妖精と精霊の違い

いずも

魔法文芸誌『えれめんたるなふぇありぃ』Vol.24

 妖精と精霊。

 誰でも聞いたことはある言葉ですが、厳密な違いはご存知でしょうか。


 なんとなく、妖精と言えば蝶の羽の生えた少女の姿がイメージされ、精霊と言えば人の形を模した非物質的な存在をイメージするかもしれません。それぞれ最初に触れた作品の影響が大きいでしょう。

 個人的に言うと私の中の妖精は魔法陣グルグルの影響が強いですし、精霊に関してはテイルズオブエターニアの影響を受けています。


 妖精という単語が日本で使われだしたのは大正末期から昭和初期で、Fairyの訳語の一つとして普及します。妖女、仙女……(芥川龍之介は「精霊」を用いています)中でも松村みね子さんという方が「妖精」を使い、それから一般的に広まりました。


 一方で精霊という単語は元々仏教用語の精霊しょうれいであり、衆生の魂や死霊、先祖の霊を指していました。それがspiritやelementalの訳語にも使われだしただけで、どちらも比較的新しい概念です。


 さて、それでは妖精と精霊の違いについて解説するとしましょう。



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 妖精と精霊の違いは「勤務形態」にあります。


 妖精は基本的に「契約社員」です。自然や特定の場所に属しているわけではなく、人間や魔法使いと契約を結ぶことで力を貸します。働き方はフレキシブルで、契約内容によっては副業もOKです。給料は「感謝の気持ち(それは時にフレッシュで甘い果実のような現物支給)」で支払われます。人懐っこくて社交的なタイプが多いのが特徴です。


 一方、精霊は「正社員」です。自然そのものに根付いており、山や川、風や火といった担当エリアを持っています。勤務は基本的に24時間体制で、エリア管理が仕事のメインです。人間と直接契約することは少なく、上司である自然そのものから指示を受けて働きます。給料は「自然エネルギー」で支給されます。真面目で誇り高い性格が多いです。


 別の言い方をすると妖精はフリーランス型、精霊は公務員型と言えるでしょう。どちらも大変そうですが、福利厚生が充実しているのはやっぱり精霊の方ですね。

 自由を求める妖精、安定を求める精霊といった感じでしょうか。



 何故そのような違いが生まれてしますのか。これは妖精と精霊の誕生のプロセスに起因していると言われています。通称花に風問題と呼ばれ、魔法生物学者の間で議論が絶えないテーマです。


 妖精は人間や動物、植物の夢や希望が具現化して生まれます。そのため姿形が個性的でカラフルだったり、性格が気まぐれだったりするのです。

 妖精たちは夢の波長を感じ取り、そのエネルギーを吸収して活動するため、夢見が悪い人が増えると妖精の数が減少するという問題が発生します。このため妖精界では「良い夢キャンペーン」と称して枕に魔法をかけたり、安眠を促すハーブを散布するといった活動が行われています。ある日急に寝付きが良くなる経験をされた人は多いと思いますが、その裏で彼らの活躍があったのです。

 また妖精は特に子どもの夢から生まれることが多く、少子化が叫ばれる日本において生息数の減少が社会問題の一つとして近年問題視されています。


 対して精霊は自然そのものが意志を持って生まれた存在です。山、川、火、風といった自然要素が極限まで純粋化し、自我を持つことで誕生します。

 そのため、精霊の姿形は担当する自然要素に応じて異なり、火の精霊なら炎をまとい、水の精霊なら水流のような体を持っていることが多いです。

 精霊たちは自然の循環によって力を得ているため、人間の活動が活発になり自然破壊が進むと精霊たちが弱体化し姿を消すこともあります。そのため精霊界では「自然保護プロジェクト」として、人間界への啓発活動を行ったりエコツーリズムを推奨したりしています。しばしば行き過ぎた問題提起が反発を招き、スタバも紙ストローを廃止するなど人間側も一枚岩ではありません。


 人間の活動によって増える妖精と減る精霊、どちらも尊重しなければならない板挟みの我々が抱える問題こそが花に風問題です。

 妖精は一度消滅しても自由気ままな性質ゆえ別の場所で再出現リポップしますが、精霊は自分が生まれた場所以外で生きられず、環境の悪化により消滅してしまうと再び姿を現すことは困難です。成仏した地縛霊を呼び戻すようなものです。

 妖精と精霊のどちらを尊重すべきか。人間と妖精、精霊の三者でこの討論会は年に一度開かれ、夜通し語り合うのが恒例です。殴り合い寸前の喧嘩にまで発展することもありますが、最終的にはそれぞれが「どっちも大事」と認め合い一緒にお祭り騒ぎをして仲直りするのがいつものパターンです。

