第4話 居心地の良い場所…だがナイショ話は切々とっ!(プロローグ完)

【スタービックス伊勢佐木町店】

根岸線関内駅界隈の伊勢佐木町に属すると言うには黄金町に近い…いわば駅近とは言い難いこのお店が、我が娘 八月はづきのバイト先だった。

「こんな立地だと一見いちげんさんは少なくてね…その分常連さんが中心になるから会話スキルが重要なんだよ」

そんな風に言いながら微笑む昔なじみのこのひとは…



「あっ!パパ〜」

「あっ!おとうさま〜」

「あっ!せんせ〜い」


「ちょっと待て!…なんではるがこの店にいる!?」


店の前で降ろした一月むつきを先行させ、馴染みのコインパーキングに車を置いて、俺は八月はづきのバイト先に入った。

放課後とかほざくにはたっぷりと宵闇に浸かった頃、ユニホームから制服に着替えた一月むつきを回収して、八月はづきのバイト先に向かう…それが早見家のいつものルーチンワークなんだけど…


八月はづきが笑いかけてくるカウンター席の対面には…一月むつきだけではなく何故か先程、職場星川事業所で別れた筈の後輩困ったちゃんが…


「何でって…パワハラな上司が押し付けてきた大量の仕事に目処が立ったので一休みです」

「いや、そこまで言われるほどの仕事頼んでないよね…それに星川の事業所から磯子に帰るのに…こんなとこ寄り道にしても外れ過ぎだろうが!」


「うるさいなあ!どうせ磯子に帰るならせっかくだから車に同乗させて貰おうと思っただけです!ご近所なんだから良いじゃないですか!!」

「…と…言って春ねえってば、アイスラテ一杯で、ず〜っと粘ってるの…頼むからさあ」

「…帰れと?(涙)」

「いや…もう少しお店に貢献して欲しいなあ〜と」

「あっ!せんせ〜い。このシュガードーナツと新しいラテ、ゴチっす!」

「…春…てめえ」


「くすくす…」

「あっ!一月むつきちゃんもシュガードーナツどう?バスケ部の練習で糖分が足りなくなってない?」


…うん…旁若無人な春も、一月むつきのご機嫌取りだけは忘れないようだ。

絶対に敵に回してはいけない女…一月むつきは今日も美しく…恐ろしい。


「春ねえさま、とても魅力的なご提案ですね。本来なら本日早見家はわたくしが夕食を振る舞うのでご遠慮したいところなのですが…ねえさまにここでお会いするのも百年目!頂戴いたしましょう」

「ち!ちょっとまって一月むつきちゃん!あ…あたし何かした!?」

「さあ…どうでしょう?」

「ひ…ひええ」

「…というのは冗談でして…ちょっと相談があるのです。八月はづきも少しだけ良いかしら」



「悪いな…八月はづきまでこっちで拘束しちゃって…営業妨害だよなあ…申し訳無い」

「今更だよ(笑)…まあちょうどお客様も少ないしいいよ…それに」

「それに?」

「どうやら向こうの秘密会議の間は、私が三月みつきくんを独占出来るみたいだし?」


そう言って笑う、この店の店長さん。


「…秀美…」


花木はなのき 秀美ひでみ…高校時代の元同級生で…俺の元カノ…

https://kakuyomu.jp/users/kansou001/news/16818792435476899345


「…早いね…もう6年か…」

「…ああ」


俺と一月むつきたちが暮らし始めて6年…それは、俺と秀美が袂を分けた時間でもある。


「…ねえ、あと数年ではづきちゃんたちも大人になる…そうしたらさ…」

「…それでも、君のお父さんは俺を許しはしないだろうな…」

「…」


「…あ〜あ!…結局、初体験を渡し損かっ!!」

「ばっ!声がでかいっ!一月むつきに聞かれた日にはっ!」

「むつきちゃんだけはあたしに辛辣なんだよね…何か感覚的に掴んでるんだろうけど…今回は大丈夫そうだよ?」


視線の先では、娘ズと後輩が喧々諤々けんけんゴウゴウ…珍しくこっちには一切気を取られていない。


「…ねえ、三月みつきくん…今更だけどなにしたの?」

「…さあ?」



「ねえ…む〜ねえ、あたし仕事中なんだよね〜」

「むつきちゃん、あたしも明日も仕事だから、そろそろ帰りたいんだけど」

「二人とも…そんなこと言ってられるのも今のうちですわ」

「え〜」

「聞いて驚け!…ですわ!」

「なんなのよ、む〜ねえ」


「真に由々しき事態ですわ…おとうさまが…おとうさまがお見合いをします!!」




第一章「パパの…お見合い!?」に続きます。





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