第15話-4

 それから一週間が経った。結論から言うと作ったシャンプーやハンドクリーム・オールインワンジェルなどの全てに異常は出なかった。むしろ、私の魔力補正で異常なほど肌はモチモチ・スベスベになり、肌だけならばどこぞの女優さんやモデルさんのようになってしまった……。


 そのおかげで、渼音はすっかり元の美しさを取り戻し私はご満悦だ。


 「龍貴ちゃん、なんだか今日はご機嫌さんだね?」

 「だって、渼音が元通りの美人さんに戻ったんだもん。私が作った物が渼音の役に立つなら、こんなに嬉しいことはないよ。とは言っても、魔法や戦闘関係ではあまり力になれないから、こんな事しか出来ないんだけどね。」

 

 私の言葉に目を潤ませ真剣な表情で、渼音は言う。


 「何度でも言うけど…。龍貴ちゃんが傍にいてくれるだけで、私は幸せなんだよ。それなのに私のためにお料理をしてくれて、頑張って調味料や化粧品を作ってくれる。エリクサーって言う伝説級の回復薬まで作ってくれた。むしろ、私こそ龍貴ちゃんに何を返せるのか…。」

 「私だって渼音が傍にいてくれるだけで幸せだよ。だからそんなこと気にしないで、これからも一緒にいさせて?」

 「…龍貴ちゃん。」

 「渼音…。」


 私達は、何も知らない異世界へ二人だけで来てしまった。けれど、きっと、二人でいればそれで十分なのだ。私は私に出来ることをしよう。これからも。


 「…ごほん。タツキもミオンさんも、エルダ達もいるって忘れてない?」

 「くすっ。そうだね。私とミオンにはエルダやロレーナさん達もいてくれるね。」

 「そうだけど…。そうなんだけどぉ。エルダ、邪魔しないでよ! 今良いところだったのにぃー!!」

 「二人っきりの世界を作ろうなんてそうはさせませんよっ! ミオンさん!!」

 

 わちゃわちゃと二人で戯れあいだすミオンとエルダ。相変わらずの仲良しだ。それを溜め息混じりに見ているロレーナさんに、「ボクもいるぞ、です!」と胸を張るトンコ。いつの間にかこの世界にも信頼出来る仲間が沢山出来ていたんだなあ。


 そう言えば、エルダはシャンプーや化粧品は高くて頼めないと嘆いていたんだよね…。彼女のお給金は決して安くはないが、必要最低限を除き家族に仕送りをしているらしい。本当に家族思いで、優しくて、頑張り屋さんなのだ。そんな愛おしいエルダに何かしてあげたくて私の分を分けようとしたら、エルダだけを優遇すると変なやっかみを受ける危険性もあるとロレーナさんが教えてくれた。


 特に庶民出身なのに、私の侍女に任命されているエルダの立場は難しいものがあるらしい。ロレーナさんが目を光らせてフォローをしてくれているらしいから、問題はおきないようだけど。何か良い方法はないかな。……そうだっ!!


 「ねえ、エルダ。今日の夜から、お仕事が終わったら私の部屋に来てくれないかな。一緒にお風呂に入ろうか?」


 主人のお風呂を手伝うのは侍女の仕事のはずだ。私は人に体を洗って貰うなんて照れくさいから、いつもは断っていたけど現物を渡せないなら一緒にお風呂に入れば良い。ついでにシャンプーやコンディショナーを使い、お風呂上がりにオールインワンジェルを使うくらいなら料理と同じで侍女特権の範囲内だろう。そうに違いない。我ながら名案だ!!


 「たったった、タツキ!? えっエルダはとっても嬉しいけど、そっその。心の準備が…まだ。あっあの、嫌、じゃないんだよ。だっだから、タツキが望むなら、あたしは…。はっ初めてだから、その、うまく出来るか、わっ分からないけど……。やさしく、してね?」

 「エルダ?」


 なぜか顔を火照らせ、クネクネと体と尻尾を捩らせるエルダ。シャンプーなどを使えるのがそんなに嬉しかったのかな?


 「…龍貴ちゃんは、さっき、私が傍にいるだけで幸せって言ったよね。…よね? その舌の根も乾かぬ内に、エルダにいったい何を言っているのかな。…かな? エルダも何を期待してるのかな。…かな? もしかして、エルダは悪い泥棒猫さん??」

 「何って…。エルダにシャンプーとかを…」

 「龍貴ちゃんは、少し黙ってて? 私はエルダと大事なお話があるから。」

 「はい。ごめんなさい。」


 渼音の笑顔がなんだか怖いよお。その迫力に負けて、すぐさま口を噤む私。視線でロレーナさんに助けを求めてみる。


 「はぁ…。全く、毎度毎度あなたと言う人は……。」


 大きな溜め息を吐いたロレーナさん。なぜか呆れてかえっているみたいだよ。こうして、今日も賑やかな夜は更けていくのであった。

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