第13話 遊園地ダブルデート

 夏の朝は、日が昇るのが早い。まだ眠りについたままの家々を、明るい橙色が照らしていく。川沿いを吹き抜ける風は、昼の暑さをまだ知らない。遠くで小鳥が鳴き、静寂に柔らかなリズムを刻む。

 今日は、Serilionがデビューしてから初めての休日だった。新設芸能事務所としては異例の売り上げを出したSerilionは、セカンドシングル発売後も取材や番組出演と忙しかった。このところようやくひと段落ついたので、メンバーたちへのご褒美として2日間の休みが言い渡された。

 静かな宿舎の中、透真が目を開ける。せっかくの休みだったが、彼にはやるべきことがあった。

「……よし! 行くか」

 起き上がると、透真は慌ただしく部屋を出ていく。そんな彼の後ろ姿を、いつの間にか現れたウサギが見守っていた――。

 

 ***


 巨大なゲートの向こうには、カラフルな観覧車が青空を背景にゆっくりと回っている。赤や黄色のネオンが煌めき、ジェットコースターのレールがまるで絡み合うように空へと伸びていた。入口の両脇には、マスコットキャラクターの着ぐるみたちが愛嬌たっぷりに手を振っている。人々の笑顔があふれ、カメラのフラッシュがあちこちで光っていた。

 屋台からは甘いキャラメルポップコーンの香りがふわりと漂い、鼻をくすぐる。透真は、この瞬間を楽しもうと笑った。

「……休みの日は寝てたいのに」

 黒縁メガネをかけた律音は、フードを目深にかぶり、目を半分閉じたままぼやいた。

「寝てるなんてもったいないだろ! それにもっといいチームワークを育むためだから。なっ!」

 笑顔で律音の背中を押すと、律音は不満げに唸った。その横では、澪が小さく笑いながらチケットを確認していた。

「ほら、もう入場するぞ」

「……平日の朝なのに混んでるなんて、みんな暇なのか?」

 律音はぶつぶつと文句を言いながら、足を踏み出す。凌介はそんな律音の様子を見て、少し困ったような笑顔を浮かべていた。

 透真に背中を押され、律音はしぶしぶゲートをくぐる。微かな春風が頬を撫で、陽射しがじんわりと肌に温かい。透真がポケットに突っ込んだ手の中では、遊園地のチケットが少しだけ湿った指先に触れていた。

 ――律音と凌介の仲がギクシャクし始めてから、数週間が過ぎようとしていた。相変わらずふたりは宿舎では同じ部屋住まいだったし、練習中はいつも通り息がぴったりだったものの、それ以外の時間では凌介が律音を徹底的に避けるようになっていた。

 このままではいつか、グループ活動に支障をきたすだろう。それがメンバーたちの総意だった。そして、ふたりの仲をどうにか修復するため、透真は一肌脱ぐことにしたのだ。

「空翔と龍も来れればよかったのにね」

「まあなー。でも、家族に会いたいって言われたら、無理に誘えないわな」

「うん、そうだね。特に龍の実家は遠いもんね」

 凌介と透真は残念そうに話している。本当はメンバー全員で遊ぶ予定だったが、地方出身の龍之介と空翔は実家に帰ることになって来られなかったのだった。

「……というか、6人も遊園地にいたら流石にバレると思う」

 澪がぽつりとつぶやく。メンバーみんな帽子を深く被りマスクを着けているものの、ファンが見れば Serilionだということは一目瞭然だった。特にスタイルがいい澪、律音は既に先ほどからほかの客にチラチラと視線を向けられている。

「まあ、バレたらバレたでいいじゃん。悪いことしてるわけではないんだし。今日は楽しまなきゃ!」

 透真はそう言うと、笑ってキャラクターのカチューシャを澪の頭へ着けた。可愛らしい猫のカチューシャと、全身黒で固めたスタイリッシュな澪のファッションがあまりにチグハグで、周りから堪え切れない笑い声が漏れた。

