第16話

「姉貴〜こっちこっち!」

雨音が外の騒ぎに気づき、手招きする。

妙な盛り上がりで居心地が悪かったので助かった。


『ここは?可愛らしいものが沢山あるな』

「雑貨屋さんです」

焔は室内をキョロキョロする。

手作りのぬいぐるみやペンケースや小物ポーチなどの雑貨屋だ。

服作りもしていて雨音はここの店主を師匠と呼び、店の手伝いをする変わりに裁縫を教わっている。

奥にはたくさんの布や見たことのない裁縫道具やらがずらりと並んでいた。


『美虹はこういうの好きか?』

「うん…一応」

『買ってやるから好きなだけ選べ』

「焔、お金は?」

焔は袖の中から財布を取り出し分厚い万札をみせる。

「すごっ!」

『そうだろう。神は使い放題だ』


美虹はおねだりしたくなったが、焔のことは憎き相手。気を許すわけにはいかないので断った。


最後に朱雀神社へ行くことに。

やっと案内終わる〜と抱っこしていたらいつの間にかスヤスヤと眠る豆福助をみながら肩の荷が降りるようだった。


神社に歩くにつれ、なんだか見慣れないものがあった。

「お帰りなさいませ、焔様。美虹もお疲れ様」

紅音が待っていた。

紅音のまわりにはアヤカシが複数人おり、紅音と同様に頭を下げた。


『頼んでおいたことはしてくれたようだな。短時間でこれは上出来だ』

「はい、ありがとうございます」

焔は美虹の頭をポンポンとし『よくみてろよ』と声をかけた。


焔は美虹から少し離れると、紅いオーラのようなものを放った。

眩しさに耐えられず、目を瞑る美虹たち。

目を開けると先程から気になっていた見慣れないものから明かりが灯している。


「もしかしてライトと街灯?」

神社の境内にはライトアップされ、神社外あたりには数本の街灯。


『これで美虹が安心して帰れるな』

ニッと笑う焔。

「明日までには島中に街灯の設置が完了します」

焔と紅音のやりとりが聞こえなくなるくらいびっくりしていた。

島は江戸時代じゃないのってくらい時代遅れで、電気、ガス、水道などのライフラインがない。

街灯があるだけで革命的なのだ。


「もしかして焔の神通力?」

『ああ。あとは民家の明かりくらいはしてやらんとな〜』

夜は薄暗くなれば寝るしかなかったので、街灯だけではなく、家中明るくなれば夜更かしもできるし、暗いのが苦手な小さい子は喜ぶだろう。


「島の人、喜ぶよ」

『美虹は?俺は美虹のためにやったんだ』

「〜〜嬉しいよ。まぁ、その…ありがとう」

恥ずかしそうに礼をいう美虹に満足気な焔。


神社の社務所にレバー1つで神社内のライトや街灯を操作できるそうな。焔に何かあったりしない限り、半永久的に使える。


「美虹、これを。今日の礼だ」

渡されたのは犬と鹿の小さいマスコットキーホルダー。雨音がお手伝いをしている雑貨屋であったものだ。中々、焔が店から出てこないなと想ってはいたが美虹のために購入してくれていた。


「可愛い〜……あ。も、貰っとくわね」

可愛さに負け悔しそうに受け取った。


「お嬢〜あっしの飯まだですかい?」

「福ちゃん、小さい足でいっぱい歩いたもんね。帰ろうか」

美虹に抱っこされたまま寝ていた豆福助は空腹で目を覚ました。

今日は帰ることにした。





✱✱✱✱   ✱✱✱✱   ✱✱✱✱   ✱✱✱✱


焔は美虹を見送ったあと、紅音に貰った寝巻き用の浴衣に着替えた。


「焔ちゃん、今日は寝かせないわよ」

カトレアがひょこっと顔をみせると、「どっこいしょ」とたくさんの紙の束を床に置いた。


『…………』

焔にはこの紙の束が何かを察した。

「逃げちゃだーめ。翡翠ひすい様から引きこもり期間が終わったのならやれって言われたのよ」

『今も仕事しているだろう!不真面目な風雅ふうがとは違う。それに最近、十六夜いざよいもいるんだから仕事回せよな』


玄武の翡翠、白虎の風雅、青龍の十六夜は朱雀の焔と同じ四神の神獣仲間だ。

焔たちは、とある神の眷属でその神の仕事を分担しやっている。

神には神子がおり、神子とイチャイチャしまくっていて仕事をしないため、眷属が仕事をしなければいけなくなった。神側の神子は4つの島にそれぞれ1人。南ノ島であれば美虹…神屋敷のご先祖である女性に神子の力を分け与え、島を纏めていた。

それゆえ、島には神通力を持つ者が生まれる。


昔は仕事もせずに迷惑だと思っていたが、美虹と出会えたのは神と神子のおかげ。


ため息をつきながら、書類を手にする。

ふと冷たい視線を感じるとカトレアがじーっとみている。


『なんだよ』

「焔ちゃん、美虹ちゃんに何かしてないでしょうねぇ?あなた、初手からやらかして嫌われてる自覚あるの?」

『………』

痛いところを突かれる。焔は自分と神通力の相性がいいんだから惹かれ合ってるはずと自信があったのだが、美虹に断られ、焦った焔は手に入れるためなら手段を選ばなかった結果、嫌われてしまった、嫌われている自覚はある。


『人間界でいう姑みたいだな、まったく』

「当然よ!あたしは焔ちゃんじゃなくて乙女の味方なんだから!」

熱く語るカトレアにヤレヤレとなる焔。


「そうそう。まだ日にちは先なんだけどね」

カトレアが一枚の紙切れを焔に手渡す。

「美虹ちゃんを誘ってみたら?新しい浴衣とか夏だし海水浴もいいわ〜可愛い水着買ってあげなさいな」


紙には『夏の朱雀祭』と書かれた夏祭りのチラシだ。


「面白そうだな』


焔は黙々と仕事をはじめた。

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