中編
私が生まれた町は、過疎が進んでいる。
高度経済成長期には、それなりに人も大勢住んでいたらしいが、今は子供の数も減って、学校の数も少なくなっていた。
それでも、私の父の家はこの町の地主で、さらには何代も町長を歴任してきたような家だ。
曾祖父の代までは世襲制で町長の家だったが、祖父は町で唯一ある病院の医院長。
父はそこの副院長で、町長は今、曾祖父の秘書をしていた人がやっているが、その人も元をたどれば同じ堀家の人間だ。
つまり、この町の人間は、堀家の人間には逆らえない。
そういう構図が、ずっと昔から出来上がっているような、由緒正しい家だ。
「あら、杏奈ちゃん。久しぶりねぇ。こちらの方々は?」
久しぶりに父の家に入ると、出迎えてくれたのは祖母だった。
両親が離婚するとき、「龍起は後継ぎだから置いていけ、杏奈は女だからどうでもいい」と冷たく言い放った時と全く別の、よそ様向けの上品そうな笑顔を作って微笑んでいる。
さらに祖母の隣には、父の再婚相手の女が、同じような笑顔を浮かべていた。
「龍起の件で、紹介してもらった専門家の方です。一体何が起こったのか、私も姉として気になったので、来ていただきました」
「専門家……?」
「はい! 常識的には考えられられないような、不可解な事件を専門にやらせていただいております!」
渚さんは太陽のような明るい笑顔でさらりとそう言って、ぐいぐい話を進めていった。
死体が埋まっていたあの山や、龍起が通っていた学校。
町の住人から話を聞くこと。
それからこの家を見て回る許可も、難航すると思っていたけれど、渚さんの巧みな話術であっさり許可が出る。
その間、先生は終始無言で、むしろ、どこか体調でも悪いのか顔色が悪いくらいだったけれど。
「それじゃぁ、まずはその現場の山に行ってみましょうか! ねぇ、先生!」
一人場違いのようにテンションが高い渚さんがそう提案して、私たちは三人で現場のある小学校の方へ向かった。
久しぶりの通学路。
小学校のすぐ隣に通っていた高校もあるから、そこも一応母校ではあるんだけれど、割とすぐに転校してしまったから、感覚としては小学生ぶりだった。
「うぇっ……」
歩きながら懐かしいなぁと思っていると、一番後ろを歩いていた先生が急に道路の端に寄った。
「先生? どうかしましたか?」
渚さんが気づいて声をかけたが、その時点でもう手遅れで、先生は道路の端に胃の内容物を全部吐き出していた。
「せ、先生!?」
もう空っぽだろうに、それでもまだ気持ち悪いようだった。
「うぇ……気持ち悪い……ヤバいこれ」
「やばい……?」
いったい、何が?
夏ではあるけど、もう夕方だ。
屋敷で出された紅茶も飲んでいたし、熱中症というわけでもなさそう。
あたりを見回したが、吐いてしまうような変なにおいがするだとか、何か異常があるようには到底思えなかった。
「すみません、杏奈さん。山へ行く前に、どこか店……線香が売っている店に行きたいんですけど――――なければ、煙草でもいいです」
私が訊ねる前に、先生の方から私に質問してきた。
「それなら、向こうにスーパーが……多分、売ってると思いますけど」
来た道を少し戻ることにはなったけれど、少し戻ってこの町に唯一あるスーパーに立ち寄ると、先生はその売り場で売られていた束になっているお墓参り用の線香の在庫全部と蝋燭、ライターを買った。
レジが終わると、外に出てすぐに一束火をつけて、その煙を浴びるように自分の体の周りでぐるぐる回している。
「あー……落ち着いた」
「一体、どうしたんです? 先生」
渚さんがその様子を見て、不思議そうに訊ねると先生は大きく深呼吸をしてから答えた。
「この町に来た時から、ヤバいなとは思ってたんだけど、その死体が埋まっていたっていう山に近づくほど、とにかくヤバい。ひどく汚れている。どれだけの人の霊があそこにいることか――――とにかく、気持ち悪い」
私も渚さんも何も感じていなかったが、先生には耐えられないくらい、この町は汚れているらしい。
どういう意味だか、さっぱり分からなかったけれど、とにかく、原因はあの山であることには、間違いないだろうと先生は言った。
そうして、何度も線香の煙を浴びながら、どうにか山まで辿りついて、警察の立ち入り禁止のテープが張られていた場所を見つける。
「ここに、弟の死体が埋まっていたみたいですね」
先生は、掘り返されたその大きな穴をのぞき込む前に、とても残念そうに言った。
「ああ、これはもう、無理ですね」
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