「クッ……ふふ、今日の澪は可愛いコンセプトかな」

「おい澪、コンセプト消化できてねーぞ。もっと可愛い顔しろよ」

「無茶言うな」

 澪は、からかってくる凌介と律音に呆れた顔で返事をしながら、別のカチューシャを手に取った。

「透真はウサギだな」

 澪が透真の頭にカチューシャを着ける。透真は視界の隅に入ってくる白い垂れ耳を持ち上げて、どこぞの天使みたいだな……と含み笑いを見せた。

「はいはい、凌介と律音もカチューシャ選んで買ってよ。早く絶叫系に乗りに行かなきゃ」

 透真はカチューシャを着けたまま、「俺も着けるのか!?」と嫌がる律音を引き摺り会計レジへと向かった。

 

 ***


 ジェットコースター乗り場に到着すると、目の前にそびえ立つジェットコースターのレールは、絡み合う龍のように空へと伸びていた。辺りからは「ギャー!」と響く悲鳴、車両がレールを滑る甲高い音、ガタガタと揺れる振動音が入り混じっている。スピーカーからは軽快なBGMが流れているが、絶叫と機械音にかき消されていた。近くのスタッフが「手荷物はロッカーへお願いします!」とアナウンスする声が、わずかに聞こえた。

「……これ、360度回転するんだって」

「見てるだけで酔いそうだ」

 凌介と澪は物凄い勢いで目の前を通り過ぎていくジェットコースターを見て、顔を強張らせた。

 絶叫マシンが大好きな透真は乗るのが楽しみで仕方なかったが、他の3人は待機列の緊張感のせいで食欲さえ失っていた。

「――お次は、4名様ですね。どうぞ!」

 列が進み、透真たちの番がきた。コースターに乗り込み、安全バーを下ろすと、ひんやりとした金属が手のひらに伝わる。座席のクッションは硬めで、背中にしっかりとフィットする。

 コースターが動き出した瞬間、車両が振動し、体が少し浮く感覚があった。風が勢いよく頬を叩き、髪が激しく煽られる。爽快な空気に、心が弾んでいく。

「澪くん、もしかして怖い?」

「別に、怖くない」

 澪はいつものように冷静な表情で答えたが、それにしては手すりを握る指に力が入っている。指摘するのは可哀想だったので、笑いを堪えながら「そっか!」と言うしかなかった。

 やがてコースターが急上昇すると、流石に緊張し、喉がカラカラに渇いた。ふと前の列に座る律音と凌介を見ると、ふたりは自分よりも更に緊張していた。

「律音……ごめん。手、握ってくれないかな」

 凌介は今にも倒れそうな顔色だ。緊張した面持ちで、隣の律音の腕をぎゅっと掴む。

「……ほらよ」

 律音が凌介の手を握ると、コースターが上向きに動き出す。カタカタとゆっくり坂を上がり、頂上で一瞬の静寂──

「うわああああああああ!!」

 遊園地のシンボルである巨大なジェットコースターが、鋭いカーブを切りながら急降下する。風を切る音と絶叫が混ざり合い、空を突き抜けた。急上昇、急降下を何度も繰り返し、透真たちを乗せたコースターはぐるぐると回転した。落下した瞬間、内臓がふわりと浮く感覚がして、胃の奥が軽くひっくり返るような気分になった。

