『マスコットデート』④

「食べ放題は六十分間です。時間になりましたら店員が来ますので。それではスタートしますが大丈夫ですか?」

 千春、澪、詩織、りん、が答える。

「はい!」

「いつでも大丈夫です」

「だ、大丈夫です!」

「こーい!」

 店員さんが四人の準備が整っていることを確認して、

「スタートです」

「「「うおおおお」」」

「…………」

 スタートダッシュをしていろいろなスイーツを素早く持ってくる千春、詩織、りんと優雅に歩いてケーキを一つだけ取ってくる澪。千春、りん、が言う。

「澪ちゃん!食べ放題なんだよ⁉」

「みお、お腹空いてないの?」

「そんなに慌てることはないわスイーツは逃げないもの」

 三人の会話を外側から見ている詩織はパクパクとマカロンを食べていた。小動物が食事をしているようでとても可愛らしい。

「おかわり行ってくる!」

「くる!」

 千春とりんはおかわりで席を立つ。

 パクパクパク

 澪が詩織のことを見ている。

「………………」

 パクパクパク……ッ!

 詩織が澪にじーと見られていることに気づいた。その瞬間、詩織の身体がピタッと止まる。猛獣にじっと見られている小動物のような構図。詩織は緊張した様子で、

「み、澪さん?何か……」

「いいえ。気にしないで…………可愛らしいなと思って見ていただけだから」

「ッ!」

 澪は自分のケーキに向き直り、上品に食べ始めた。詩織は澪の様子をちらちら見ながら再びマカロンを口に運んでいく。

「澪ちゃん見て見て~豪華イチゴセット!」

「りんはいろんなケーキ持ってきた!」

 千春が持ってきたのはいろいろな種類のスイーツのイチゴバージョン。りんが持ってきたのは色とりどりのケーキたち。澪がじっとそれらを見て視線を二人に向ける。

「……残すのはダメよ?」

「残さないよ~」

「全部食べる!」

 千春とりんは美味しそうに食べ始める。そのタイミングで澪がケーキを食べ終える。

「あなたも食べ終えたのね。一緒に取りに行かない?」

「は、はい!」

 澪と詩織が入れ替わりで席を立つ。

「りんちゃん!このペースで行こう!」

「ちはる、りんのペースについてこれるかな?」

「大丈夫!まだまだいける!そこにイチゴがあるならば」

「イチゴばっかりで飽きないの?」

「飽きないよ!全部イチゴのスイーツだけど、甘さに全振りしたものもあれば、酸味が強いものもある。バランスが取れたものもあるし、イチゴが丸々使われているものもあるんだよ!全部違うの!だから飽きることはないんだよ~」

