第13話 ゴブリン討伐依頼
僕とエメラルの二人はネシアから依頼をされた。
一体どんな依頼なのかと興味を持つ。
二人掛かりで受けないとダメなのかな? 期待していると、一枚の紙をカウンターに置く。
「お二人にお願いしたいのは、魔物の討伐です」
「魔物の討伐ね。なに? ダイアウルフとか、トレントとか?」
「もしかして、上位種のオーガとかかな?」
僕のランクはC。エメラルはそれ以上は確実。
二人掛かりで倒さないといけない魔物となると何だろう?
頭の中で想像して、妄想力を高めると、ネシアは申し訳なさそうに口にした。
「いえ、ゴブリンです」
ネシアは“ゴブリン”と言った。まぁ、お馴染みの魔物だ。
だけど僕もエメラルもポカンとする。
放心状態に入り掛けると、真顔になった。
「「ん?」」
「ですのでゴブリンです。ゴブリンの群れです。お願いできますか?」
僕とエメラルは聞き返した。
まさかそんな筈ないと高を括っていた。
だけどそんな期待を壊されて、本当にゴブリンの討伐らしい。
しかも群れ……普通だ。
「ご、ゴブリン?」
「へぇー、ゴブリンかー。あー」
僕とエメラルは絶句した。
まあ、何と言うか、そう……相手はゴブリン。
初心者冒険者を待ち構える二大巨頭の一つだ。
それこそスライムに並ぶ程の超メジャー魔物。
強さとしてはそこまでで、舐めて掛からなかったら、全然勝てる。
体色が緑色をした、小さな鬼の魔物で、腰蓑を履いているのが特徴的だった。
「ゴブリン……ねっ」
「ゴブリンか。そっか、王都の周囲にゴブリンが……」
「まあ、ゴブリンは比較的数の多い魔物ですからね。被害報告も多いので、冒険者ギルドも手を焼いています」
ネシアは疲れた笑いを浮かべた。
表所がダラけ、肩を落としている。
相当冒険者ギルドにでも報告が着ているらしい。
けれどそれも理解ができる。何故ならゴブリンは数が多い。
大抵群れを成していて、村や商人の馬車を襲う。
一匹一匹は非力だからこその策戦だが、仲間同士で連携を取る知能がある個体は少なくて、正直群れの意味が無い。
「やっぱり数が多いのかな?」
「はい。今回は特に……」
ゴブリンは群れを成す。だけどそれは、数の利があるからできること。
被害が増えるのもそのせいで、冒険者ギルドへのゴブリンによる被害報告の書類が積み重なっている。如何やら相当な数が動いているらしい。これは大変だ。
「ですので、多くの冒険者の協力を仰いでいます」
「なるほどね。いいことだよね、それ」
それを人海戦術で叩き潰すのは全然悪くない。むしろ有りだ。
だけど、普通そんなことはしない。否、できなかった。
何故なら、相手はゴブリン。スライムより少し強い程度の二大巨頭だから。
「だけど変よね。ゴブリン相手に人海戦術が使えるなんて。どれだけの数が現れたの?」
「そうですね……ここにあるだけでも、二十件以上は」
「そんなに!?」
「異常だね。群れって、どのくらいの規模?」
「詳しい数までは分かりませんが、平均的に五匹~十匹程度でしょうか?」
「「少ないよね?」少なくない?」
あまりにも少ない数の群れが広範囲に渡っていることに驚きを隠せなかった。
それもその筈、ゴブリンは群れを成す。大抵が最低でも十五匹前後から成る。
だけど今回の群れは群れの個数自体は多くて、一つ一つの規模があまりにも小さい。
こんなの異常事態でしか無くて、寧ろ考えられるのは別のことだった。
「もしかして、住処を追われたとか?」
「その可能性がありそうね」
僕もエメラルも伊達に冒険者をやっていない。
こんなことが起こるのは異常で、普通に考えれば、ゴブリン達が何らかの形で住処を追われた可能性が高い。
何せゴブリンは群れを成さないと生きていけないくらい弱い。基本的には生態も二種類に分かれるから、仮に好戦的であったとしても、こんな形で冒険者に気が付かれるような真似は……しそうだけど、今回はあまりにもおかしかった。
「ってことは、住処を追われた原因がある筈で……」
「そうよね。ゴブリンが逃げだす程の相手……無数にいるわね」
「そうだね。なんだろう?」
僕はまだ王都に来てから三日くらい。
だからどんなダンジョンがあるのか、調べてはいるものの、詳しくはない。
魔物の生態は不思議だ。時々、僕達の想像を超えることがある。
ゴブリンによる被害。その裏に何が隠れているのかな? 何だか無性にゾクゾクする。
「あの、それでですね……」
「ちょっと待って、ネシア。オボロ、貴方装備は整えてある?」
「一応ね」
「そう……ちなみにだけど、この辺りのダンジョンは?」
「詳しくないかな」
「そうよね……よし、決めたわ」
僕とエメラルは色々と相談をした。
そう時間を取らせないよう、一言ずつで完結させる。
装備もアイテムもとりあえずは揃っているけど、ダンジョンに対する知識は僕の方がかなり少ない。それら全てを加味すると、エメラルはネシアの顔を見た。
「ネシア、あのね」
「申し訳ございません。エメラルさん、オボロさん、ゴブリン討伐の依頼、引き受けていただけますか?」
改めてネシアは僕とエメラルにお願いした。もしかすると、断られるかもと思ったのだ。
丁寧に頭を下げられると、仮に断る予定だったとしても断り難い。
何よりもネシアから直々に頼まれたとなれば、周囲からの視線が痛い。
断れるような雰囲気ではなかった。
「頭を上げて、ネシア」
「エメラルさん?」
エメラルはネシアに頭を上げさせる。
大切な友達に、頭を下げられるのは釈然としないらしい。
「やらないとダメなんでしょ。だったらいいわ、引き受けてあげる」
「エメラルさん!」
「オボロもいいわよね? 正直、気は乗らないけど、パーティー戦よ」
「分かってるよ。さっきも言ったけど、足手纏いにならないようにするから」
僕は本当にパーティー戦の経験が少ない。
完全にやったことが無い訳じゃない。
だけどここ半年は全く無かったから、上手く行くか心配だ。
それでもエメラルとならなんとかなりそうだと、身を引き締める思いで張り切る。
「それじゃあ行くわよ。オボロ」
「うん。あっ、その前に……ネシア」
「はい?」
エメラルに引っ張られ、僕もダンジョンに向かう。
ゴブリン討伐は早くした方がいい。
被害がこれ以上増えても困るからだ。
だけどその前に一つだけ気になることがあった。
僕はネシアに声を掛けると、どうしても気になっていたことを訊ねる。
今回の人海戦術。王都の冒険者達がどんな手品を使って、みんなに手伝って貰ったのか、真面目に気になっていた。
「それにしても、よくたくさんの冒険者が、要請に応えてくれましたね」
「はい。皆さんとても頼りになりますよね」
「あー、うん。そうだね」
ネシアは笑顔を浮かべた。
超絶スマイルを向けられると、流石に断れない。
僕も空気感を察すると、王都の冒険者ギルド、その見えないパワーバランスを感じ取るのだった。
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