『マスコットデート』③
「ひ、広い……」
「広いわね」
「いっぱいお店あるよー」
千春、澪、りん、はその広さに驚いていた。この三人が広さに驚いているのだ、もちろん詩織は、
「…………」
千春の腰にぎゅっと抱きついてまるでコアラの子供のようになっていた。
「詩織ちゃん大丈夫?」
千春が視線を詩織に落としながら訊いた。すると詩織が上目遣いに、
「千春さん……離さないでください、ね」
と言いながら手を差し出してくる。千春はその庇護欲を無限に引き出してくる詩織の手を優しく包みながら、
「うん!それじゃあレッツゴー!」
「ゴー!」
ビューンとりんが走っていく。
「ちょ、ちょっと⁉りんちゃん!ここでは別行動、絶対ダメだから~!戻ってきなさーい」
「はーい」
りんは急旋回して戻ってくる。
「最初はどこに行きましょうか」
澪が案内板を見ながら言った。千春は案内板に近づき、一通り見てから、
「お洋服屋さん、行ってみない?」
声音から期待感が伝わってくる。さらにそわそわ、うずうずしている。
「あなた着せ替え人形にしようとしているわね」
「バレた?」
「…………」
「可愛い服と可愛い女の子のセットは正義なんだよ澪ちゃん」
「…………わたしも含まれているのかしら」
「もちろん!さあ行こう!今すぐ行こう!」
千春と手を繋いでいる詩織とその詩織と手を繋いでいるりんがるんるんと先に進んでいく。澪はちょっと嬉しさや恥ずかしさが浮き出た表情を一瞬でもとに戻して三人のあとを追う。
☆
「三人とも~出てきて~」
千春の言葉と共にシャーッというカーテンの音が三つ聞こえてくる。並んでいる更衣室が三つ空いて三人の美少女が出てくる。
一人は黒を基調とした大人の女性のようなコーディネートの澪。髪をかきあげている様子は美しい。
次はピンクを基調としたフリルがいっぱいついているスカート姿の詩織。おどおどした様子も相まってぎゅっと抱きしめたくなる。まるで二次元のマスコットが三次元に飛び出してきたようだ。
最後は白を基調としたボーイッシュな雰囲気のコーディネートのりん。元気いっぱいな雰囲気と掛け合わさり、見ていてわんぱくさが伝わってくる。
「みんな似合ってるよ~」
千春は幸せそうな表情で三人を見ている。
トコトコと詩織が千春に近づき、スタスタと澪が近づき、シュタタッとりんが急接近する。そして、千春の身体を拘束するようにくっつく。
「な⁉」
「千春、今度はあなたの番」
「千春さん、も、お着替えしましょう?」
「りんたちが選んであげる!」
そのまま更衣室に監禁された千春。
(わたしは可愛いものを見たいだけなのに~…………でも、可愛い子たちに見てもらえるなら、……いいのか?)
大人しく待つことにした。
しばらくすると何着かお洋服が届いた。
(え、これちょっと短すぎない?…………これはちょっと可愛いすぎでは?…………これも、似合うのかな――)
無限に言葉が生成される脳をシャットダウンしてとりあえず着てみる。
一着目はミニスカートのフリフリがついた可愛らしい服。ピンクっていうのも相まって可愛さに全振りしている。千春は恥ずかしがりながら、
「ど、どうですか」
「似合うわね」
「千春さん、可愛い」
「ちはる可愛い服似合うね」
意外と好評だった。千春は心の奥に生まれる新しい何かを感じていた。
二着目は少しボーイッシュな感じのパンツのコーディネート。問題はそのパンツの短さで、千春のふっくらした太ももがほとんど出ている。
(スースーする……)
ミニスカートのときよりも解放感を感じている千春は少し恥ずかしそうに頬を赤く染めている。
その珍しい様子を写真に収めようと三人が一斉にスマホを取り出した。
「ちょ⁉ちょっとみんな⁉」
「千春、許してほしい」
「い、一枚だけですから」
「りんは二枚!」
(……と、撮られてしまった…………)
「……誰にも見せないんだよね?」
涙目で訴えかけてくる千春の様子に胸を射抜かれている澪、詩織、りん、
「ええ、大丈夫よ」
「はい!」
「了解!」
と言いつつ、再びシャッターボタンを押す。
「もう!」
千春は更衣室に逃げ帰ってカーテンをシャッと勢い良く閉めた。
(最後は…………これなら大丈夫かな)
三着目は大きめのダボっとしたパーカーと短いパンツだった。パーカーのおかげで足の露出が気にならない。
カーテンを開けてみんなの前に出る。
千春は長い袖を活かして猫のようなポーズをとる。
「ど、どう?」
自分の中で許容範囲内の服装だからか少しノリノリな千春の様子見て三人は固まっている。
「…………ッ」
千春は恥ずかしさに耐えられなくなったのか顔を真っ赤にして逃げ帰った。そしてあっという間に着替え終えてしまう。
「ぅう」
「千春、さっきのもう一回お願いしてもいいかしら」
「可愛すぎ、でした」
「アンコール!」
もう一回を要求してくる三人に千春はプイッと顔を背けながら、
「ッ!もうダメです!」
☆
お洋服選びで楽しんだ四人はおやつを食べようとスイーツ店を探していた。案内板を千春、澪、詩織、りん、は囲って、
「どこにする~?わたしはイチゴスイーツがあればどこでもいいんだけど」
「わたしも合わせるわ」
「り、りんさんはどこがいいですか?」
「りんはこの食べ放題のお店がいいかも!」
りんがぴょんぴょん跳ねながら指差したのはいろいろな種類のスイーツが食べられるお店だった。どうやら期間限定で食べ放題があるらしい。澪がスマホを取り出して操作している。
「凄く美味しそうよ」
と言いながらスマホを千春、詩織、りん、に見せる。
「おお!」
「美味しそう、です」
「行こー!」
色とりどりのスイーツがずらりと並んでいる店内の写真を見てテンションが一気に上がる三人。澪を置いて走り出してしまう。
「…………」
三人の背中を無言でじっと見ている澪。遅れて店を目指して歩き出す。
(………………このまま何も問題が起こらないのを願うしかないわね)
と思いつつも澪は自分自身で問題が起こらないように全力で監督しようと決心した。
☆
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