魔王討伐まで、あと……

タカナシ

第1話

「おおっ!! 勇者召喚に成功したぞ」


 おっさんの声が響き渡り、俺は目を開けた。


 燭台からの蝋燭の明かり、石造りの知らない天井。


「こ、ここは?」


 体をゆっくりと起こすと、そこにはローブを被ったおっさんと、明らかに王様然としたおっさんの姿が目につく。


 あ~、異世界転移とか転生とかってやつか。

 俺は自分に触れて、どうやら姿形は変わっていないことを確認し、異世界転移ってやつかと納得した。


「勇者よ。ここはブリムチャ国の王城である。そして、あなたはそこに召喚された勇者だ。勇者よ、どうか魔王討伐の為にその力を貸してほしい」


 起き抜け一番にそんな話をされ、さらに謝罪の一言もないのに若干不信感を抱きながらも、異世界なんてそんなものだろうと解釈し、次に進める為、俺は頷いた。


「魔王ってのを倒せばいいんだな。まぁ、チート能力とかあれば善処はする。ああ、あと当然だけど、俺はこの世界に慣れていないし地理も文化もさっぱりだ。ナビゲートしてくれるヤツくらいはつけてくれるんだろう?」


 俺の答えは王様に対し満足いく答えだったようで、


「おおっ! よくぞ言ってくれた。ここまで即断即決の勇者ははじめてじゃ! もちろんナビはつけるつもりじゃ。ほれ、入れっ!」


 王様に促され入って来たのは、小さな光の塊。

 かと思えば、その光の塊は俺の目の前まで飛んで来て止まる。


 光の中をよくよく見るとそこには羽根をもった小人の女性。俗に言う妖精が潜んでいた。


「彼女はナビ妖精のアルウラだ。以後は彼女に聞いてくれれば何でも答えてくれる」


 そうして、まるで厄介事を追い出すかのように僅かばかりの金と安そうな剣だけを渡された。


「では勇者さま、まずは自己紹介ですね。私はアルウラ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」


「いや、ピカソかよっ!! って最後ピカソって言ってるじゃん!! え、それ本名? 本当に、え、俺、キミのことなんて言えばいいんだよっ!!」


「え、それはもちろん、対等な関係なので、ちゃんと、アルウラ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソって呼んでください」


「長いって!! ま、まぁ、いいや。名前を呼ばなければいいだけだからな。とりあえず、これ、普通の剣だよな」


「いいえ、これは強化された鉄の剣で、鉄の剣+3.1415926535…………」


「いやいや、もういいっ!! わかった武器の説明はもういいから、最初の町を案内してくれ」


「最初の町ですね。最初の町は、スター都寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ――」


「いやいや、待て待てっ!! もう先が読めたから、言わなくていいっ!! 本当にそんな名前なのか、絶対嘘だろ!!」


 俺は右も左も分からない中、ナビの妖精の力を本当に少しだけ借りて、なんとなくの方角を、「輝く天狼の星の方角です」という意味不明な言葉から解読して北に進み、最初の町にたどり着いた。


「やっぱり、最初の町は『スター都』だけじゃねぇかよっ!! アルウラ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ騙しやがったなっ!! お前の所為で、ここに来るまで何日かかったと思っているんだ。 しかも、草原でモンスターと戦ってとかじゃなくて、名前呼ぶだけとか名称を聞くだけで終わってるんだからなっ!! お前の名前も憶えちまったし!!」


 ようやく最初の町だよ。ここから俺の冒険がスタートするんだ! そのとき、


「号外っ!! 号外っ!! 魔王が勇者に倒されたそうだ!! 倒したのは7番目の勇者だよっ!!」


 大きな声で、魔王討伐の知らせが響き渡り、人々が歓喜の表情を浮かべる。


「は? マジで?」


 何が起きたのか分からないでいると、ナビ妖精のアルウラから通知された。


「魔王が無事倒されたそうです。魔王が倒れると同時に勇者さまは元の世界に戻れます。ここまで長い旅でしたが、ご一緒できて光栄でした。それでは、ご壮健で」


 俺の体は光に包まれ、次の瞬間、この世界から元の世界へ転移していた。


「え? さっきまでのは夢か?」


 異世界に行った経験とか異世界の品など何一つなく、最後に残ったのは、ピカソの名前と寿限無の名前、それと星座と円周率100桁を暗記したくらいだった。


               ※


「いや~、良かった。良かった。無事魔王も倒してくれて」


 アルウラは乾燥した草に火をつけて煙をくゆらせる。


「勇者を1414人も召喚してて、なんで私がわざわざ危ない目に合わないといけないのよ。いや、まさか適当に言った名前を全部覚えられたときは焦ったけど結果オーライ、危ないことは何一つせずにこの世は平和になったわ~。また魔王が出てきたら、この手で行こう。戦わないのが一番よ!」


 ふ~と吐いた煙がゆっくりと宙へと消えていく。

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