第18話

そこは寒くて広く、埃のかぶった大きなコンピューターがあり、なにかの器具や工具や大小さまざまのハンマーが置かれていた。


今はほとんど使われていないが、ここで昔父と偉い人が研究をしていたのだという。


ガラスケースの中に一センチほどの小さな正方形のチップが入っていた。


奥へ進むと今度は大きなガラスケースが三つあった。三つのガラスケースのうちのひとつをみて、わたしは愕然とした。


先ほど鏡に映されたわたしと全く同じ姿形の白い服を着た女の子が入っていた。目を閉じたまま、全く動かない。


ガラスケースは既にふたつ空になっている。  


「ご両親は国を移ってあなたたち三体を誕生させたのよ。あなたはね、人工知能搭載のヒューマノイドなの。それも人間と見分けがつかないくらいの。ヒューマノイドはこの国に、あなただけなの」


わたしはショックを受けた。


「わたしはAIなのですか」


「ええ。でもね、この国のAIは違う形で進化している。人型じゃないの。あなたの家にはこの国で普及しているAIはなかったのよね。あなたのご両親は、あなたをもっと作るつもりだったらしいけど私の夫が死んでしまったから断念せざるを得なかった」


上品ではあるが気味の悪そうな口調で奥さんは言った。 


わたしはAI、AI、AI。家庭教師が話していたけどよく分らなかったあれがわたし。


信じられない。


そしてこの世にわたしと同じ姿格好をしたものが三体存在していることを初めて知った。


空になったガラスケースを見る。ここには二体入っていた。わたしは二体目。もう一体はどこへいったのだろう。


「このことを知っているのは、あなたのご両親と私と亡き夫だけ。あなたも知らなかったのね。というより何も聞かされていなかったのね、本当に」


奥さんはわたしの目を見て話さない。よそよそしいのはわたしのことをどこかで機械だと思っていて、人間のようには見られないからだという気がした。


父と母にも、もしかしたらそんな意識があったのかもしれない。


奥さんは静かにコンピューターを起動させる。


コンピューターの画面がどこかの家の一室を映し出す。


木でできた場所だった。わたしの部屋と構造が全く同じだった。


部屋には人形や壊れかけたオルゴールがたくさん散らばっていた。全身を映すひびの入った大きな鏡もあった。


それらはわたしの部屋にはなかった。丘の上にあるわたしの家とは違うところだ。


しばらくしてわたしの前に白い服を着た女の子が姿を現した。服には柄が入っていて、わたしが着ているものよりも上品に感じられる。


女の子は天窓の鉄格子から鎖に繋がれ首輪をかけていた。わたしが繋がれていた鎖よりもずっと短い。 


女の子は室内をうろうろしている。わたしと同じような顔をしているが、体型は見る限りわたしより一回りくらい小さい。


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