 この祭りで提供される食事ひとつとってもお互いの文化の違いが如実に現れています。次は食文化についてみていきましょう。



 妖精の食文化は「甘味至上主義」です。

 夢や希望から生まれるためポジティブなエネルギーが大好きで、それを効率よく摂取できるのがお菓子やデザートなどの甘味です。

 また妖精たちは美味しさを共有することを大切にしているため、食事は必ず誰かと一緒に食べるのがルールです。一人で食べると幸運が逃げると信じられており、集まってワイワイ楽しみながら食事を摂ることを重視しています。


 精霊の食文化はいわば「自然調和主義」です。

 精霊たちは自然との共生を重んじるため、食事も自然そのものを好んで食するスタイルです。蒸留酒を熟成させる際に、アルコールや水分が蒸発して減る減少を天使の分け前と呼びますが、実は精霊の仕業です。魔法生物研究界隈ではよく知られた話ですが、天使側が容認しているので暗黙の了解として引き続き使われています。

 また、食べ残しは絶対にNGです。残した場合、その土地の環境精霊長に怒られます。お残しする者がほとんど現れないためその姿を見ることはめったにありませんが、目撃証言によると給食のおばちゃんのような見た目をしていたと言われています。


 妖精と精霊が一緒に食事をする場面では、しばしばトラブルが起こります。

 例えば妖精が精霊の食事に砂糖をかけて激怒される事件が多発しています。ブロッコリーの株を生クリームでコーティングしてケーキのようにあしらった妖精料理研究家が炎上した事件は記憶に新しいですね。

 逆に精霊が妖精のケーキに山菜をトッピングしてしまい「苦すぎて食べられない!」と文句が出たこともあります。同じ山菜でもたけのこの里なら文句も出なかったでしょうに。


 時には祭りの食事会場が戦場になってしまうこともありますが、一緒に食事を楽しむことで彼らも少しずつ距離を縮めているようです。妖精と精霊が共に笑って食卓を囲む日が来るのを願って、お互いが美味しいものを探しているのでしょう。


 さて、ここで皆さん気になっていることがありますね。みなまで言わずともわかっています。

 そう、次は「妖精はトイレに行かないって本当?」疑惑です。



 妖精や精霊の排泄事情については様々な説が飛び交っていますが、一部の研究者たちは「彼らには排泄という概念が存在しない」と主張しています。おっと石を投げないでください。結論づけるにはまだ早いのです。もう少しだけ聞いてください。


 妖精たちは不浄なものを体から出すという発想そのものが忌避されています。そのため物理的な排泄という形を取らず、感情をエネルギーに置換して体外に放出するのが一般的です。

 彼らは喜びや悲しみが頂点に達すると「エモーショナルフラワー」という花を咲かせます。その花から目には見えないエネルギー(わかりやすく例えるなら香りや花粉のようなもの)が感情とともに放出され、彼らの心身が浄化されます。

 エモーショナルフラワーが開花した後は甘い香りが残ります。感情の強さに応じて花の香りが強くなります。恍惚な表情を浮かべている彼らに近づきその香りを嗅ぐ行為はセクハラと訴えられて妖精裁判にかけられる可能性があるので気をつけましょう。


 このようにトイレという概念はほぼ存在しませんが、放出現場を見せたくない者のためにフラワールームという小部屋があり、そこで隠れてエモーショナルフラワーを咲かせる場合もあります。もしくは強制的に感情を解放するために花の種を蒔いて瞑想するために利用されることもあります。感情のため過ぎはよくないこととされています。ちなみにこちらのフラワールームではフレグランス管理士が管理しています。一級フレグランス管理士にもなると指圧でエモーショナルフラワーを咲かせる施術を行うことが可能となり、イケフラ(イケメンフレグランス管理士)目当てで通う妖精も多いとか。


 一方、精霊は不要なものはすべて自然に溶け込む形で排出されます。大自然への還元スタイルで放出されたエネルギーを取り込むことで活動エネルギーに変換するという半永久的なサイクルが成り立っていることは皆さんご存知かと思います。彼らの排泄行為そのものが自然の循環であり、我々もまた精霊の小水を日々飲んでいるし、放出物を取り込むことで発生する我々の排泄物もまた精霊へと還元されています。



 そろそろお時間が来たようです。

 次回は妖精と精霊のお風呂事情と就寝スタイルについてのお話です。

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