わたしが学校のマスコットたちを征服する話
雨宿
『人見知りガール』①
「ホームルームを終了します。皆さんまた明日、学校でお会いしましょう。さようなら」
「「「さようなら」」」
ふわふわなウェーブボブの普通の女の子、
「…………、よし」
ストラップの個数、状態、可愛さの点検が終了した。
千春はゆっくりと立ち上がり隣の席の女の子に手を振る。
「
「…………」
澪ちゃんはサラサラな長い髪、整った顔立ちをしていて美しい。無言で手を振るだけのクールな孤高のお姫様。
「また明日ね」
「……また明日」
千春はその返事に満足して教室を出る。軽い足取りで廊下を進んで下駄箱を目指す。が、
(む、何やら視線を感じるぞ……これはわたしのマスコットレーダーが反応している!)
背後からの視線。間違いない、マスコットだ。千春はスマホを取り出しカメラを起動。内カメにして歩きながら背後を確認する。
(……かわぇえ)
後ろからソソソッと慎重について来る少女が確認できた。小さい身体、長いウェーブがかった髪、くりくりな瞳は庇護欲を
(
激レア中の激レアである。詩織は極度の人見知りでいつもどこかに隠れて姿を消しているからだ。そんな詩織が必死に千春のことを追っている。可愛すぎである。千春は頑張ってあとを追ってきている赤ちゃんを見ているような微笑ましさを感じながら、
(……でも何でわたし?)
あとをつけられている理由がわからない。実際に見るのは初めてだし相手も千春のことはよく知らないだろう。
(?????)
どんなに考えてもわからない。千春は考えることを止めた。
(よし!直接会話をしようじゃないか!)
☆
場所は階段。千春は自然に降りていく。が、途中で止まる。そして勢い良く飛び出す。
「詩織ちゃーん!って、あれ?」
詩織との距離は縮まっていなかった。一定の距離を保たれている。階段の影からじっとこちらを見ている。目が合ってしまった。
「ぁ――」
詩織はあわわわと慌てながら逃げていってしまった。
「……やってしまった」
千春は激レアモンスターに逃げられた勇者のような気持ちでとぼとぼと歩き始める。
(もう二度と来ないチャンスだったのに……)
☆
下駄箱で靴を取り出し、履き替える。
(帰ったら何しようかな……ん?)
玄関のガラスに自分が反射している。そこまではいいのだがその背後にもう一つの人影。
(ゆっくり、ゆっくり――)
千春は驚かせないように慎重に振り返る。
「ッ!……」
詩織は驚いた表情をしているが逃げ出そうとはしない。
「詩織ちゃん……だよね?」
コクリと頷く詩織。
「どうしたの?わたしに何か――」
千春は言葉を止めた。詩織が何かを指差していたからだ。
(……ストラップ?)
指先には千春のバックについているストラップ。詩織が小さな口を開く。
「ぁ……あの……そのストラップ」
「このロットちゃんがどうしたの?」
ロットちゃんは可愛い衣装に身を包んだウサギちゃんのマスコットである。千春はストラップが集まって形成されているマスコットの塊からロットちゃんを出して詩織の目の前で見せる。
詩織は必死に何かを言おうとしているが言葉が詰まってしまっている様子。千春は詩織の装いを観察する。
(…………あ、)
詩織の背後に隠れていたバックにロットちゃんのストラップがついているのを発見した。
「詩織ちゃんもロットちゃん好きなの?」
「ッ⁉」
詩織はうんうんと首を必死に縦に振る。その様子を微笑ましく見ながら千春は、
「ここだとちょっと緊張しちゃうよね。場所変えよっか」
人が集まり始めていた。この中では声を出そうにも出せないだろうと千春は詩織の手を取り、移動を始めた。
☆
「ここなら大丈夫」
「ぅん」
場所は休憩スペース。この時間なら誰も来ないエリア。環境は完璧である。二人はお互いに顔を見合わせるように座っている。
「何かわたしにお話しがあるのかな?」
「ぁの、ロットちゃん……の限定衣装……」
その言葉に千春は自分のロットちゃんを見る。これは最新のマスコット現地ストアで購入した特別衣装のロットちゃんである。
(……背に腹は代えられなぬ)
詩織の笑顔を見るためだ。
「これあげようか?」
その言葉に詩織はブンブンと首を横に振る。
「?」
千春は予想とは違う反応に疑問の表情になる。詩織が口を開く。
「ち、違くて……ぁ、あの……」
「ゆっくりで大丈夫だよ」
千春のその優しい声音に安心したのか詩織は深呼吸をして言葉を続けた。
「一緒に……い、一緒に来てほしい……です」
(……一緒に来てほしい+ロットちゃん限定衣装+現地ストア……!)
わかった。
「現地ストアに一緒に来てほしいってことかな」
「!」
詩織の反応を見て正解だとわかった。
(自分の力で手に入れたいんだろうな……わかる。わかるよその気持ち)
だからこそ苦手な人混みの代表のような存在であるグッズストアに行こうと勇気を振り絞って千春に声を掛けてくれたことに萌える。
(頑張り屋さんだなー偉いよーとっても偉いねー)
よしよししようと頭に手を伸ばそうとしたがビクッと詩織の身体が固まってしまったので千春はゆっくりと手をしまった。
(もう少し好感度を上げてからかー……ん?)
詩織が何かを差し出してきた。小さな手のひらから飴玉が出てきた。
(依頼料ってことかな)
千春は詩織から飴玉を受け取る。すると詩織は満足気な表情になりピョンとイスから飛び降りる。そして急かすように千春を立ち上がらせた。
娘に急かされているお母さんのような微笑ましい気持ちになりながら、
「じゃあ行こっか」
☆
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