「目が、目が回る~!」

「うう……」

「助けて、吐きそうー!!」

「……」

 透真が全力で叫び、澪は小さく呻く。凌介は吐き気と戦い、律音は叫ぶこともなく、ただ風を受けていた。その顔にはわずかに恐怖が滲んでいる。

 ジェットコースターは猛スピードで終着点へと到着した。コースターから降りると、凌介は膝をガクガクさせながらふらふら歩き、澪が笑いながら肩を支えた。

「あれ~? 律音、顔青いけどビビッちゃった?」

 透真が意地悪な笑顔を浮かべて律音の顔を覗き込む。

「は? 余裕だけど?」

 律音はすました顔を作るが、その足取りは若干ふらついていた。

「あ、そう? じゃあ、続けてお化け屋敷行ってみようか!」

「は!? ちょっと待て、なんでそうなる!」

「だって余裕なんでしょ。ここのお化け屋敷相当怖いらしいよ~! 楽しみ~!」

 ショックで唖然とした律音を気にすることもなく、透真はすたすたと歩き出した。その後を、諦めた顔をして澪と凌介がついていった。


 ***


 お化け屋敷の入り口の前には不気味な提灯が揺れ、かすれた赤文字で『××病院』と書かれた看板がぶら下がっている。廃墟となった病院という設定のようだ。

 館の中に足を踏み入れると、薄暗い廊下が奥へと続いていた。湿気と埃の混じった、古い木材の匂いが鼻を突く。どこからか線香のような香りが漂ってくるが、それが本物なのか演出なのか分からない。

 壁に手をつくと、ざらりとした質感が指に伝わる。古びた木材がひんやりとしていて、ところどころベタつくような感触が不快だった。

「うーわ、かなり雰囲気あるな……。澪くんは怖くない?」

 4人の先導を切るように歩いている澪に、透真が後ろから声をかける。

「うん。こういうのってどうせ作り物だってわかってるから」

 澪が淡々と言ったその瞬間。突然、壁の奥から青白い顔の幽霊が飛び出した。

「……!」

 澪の肩がぴくりと動く。それを見逃さなかった透真が、大爆笑しながら肩を叩いた。

「澪くん、今のは誰でもびっくりするよ! 大丈夫!」

「……大丈夫って何が? 俺はびっくりしてないけど?」

「いやいや、肩がピャッてなってた!」

「なってない!」

「なってたってば!!」

 透真と澪は永遠に押し問答をしている。そのやり取りを見ながら、凌介は口元を押さえて笑い、律音も穏やかに微笑んでいた。

 4人が廃病院の中を進んでいくと、静寂の中に、時折床がきしむ音が響く。遠くで微かに、誰かがすすり泣く声が聞こえたかと思えば、不意に耳元で「ふふ……」という女の笑い声が囁かれる。

 前を歩く澪の肩は強張っており、隣を歩く透真は澪の腕にぎゅっとしがみついている。足元のぼんやりした明かりに頼りながら出口を目指して歩くが、暗闇の向こうから何かが現れそうな予感がしてならなかった。

「キャーッ!」

 突然、すぐ側から女性の悲鳴が聞こえてきた。

「うわああああ――っ!!」

 4人は一斉に悲鳴を上げ、音に驚いた凌介が飛び上がるようにして律音に抱き着いた。律音は「うるさい!」と何故か幽霊に怒鳴り返している。

「俺ならできる、俺ならできる……!」

 澪は震える声で自分に言い聞かせるようにつぶやき、歩みを進めた。

 そして、ようやく遠くに薄明るい出口の光が見えた。だが、4人がほっと息をついた瞬間──

 最後の仕掛けが作動し、血まみれの亡霊が背後から4人を追いかけ始めた。

「ぎゃあああああっ!!」

「来るなあっ……!」

 4人は一斉にダッシュし、悲鳴とともに出口へと飛び出した。外の眩しい陽射しの中で、透真が息を切らしながら振り返る。

「……生きてる……?」

 みんなぐったりと膝に手をつき、無言で頷いた。

 澪は最後まで完走した自分が誇らしいのか、小さくガッツポーズをしている。凌介はいつのまにか自分の腕にしがみついていた律音を見て、思わず笑っていた。律音はよっぽど怖かったのか、目を大きく見開いたまま固まっている。

 遊園地で絶叫系に乗りまくれば、気まずい凌介と律音の仲もうやむやにできるだろう――そんな透真の目論見は見事に成功していたが、ダメージがこれほどあるとは思わなかった。

