#2

 アストラルシティのとある教会、そこで小規模な葬儀が行われていた。

 遺影にはピュリファイン上等戦士であったリチャード・ガルシアの姿が。

 パイプオルガンの心地よい音色が響く中、啜り泣くような音も度々聞こえる。


「皆さん、本日はご参列感謝します」


 壇上に立ちスピーチをするのはアレックスだ。

 その瞳からは完全に光が消え失せている。


「父は憧れの戦士でした、親である以上に戦士として尊敬していました」


 参列者の中には多くのピュリファイン関係者たちが。


「しかし中にはこう言う人も居るでしょう、汚染区域を設立し厄介事を招いた疫病神だと」


 父であるリチャードがやって来た事を思い出す。


「私は父を理解したかった、しかし私自身戦士として戦う度に理解が出来なくなって行った……そんな私を父は、そして私も父をお互いに憐れんでいました」


 そして結論に向けて語り出す。


「多くの方が父の死に悲しみ、または安堵し、様々な複雑な感情を抱いている事でしょう。しかしそれは決して良い気持ちとは言えません」


 今後ビヨンドをどうして行くか、アレックスなりの答えを探す。


「正直これからどうすれば良いのかなんて分かりません、ただ一つ言えるのはこんな負の感情を撒き散らすビヨンドは放っておけないという事だけです」


 その表情は怒りや憎しみ、更に決意に満ち溢れていた。

 席から見ていた仲間である戦士たちはアレックスの様子に余計に不安を覚えてしまうのだった。



 葬儀が終わりリチャードの遺体は埋葬された。

 その後、アレックスはヒヤマの運転する車に乗せてもらい帰宅する事となった。

 帰りの車内から流れるラジオで今回の戦いに関するニュースが報じられている。


『ピュリファインは主犯格のテレサ並びに数名のビヨンドの逮捕に成功、しかしリチャード上等戦士の死亡を発表しました』


 テレサを含め多くの女性たち、そしてサムエルやゴードンやカオス・レクスまでもが逮捕されたのだ。


『その殺害容疑で指名手配とされたのがマイクと呼ばれるビヨンドです、目撃情報などございましたらピュリファイン・サンクル支部まで』


 そこで報道は終わる。

 明るいスポーツの話題になった所でヒヤマはラジオを止めた。


「まさかマイクが人を殺すなんてね……」


 アレックスの友人であり元人間の可能性もあると聞いていたヒヤマはその話に驚く。

 しかしアレックスは言えなかった、自身が手に掛けてしまった事を。


「ヒヤマさんは結局何なんですか……?」


「え?」


「聞きましたよ、父さんの思想に共感してると思ったら普通にビヨンドと戦ったみたいだし……」


 その疑問を受けたヒヤマは少し寂しそうな表情を浮かべながら考える。

 そして自分という人間について語り出した。


「確かにリチャードさんの考えは正しいとは思う、でも君の言う通りそれは理想だ」


 真剣な表情でアレックスは聞く。


「俺には行動を起こす勇気がない、どこかで不可能だなんて思っちゃってるのかな。結局どっち付かずの存在なんだよ、それで今は凄い後悔してる」


「ヒヤマさん……」


「もし俺に勇気があって行動できてたなら……リチャードさんは死ななかったかも知れないっ」


 そこまで言った所でアレックスが再度口を開いた。


「それは……ビヨンドを助けようとしてればって事ですか? やめて下さい。父さんはそうした結果死んだ、ヤツらはその手すら払い除けて恩を仇で返すような事をしたんですっ……!」