 凄い勢いで二人のスイーツの山が消えていく。

「ん~美味しい!りんちゃんは食べ終わった?」

「りんはちはるの十秒前に食べ終わってるよ」

 りんが口元を拭きながら勝者の笑みを浮かべている。グヌヌッと悔し気な表情をする千春。席を立つ。

「今度は負けないから、行くよ!」

「りんには勝てないよ~」

 スイーツが並んでいる場所に来た二人は、話している澪と詩織の姿を確認した。

「二人ともー遅くなーい?」

「なーい?」

 澪がゆっくりと振り返り、

「そんなにいっぱい食べていたら帰りに倒れてしまうわよ」

「確かに……」

 千春は満腹になって苦しそうにしている未来の自分を思い浮かべて不安そうな表情になる。周りのスイーツの甘い匂いも相まってどんどんお腹が膨れていく感覚が全身に広がる。

「わたし、このイチゴのショートケーキで様子見る」

「そうした方がいいわ」

「ちはるーりんとの勝負はどこに行っちゃったの~」

「りんちゃん……わたしはここまでのようだ。あとは頼んだよ」

「もーう!」

 りんは並んでいるスイーツを片っ端から取りながら不満の声を漏らす。そして千春、りんは席に戻っていく。

「す、すごいです」

 詩織はそのりんの様子を見てびっくりしている。詩織が取ったスイーツはまたしてもマカロン。だが今回は小さなカップケーキも取っていた。

「真似する必要はないわ」

 そう言いながら澪はチョコケーキとイチゴのショートケーキと取る。

「二つ?」

 詩織が小さく呟いて首を傾げながら澪が取ったケーキを見る。

「行きましょうか」

 澪のあとに続いて詩織も席に戻る。その瞬間、りんが、

「おかわり行ってくる~」

 詩織が困惑を感じさせる声音で、

「い、行ってらっしゃい」

 澪と詩織と入れ替わるようにりんが席を立つ。詩織はそのりんの食スピードの速さに驚きを隠せていない。千春が、

「澪ちゃーん中途半端にまだお腹に空きがあるんだけど~」

「そう。ならこれを半分にしましょう」

 澪は持ってきたイチゴのショートケーキを半分にした。その半分はイチゴと生クリームたっぷり、半分は先端の三角部分だ。澪はイチゴと生クリームたっぷりの方を千春に渡す。

「ありがとう!澪ちゃん好き」

「……そう、よかったわ」

 そのやり取りを外側から見ている詩織は目を輝かせていた。澪の少し恥ずかしがっている様子や千春の澪への好感度を感じられる。

 それからも詩織は二人の楽しそうな会話を外側からスイーツを食べながら観察していた。

「これだけ持ってくれば大丈夫なはず!」

 ドンッと大量のスイーツをテーブルに置いたりんは満足そうな表情でそのスイーツたちを眺めていた。そして、どれから食べようかな~と選んでプリンを選択し、食べ始める。

 それから千春、詩織、澪、りんはイチゴオレ、オレンジジュース、コーヒー、リンゴジュースを頼んでゆっくり飲みながら話していた。楽しいお話の時間はあっという間に過ぎていき、

「終了五分前です。おかわりはもうできませんのでよろしくお願いします」

 そして、「終了です」

 優雅なティータイムは終わってしまった。


     ☆

 千春、りん、澪、詩織は店を出て、

「美味しかったねー」

「エネルギー補給完了!」

「そうね」

「はい!」

 時間はもう夕方だ。千春が、

「んーあと行けるのは一か所ぐらいかー……どうする~?」

「わたしは合わせるわ」

「りんも合わせる~」

「…………」

 千春がじっとしている詩織に訊く。

「詩織ちゃん?どこか行きたいところある?」

「……あ、あの!」


     ☆


 四人が来たのはゲーム筐体きょうたいが無数に広がっているゲームセンターエリア。車のゲームや銃撃戦のゲーム、コインゲームも見えるが数で言えば圧倒的にUFOキャッチャーが多い。千春が、

「まさか詩織ちゃん、ロットちゃんを狙いにいく気なの」

「は、はい」

 緊張した様子でロットちゃんのUFOキャッチャー限定のグッズを狙っている詩織。千春はその背後で、

「詩織ちゃん……覚悟はあるの」

「はい!」

「…………ちなみにわたしは半日くらい頑張ったよ……」

 千春がキーホルダーを三つ見せながら言った。詩織は、

「わ、わたしも頑張ります!」

 お金を入れてクレーンを動かす。そのクレーンの動きをじっと観察しながら操作する詩織の様子を千春は背後から取れることを願いながら見守っている。

 一回目はクレーンがキーホルダーのチェーン部分にかすって少し位置をずらしただけだった。

 二回目はキーホルダー本体に触れて終わり。

 三回目は大きくずらすことに成功したがまだまだである。

 四回目、五回目、六回目と回数はどんどん伸びていく。


     ☆


「みお~こっちこっちー!」

「ちょ、ちょっと」

 走り回る娘を制御しているお母さんのような澪はりんに連れ回されている。

「これやろ!」

「いいけれど、走るのはやめましょう」

「はーい」

 二人がやってきたのはレーシングゲーム。ハンドルとアクセル、ブレーキなどを操作してレースを楽しむゲームだ。

「みおはこれやったことある?」

「ないわね」

「りんもやったことないから勝負しよ!」

「いいわよ」

「勝ったら負けた方に何でもお願いできるの!」

「それは命令ってことかしら」

「そう!」

 二人で対戦モードを選択する。これにより並んでいる二つのゲーム機で対戦ができる状態になった。相談してコースなどを決め、それぞれ車のカスタムをしていく。

「ん~よくわかんないから一番速いのでいいや!」

 決定ボタンを押すりん。それを見て澪は、

「必ずしもスピードだけが正義というわけではないのよ?」

「?」

 りんは澪の言葉に首を傾げながら澪のカスタムを覗き込む。

 カスタムはハンドリングをメインに加速値がその次に高い。スピード値はりんの半分ほどだ。

「スピード遅かったら負けちゃわない?」

 澪が決定ボタンを押したことでレース画面へと変わる。

「このコースは直線が少ないわ」

「……確かに」

「つまりハンドリングが悪いカスタムは逆に不利ってことね」

 3――とカウントダウンが始まった。

「!」

 1――

「勝負はわたしの勝ちかしら」

「勝負はまだ始まってないよ!」

 GO!

 レースがスタートした。


     ☆

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