「ちょっと……休憩しようか?」

 透真が息を整えながら提案すると、3人とも大賛成だと言わんばかりに頭を縦に振った。恐怖で疲れ切った心臓を癒す必要があった……。


 ***


 休憩がてら食事を摂り、パレードを見学すると、夜になっていた。遊園地はライトアップされ始め、イルミネーションが水面に映り、光の粒がキラキラと輝く。特に観覧車の装飾は圧巻だった。カラフルなLEDライトがリズミカルに点滅し、青、赤、黄色の光が観覧車の鉄骨を流れるように駆け巡る。遠くから見ると、まるで夜空に描かれた光の花のように見えて、なんとも言えない懐かしさを見てる人に与えてくれる。ゴンドラのひとつひとつも優しい光を帯び、中で過ごす人々のシルエットがぼんやりと映し出されていた。

「最後に観覧車、乗ろうよ」

「じゃあ俺と澪、律音と凌介でいい?」

 凌介に透真が提案すると、澪も頷く。律音は少しだけためらう素振りを見せたが、結局何も言わずに凌介と乗り込んだ。

 観覧車のゴンドラに乗り込むと、窓の向こうに遊園地全体が広がっていく。地上ではカラフルなライトが瞬き、アトラクションのネオンが幻想的に輝いている。遠くには都会のビル群が並び、夜空にはぽつりぽつりと星が瞬いていた。眼下では人々が小さく動き回り、まるで別世界を眺めているような気分になる。

 ゴンドラの座席はほんのり温もりが残っていて、シートに触れると柔らかいクッションの感触が伝わる。窓のフレームに指を触れると、ひんやりとした金属の冷たさが心地よい。足元の床がかすかに揺れるのを感じながら、身体をシートに預けると、ゆったりとした浮遊感が全身を包み込む。

 透真は窓の外を眺めながら口を開いた。

「澪くん、今日は来てくれてありがとう」

「お礼を言うようなことじゃないだろ」

 澪はおかしそうに微笑む。その横顔はとても穏やかだった。いつからだったのか、自分の前で自然な笑顔を見せるようになってくれた澪の横顔を眺めながら、透真はふと、今この瞬間こそが奇跡みたいなものだ――と思った。

 ――千景澪と観覧車でふたりきりなんて、宝くじ当選よりあり得ない現実だ。俺、ミミルにもっと感謝しておくべきかも。

 自分を転生させた天使の顔を思い浮かべて、透真は顔を顰める。素直に感謝するには、ミミルは小憎らしい天使だった。

「律音と凌介のことがあったから、ここへ連れて来たんだよな?」

 澪に話しかけられて、透真は我に返った。

「……え、ああ、そうなんだけど。澪くんもわかってたんだ」

「うん……。透真は優しいな。俺はあいつらと付き合いも長いのに、何もしようとしなかった」

「何もしてないってことはないだろ」

 メンバーたちが喧嘩しそうになるたび、彼らを止めていたのは澪だった。グループのストッパー役として彼が動かなかったら、殴り合いになったであろう瞬間は何度もあった。

「確かに、俺なりに努力はしてたけど……透真ほどグループにいい影響は与えられてないと思う。いつもありがとうな」

「あ……うん、どういたしまして……」

 澪が透真の頭を軽く撫でると、透真は瞳を潤ませた。憧れのアイドルから褒められて、こんなに嬉しいことはない。うっかり恋心を告白しそうになるのを、透真は必死に抑える。

 ――今、Serilionは大事な時期なんだ。前世のようなトラブルを起こさないように、解散しないように戒めないと……。

 透真がにやけないようにひとり百面相をしていると、その様子を見ていた澪が笑い出す。

「……お前、本当に俺のファンなんだな。もっと頭撫でてやろうか?」

「あ、あー! もういいです! じゅうっぶんに褒めてもらいました! ええ!」

「はは……なあ、まだ俺の推しカメラ見てたりする?」

「……さあ?」

 透真はすっとぼける。澪は笑い過ぎて滲んだ涙を指で拭うと、独り言みたいにつぶやいた。

「透真と一緒にいると楽しい」

 ――そんなの、俺だってそうだ。

 透真が言い返そうとした、その時。突然、夜空を切り裂くように強い風が吹き抜けた。観覧車の鉄骨がぎしりと不吉な音を立て、ゴンドラが大きく揺れる。ライトアップされた車体がわずかに傾ぎ、遠くの街明かりが揺れる視界の端で踊るように歪んだ。

