第16話-1

 「お休み?」

 「うん。エルダね、今日の午後から明日の午前中までの一日だけど、お休みを貰えたんだ。午後からはエルダの代わりに他の侍女さんが来てくれる予定だから、心配しないでね。」

 

 そう言えば、私達がこの世界に来てからかなり経つけど、エルダはずっと侍女として私の傍にいてくれてたなぁ。いつも明るく元気なエルダがいてくれることで、私の気持ちは随分と助けられてきた。そんなエルダにだって休日は必要だろう。日本人の感覚からすると、むしろもっと定期的にお休みを取って貰いたいくらいだ。


 …エルダが働きすぎでダウンしちゃったら、私は悲しいよ。


 「そっかあ。私のために、いつも沢山働いてくれてありがとうね。エルダがいないのは寂しいけど、ゆっくり休んでくれると嬉しいな。」

 「そんな事を言ってくれるなんて、タツキは優しいね。エルダ、ご主人様がタツキで本当に良かったよ。」


 実際は、ご主人様らしいことなんて何ひとつ出来ていないんだけど。これからもエルダとは主従関係というより友人関係として仲を深めていければいいな。


 「それでエルダは、何をしてお休みを過ごすの?」

 「今回は実家に帰ろうと思うんだ! 久しぶりに家族に会えるのがとっても楽しみ!!」


 そう言って朗らかに微笑むエルダの屈託のない笑顔は、とても綺麗に思えた。エルダの家族は、遠い国からニステルローイ王国へ移住してきた。前にいた国では獣人差別もあり、とても苦労していたようだけど、家族が団結してその苦労を乗り越えてきただけあって家族仲は良好のようだ。エルダの笑顔を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなっちゃうなあ。


 「…いいなぁ。私もエルダの家族に会ってみたいなぁ。」


 仲の良いエルダの家族を想像していたら、不意に日本にいる家族を思い出し、とても会いたくなってしまった。もう叶わない願いだとは分かっているんだけど…。そんな私の口から思わず溢れたエルダの家族への憧憬の念に、はっと我にかえる。気がつくと目の前には、目をキラキラと輝かせるエルダがいた。


 「本当に!? じゃあタツキも一緒に帰ろうよ!!」

 「えっ。でも、いきなりお邪魔したらご迷惑だし…。それにエルダのご家族だって、久しぶりに帰ってくるエルダと家族水入らずで過ごしたいでしょ。」

 「そんなことないよ! みんな絶対に喜ぶよ!! そうだっ! じゃあ今日は一緒に王都を観光して、私の家に泊まればいいよ。タツキ、こっちに来てからお城の外に出たことないでしょ? 絶対に楽しいよ!!」


 しっぽをブンブンとふりながら、嬉しいそうにぴょんぴょんと飛び跳ねて、自分の思いつきに大喜びのエルダ。


 「うーん。でもなぁ…。」

 「タツキ、エルダの言う通りにすればいいのだ、です。ボクもニンゲンのマチをみてみたいぞ、です。」

 「ほら! トンコ様もこう言ってるよ!! ねえー、いいでしょー。タツキぃ?」

 「ボクも! ボクからもおねがい、です。タツキぃ?」


 ひっしと腕に絡みついて小首を傾げ、おねだりをしてくるエルダ。床に寝そべっていた体をすくっと起こし、私の足にスリスリと身体を擦り付け、なーごなーごとおねだりをするトンコ。健康的な美少女と愛らしい子猫の、可愛らしいおねだり攻撃を前にした私に、断る術はなかったのであった。


 「わかったよ。エルダ、それじゃあお家にお邪魔します。」

 「「やったー!!」」

 「それじゃあ早速、ロレーナさんへ報告しに行こう! 渼音やティエリー様にも伝言して貰わなきゃだしね。行くよ?」

 「「おー!!」」

 

 高い高い石造りの城壁を見上げながら城の正門を潜る。この世界に来て初めてのお出かけだ。


 「ロレーナさんの許可がすぐに貰えって良かったね!」


 私の少し前を歩くエルダが、後ろ手を組みながら眩しい笑顔で振り返ってくる。私は、肩に乗せているトンコの頭を撫でながら先程の出来事を思い出すのだった。


 「エルダの家にお泊まりですか?」

 「ダメ…ですかね?」

 「いいえ、構いません。国王様からタツキの身に危険が及ぶような事柄以外は、全て自由にさせるようにとの勅命も出ていますしね。…街に出て襲われる可能性も低いですし、何かあってもトンコ様がいらっしゃる限りは問題ないでしょう。」

 「うん。ボクタツキを守るよ、です!」


 えへんと胸を張るトンコの頭をなでなでしてあげる。ロレーナさん達からは随分と信頼されているようだけど、この子猫ちゃんは本当にそんなに強いのだろうか?


 …いまいち信じられないんだよね。だって、普段はただの可愛い子猫ちゃんなんだもん。


 「では、気をつけて行ってきてください。そうそう、こちらも持って行ってくださいね。」

 「これは?」


 見た目に反して、ずっしりと重みのある皮袋を渡される。


 「この国の通貨です。タツキはお金をもっていないでしょう? そちらは自由に使って構いません。ほんのお小遣い程度ですが、たまには外で羽を伸ばしてきてください。」


 皮袋の中には、銅貨や銀貨。そして数枚ではあるが、金貨も混じっている。この国の基礎知識を習った時の記憶が確かならば、恐らく皮袋の中身は日本円にして三十万円以上の価値があるはずだ。


 「こっこんなに沢山貰えませんよ!」

 「これは貴方が薬師団で働いている給金のほんの一部です。今回のように必要な際にお渡しするつもりで、私が預かっているものですので気にしないでください。」

 「そうだとしても…って、そうじゃなくて。私はお手伝いのつもりだったから、お給料なんていらないですよ!」

 「そんな訳にはいきません。それともタツキは、我が国をタダ働きを強制する酷い独裁国家にしたいのですか?」

 「そういうつもりじゃないですけど…。」

 「では、受け取ってくれますね? これは貴方の労働に対する正当な対価なのですから。先程も言いましたが、今お渡ししたお金以外は貯金として私が預かっていますので、必要な時が来たらおっしゃってください。」

 「…はい。ありがとうございます。」


 そういう訳で、思いがけず出掛けにお小遣いまで手に入れてしまったのだ。渼音に何かお土産を買って帰らなきゃな。

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