第3話
ふと時計を見る。
泰行さんがどこかのお店で気に入って買ったという古い時計は15時半を差している。
さきほどの常連さんを見れば、パソコンを閉じ、コーヒーを飲み干すと席を立った。
いつもこの方は1時間半ほどして帰る。
「ごちそうさま」
いつもそう言って、わたしに伝票を渡してくれる。
「お預かりします」
常連さんとはいえ、決まり文句程度の会話しかしない。
だけど、その短いやり取りの中でも温厚で落ち着いた雰囲気をこの人から感じる。
いつも通り伝票を受け取って、レジを打つ。
コーヒー2杯がお決まりの注文。
もうレジを打たなくても値段はわかっている。
「あの」
値段を言おうとしたとき、声をかけられた。
いつもはお代をいただいて、「ごちそうさま」と言ってお店を出るのに。
声をかけられたのは初めてだった。
「あ、はい」
とっさに返答する。
「ケーキを買いたいのですが」
ケーキ?
その言葉にまた驚いた。
だってこのお客さんはコーヒーにミルクも砂糖も入れないから。
てっきり甘いものは好きじゃないと思っていた。
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