「うわっ……!」

 透真が思わず体勢を崩し、足元がふらつく。ゴンドラの狭い空間の中でバランスを取れず、後ろに倒れかけた瞬間──。

「透真!」

 素早く腕を伸ばした澪が、透真の体をしっかりと抱き寄せる。胸元に押しつけられた温もりと、微かに香るシダーウッドの、甘くスパイシーな香り。透真の鼓動が一気に跳ね上がるのが、自分でもはっきりとわかった。

 ゴンドラは数秒揺れた後、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。しかし、透真の体はまだ強張ったままだった。澪の腕の中で小さく息を呑み、緊張したまま見上げると、澪は真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

「……大丈夫か?」

 静かにかけられた言葉に、透真はぎこちなく頷く。外では風がまだ唸りを上げているというのに、二人の間だけは、不思議な静寂に包まれていた。

 澪の身体に包まれている透真は、いけないと思いつつも澪の唇から目が離せなかった。

 ――神様がひと際手をかけて作ったみたいに綺麗な顔が、今、目の前にある。触ろうと思えば触れる距離に……。

 まるで蝶が花の蜜に誘われるように、磁石のN極とS極が引かれあうように、透真は澪の顔に引き寄せられていく。

「透真……?」

 自分を見つめたまま動かない透真に、澪は戸惑ったように呼び掛ける。そして、透真の視線の先に何があるのか気がつくと、澪の瞳孔は花が開くように大きくなった。

 痛いほどの静寂の中、目に見えない引力が働いているみたいだった。お互いの吐息が感じられるほど近づき、影が重なる。

 澪は自分自身に戸惑っているのか、瞳を小刻みに揺らしながら透真を見つめた。やがて、もどかしそうに透真の唇に触れようとして――

「――お帰りなさい!」

 地上で出迎えてくれた遊園地スタッフの声がして、ふたりは呪縛が解けたようにお互いから離れた。気がつくとゴンドラは一周していた。

 無事に観覧車から下りると、既に下りて待っていた凌介と律音が歩み寄ってくる。

「あれ? ふたりとも顔赤いけど、大丈夫?」

 凌介が不思議そうに尋ねた。透真と澪の顔は更に赤く染まった。

「……冷房の効きが悪かったんだ」

「そうそう、暑かったよねー……」

 ぎこちない二人の嘘に、凌介は「そうなんだ」と納得し、それ以上は追及してこなかった。

 ――危うく遊園地で大スキャンダルを起こすとこだった。それにしても、澪くんはどうしてあんな態度を取ったんだ?

 透真はちらりと澪の顔を盗み見た。まだ顔は赤かったが、表情はすっかりいつも通りの完璧で冷静な『千景澪』だった。

 望みがないのなら、変に期待させないで拒絶してほしいのに――ついさっきの澪の様子から、透真は希望を持ちそうになっている己を諫めようと必死だった。気を抜けば、『澪も自分を好きでいてくれてるのでは』なんて甘い考えが脳内に生まれ、周りをピンク色で染めようとしてくる。

 葛藤しているうちに、透真はゲートへと向かい歩く他の3人から遅れ始めていた。

「透真、こっち」

 透真が遅れていることに気づいた澪が、さりげなく手を繋いで引っ張った。避ける隙もなかったので、透真はぽかんと口を開けたまま澪に引き摺られていく。

 ――こっちは一生懸命に自制しようとしてるのに、この人はもう~~!!

 指先から澪の温もりが伝わってくる。到底、彼のことを諦められそうになかった。

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