、俺の鼓動が早くなった。
とはいえ、3度目ともなるとさすがにさっきみたいに驚きで息をするのも忘れるほど固まったりはしない。
(告白されたからには、この中から1人選ばないといけないんだよな)
ごくり、と生唾を飲み込み、3人の女の子に視線を巡らせる。
そして、静かに息を吐いた。
(そんなの急に選べるわけねえだろ!?)
ちはやに柚乃にライラ。
全員同じくらい仲が良く、異性として気になっている女の子たち。
しかもこの3人は、それぞれが突出して整った容姿をしていて、いわゆるS級美少女と呼ばれる存在だ。
そんな3人から告白されて誰か1人を明確に好きと言えないこの状況で、1人を選べなんて無理難題にもほどがあるだろ!?
「どう? 誰と付き合うか決められそう?」
「……この顔が決められそうに見えるか?」
今生涯で1番眉間に皺を寄せてるって自覚があるぞ。
「まあ、そうよね」
「うん。ゆっくり考えてほしい」
「はい、返事を急かすなんてこと出来ませんから」
「いや、そう言われてもなぁ……」
この話を持ち帰って考えたところで、答えなんて出ないのは分かりきっていることだ。
告白されているのに返事を保留して、あまり待たせるのは絶対によくない。
全員を振るのが1番早くて角が立たない方法だろうが、それを選べないくらいには俺はこいつらのことを好意的に見てしまっている。というか彼女は欲しい。
「だったら、こうしない?」
悩んでいる俺を前に、ちはやが真面目な面持ちで口を開く。
「——3人全員と付き合うの」
「………………はぁ!?」
こいつ今とんでもないこと言わなかったか!?
「ちょっ!? なに言ってんだよお前!?」
「そ、そうですよ!?」
「どういうつもり?」
俺、ライラ、柚乃がちはやにそれぞれ食ってかかる。
「だって、3人の中から1人を選べないんでしょ? なら、逆に全員と付き合ってから最終的に1人を決めればいいのよ」
「は、はぁ?」
1人を選ぶ為に3人全員と付き合う? ますますなにを言ってるのか分からねえ。
眉を顰めて、ライラと柚乃を見ると2人も怪訝な顔をして首を傾げていた。
そんな俺たちを見て、ちはやが「いい?」と得意気に人差し指を立てる。
「付き合ってみたはいいものの、なんか違うから別れたなんて話、よく聞くじゃない?」
「ああ、聞くな。価値観の違いとか」
なんとなく気になって付き合ったが、自分の想像と違ったとかなんとかで自分の都合を押し付けて相手のことを理解をしようともしないなんて腹立たしい話をよく耳にする。
蛙化なんて自分が相手のことを受け入れる度量がないだけだと個人的には思うが、そういう考え方が一般的になってきているのは間違いない。
「でしょ? だから、3人全員と付き合ってから1人を選ぶの。そうすれば、遥にとって誰が彼女として価値観や相性が合うのか確かめることが出来ると思わない?」
「た、確かにそうかもしれませんが……さすがに3人全員と付き合うというのは無茶苦茶なのでは……?」
「……私はちはやの案に賛成」
柚乃がぽつりと呟く。
「ゆ、柚乃さんっ!?」
「だって、それなら証明出来る」
「証明?」
今度はちはやが首を傾げた。
普段感情が読みにくい柚乃のその瞳には、珍しく挑発的な色が浮かんでいた。
柚乃がちはやとライラをぐるりと見てから、真っ直ぐ俺を見つめてくる。
「この中で、私が1番はるかのことが好きだってこと」
「「……む」」
その宣言にちはやのみならず、あたふたとしていたはずのライラも揃って眉をぴくりと動かす。
ちなみに俺は不意打ちの好意に顔を赤くしてしまった。
「私はそう断言出来る。けど、ちはやとライラの気持ちが決して軽いものじゃないってことも理解してる。それは、きっとここにいる3人が全員同じようなことを考えてると思う」
「「……」」
無言で見つめ合う3人。
多分、柚乃の言っていることが的を射ているからこその沈黙だろう。
なんて冷静に分析している俺、実は心臓ばっくばくである。
そりゃ仲の良い美少女にこぞって自分が1番俺のことが好きだなんて言われたら顔も赤くなるし鼓動は大暴れするだろ。
「これは誰が1番はるかのことを好きなのか、正々堂々、フェアに決められるチャンス。だから私は賛成。……あとはライラ。あなたはどうしたい?」
「わ、わたしは……」
ライラが言い淀む。
そりゃ、こんな提案悩んで当然だ。
かくいう俺だって、まだ覚悟を決めきれてないのだから。
そんな中、ライラが唇をきゅっと引き結び、青い瞳に決意を宿して俺たちを見つめてくる。
「わたしだって、遥くんのことが大好きです……っ! 遥くんの彼女になりたいです……っ! ちはやさんと柚乃さんに負けたくありません!」
「そう。それなら、決まりね。……遥、いい?」
「……あーくそっ! 分かったよ!」
女の子がこんなに覚悟を決めてるのに、男の俺がいつまでも覚悟を決めないわけにはいかない。
例え非常識な関係だろうと、こうなったらやってやる!
「3人とも、これからよろしくお願いします!」
進級を控えた春休み前の3月のとある日。
こうして、俺、朝日奈遥は本命の1人を決める為に、3人と同時に付き合うことになったのだった。
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