 ビヨンドへの怒りが止まらない。


「もう……助けるなんて言ってられませんよ」


 そのままアレックスを乗せたヒヤマの車は沈黙のまま走り続けた。



 そして帰り道の途中、ヒヤマの車はサンクル支部の前を通りかかった。

 アレックスはようやく口を開く。


「ここで止めて下さい、やる事があります」


 言われた通りヒヤマは車を止めアレックスは降りる。

 その際にヒヤマはアレックスに告げた。


「あんまり無理はするなよ、もうちょっと冷静になった方が良い」


 しかしその言葉を無視してアレックスはサンクル支部に入って行った。


 ***


 サンクル支部内を歩くアレックス。

 周囲では瓦礫などの撤去作業が行われている。

 そして研究室に入った。

 そこにいた研究者の一人が案内する。


「お待ちしておりました、結果は出ています」


 そう言った研究者が見せて来たあるサンプル。

 それはレクスが持っていたマイクの血液だった。


「よく見つけてくれましたよ本当に」


「エリア5に落ちてただけです」


 戦いの後、エリア5は調査されていた。

 その際に倉庫から見つけ出されたのだ。

 アレックスの依頼により調べられていた。


「それで結果は?」


「えぇ、私も驚いたのですが……」


 研究者は調べたマイクの血液の結果を語る。


「人間の遺伝子ではありますがごく僅かだけ汚染物質が全細胞に浸透しています、こんなケースは初めてですよ」


 その言葉を聞いたアレックスは更に疑いを持つ。


「更にこの血液は幼少期のものである事も分かりました、一体何故カオス・レクスがそれを持っていたのか……」


 拳を硬く握るアレックス。

 そして研究者にこう告げた。


「それを調べるのが俺のやるべき事です」


 そのままアレックスはある場所に向かった。



 ここはサンクル支部最奥にある収容所。

 基本ビヨンドを収監する施設ではあるが協力者などで例外的に人間を収監する場合がある、取り調べなどのためだ。


「取り調べの時間だ」


 そこに捕まっていたのはアルフ。

 彼もアレックスに捕えられていたのだ。

 刑務官に連れられ取り調べ室に連れて行かれる。


「アルフさん、ですよね」


 そこで待っていたのはアレックスだった。

 何かの資料を片手に持っている。


「何でも聞きたまえ、しかし僕の思想は変わらないがね」


 向かい合って座り取り調べが開始される。

 まずアレックスは手に持った資料を突き出した。


「これ、エリア5に落ちてたマイクの血液が入ったパックを調べた結果です。アイツは何です?」


「知らないと言ったら?」


「とぼけないで下さい、貴方のパソコンも調べさせてもらいました。その中で興味深いファイルを見つけたんです、パスワードが分からず開けませんでしたが」


「それとこれと何の関係が?」


「時期ですよ、ロックの掛かったファイルは幾つもありましたがそれら全てが十五年前から二年間に渡ったものです。この血液、マイクが幼少期の時期と一致します」


 その報告を受けたアルフは溜息を吐く。


「はぁぁ、ここまで探られてしまったよレクス……」


 するとアルフはパスワードを告げた。


「A0611、パスワードだ」


「随分あっさり吐くんですね」


「思想より自分が一番可愛いからね」


 そのままアレックスは立ち上がり急いで取り調べ室を出ようとした。

 ドアノブに手を掛けたと同時にアルフが問う。


「それで、真実を知って君はどうするつもりだい?」


 アレックスはアルフの方を見ずに答えた。


「ビヨンドを倒す、この世界を変えます」


 父親の言葉を違う意味で果たそうとしているような言葉を残しアレックスは出て行った。


 ***


 すぐにアルフのデスクへ向かったアレックスは例のファイルを開きパスワードを打ち込む。


「開いた……」


 言われた通りのパスワードで合っていた。

 そして開かれたファイルには何やらカルテのようなものが。


「これは……マイクの血液検査?」


 幼少期のマイクから採血しそのデータが記されていた。

 しかし目を引いたのは他の部分。


「これ、何でだ……?」


 資料の中にはマイクだけでなく母親であるサラが同席している事も記されていた。

 アレックスの疑いは更に深まる。


「何でお母さんまで、そんな事が……」


 ある仮説がアレックスの脳裏に浮かぶ。

 信じたく無かったがそれを裏付ける証拠が次々と出て来てしまうのだ。


「そんな、偽造だと?」


 マイクはそれから個人的に病院に行く際など血液検査がある場合に全てアルフが偽造していた事が分かる。


「くっ……」

 

 真相を確かめる方法は一つしかない、アレックスは立ち上がりまた移動を開始した。



 一方その頃、汚染難民たちが暮らすサテライトエリアではある運動が起こっていた。


「次期アストラル市長選、元サテライト市長トーマス・ルーサーに清き一票を!」


 迫る市長選、自らの暮らしを良くしてくれるであろう人物の当選を働きかけている。


「彼こそ我々サテライト市民を救える唯一のお方! ビヨンドを厳しく取り締まり土地を奪還すると宣言しておられます!」


 そのような運動が起こっている中、マイクの母であるサラは新聞記事を読んで身を震わせていた。

 そんな彼女に友人であるジョンが寄り添う。


「大丈夫だ、何とかしてくれる……」


「だと良いけど……」


 そこへ忍び寄る足音。

 二人はそちらに視線を向ける。


「あ……」


 するとそこにはローブで身を隠した男が。

 深く被ったフードから覗く目でアレックスだと分かる。


「アレックス君、今度は何の用……?」


 身構えるサラ。

 そこに更に近付いたアレックスはある書類を見せる。


「貴女にはサンクル支部まで同行願います、尋ねたい事が山程あるので」


 その書類とはノーマン総司令のサインが入った令状だった、それを見たサラは冷や汗を流す。


「くっ……」


 何かを察したのかジョンは鉄パイプを拾い上げ構える。


「何で抵抗しようとするんです? やましい事でもあるんですか?」


 ジワジワと近付くアレックス。

 その異様な空気に周囲の難民たちも気付いた。


「おいピュリファインが何の用だ?」


 屈強な男たちがアレックスを囲む。

 しかし次の瞬間、隠れていたピュリファインの兵士たちが現れ銃口を向けたのだ。


「なっ……」


「俺が用があるのはサラさんです、退いて下さい」


 その威圧感に負け屈強な男たちは道を開ける。

 そしてアレックスはサラの手首に手錠をはめた。


「サラっ」


 心配するジョンだがサラは恐れてしまい震えが止まらない、しかしそんな彼女を労る事なくアレックスは連行するのだった。






TO BE CONTINUED……

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