第10話 〈《眩き宝石》〉副ギルドマスター?

「ネシア、お姉ちゃん達から連絡って入ってる?」

「いえ、まだありませんね」

「そう。こっちもないわ。手紙の一つもないのよ」

「そうなんですね。ですが、トパーザさんでしたら、きっと大丈夫だと思いますよ。それに加えて、〈《眩き宝石》〉の選抜隊は、充分以上の強さを誇っていますので」

「まぁ、そうなのよね……はぁ、どうして私だけ今回も置いて行かれたのかしら?」


 エメラルとネシアは会話をしていた。

 とりあえず近況報告らしいけど、エメラルは溜息を付いている。

 愚痴を零しているみたいで、冒険者の話を聞くのも、受付嬢の仕事の内だ。


「それで……貴方はなーんで、私のこと、ジッと見てるのかしら?」


 急に振り返ったエメラル。僕と目が合った。

 流石に視線を飛ばし続けていたせいか、普通にバレた。

 おまけに第一印象は最悪で、僕は睨まれている。


「あっ、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないわよ」

「えっと、申し訳ございませんでした」

「そうじゃないわよ。どうして、私のこと見てるのって訊いてるの?」


 僕はひたすら謝るしかなかった。だって、見ていたのは事実だから。

 それが気に食わないって人は多い。

 冒険者問わず、一般人も含めてだ。


 だからエメラルに睨まれて、怪訝な表情を浮かべられても文句は言えない。

 僕は小心者になると、ただエメラルに怒られるしかなかった。


「なに? 文句でもあるの?」

「そんなのないよ」

「それじゃあなに? 私に用でもある訳?」

「う、うん。用って程でもないけどね」


 僕はただエメラルに興味があるだけだった。

 あれだけの実力を見せつけられたら、冒険者としてそそられる。

 一体どんな訓練を積めばあれだけの実力を培えるのか。

 僕はたどたどしい空気と、挙動不審な動きをして、怪しまれていた。


「用? なによ、貴方。名前は? ここでは見かけない冒険者だけど」


 エメラルは怒涛の質問攻めで攻撃して来る。

 完全に僕のことを怪しんでいる風だ。

 いや、風とかじゃない。僕は怪しまれてる。

 それもそう、な話だけど、ずっと挙動不審に見つめいたら、完全に不審者扱いだ。


「僕? 僕はオボロだよ。よろしくね」

「オボロ?」

「最近王都に来たから、面識がないのも無理はないよ」

「そうなのね……オボロ?」


 名前を訊ねられたので、嘘を付かずに答えた。

 エメラル相手に嘘を付いても、きっとすぐにバレてしまう。

 おまけにエメラルにとって、僕はタダの不審者。きっと何も思われない。


 けれどエメラルの様子がおかしい。

 何故か僕の名前を何度も口にすると、記憶を頼りにする。

 何だろう? 僕、何かしちゃったのかなと不安になった。


「ネシア、もしかして?」

「はい。この間、ブレットさんの間に入ってくださった冒険者の方です」

「そう、貴方がオボロね……ふーん」


 エメラルは、ネシアに訊ねる。

 視線を向け、もしかしてと思い付いていた疑念を晴らす。

 するとネシアはこの間のことをエメラルに話した……様な気がする。

 小声だったせいか、よく聞き取れなかったけれど、エメラルが僕のことを観察してるから、きっとそうに違いない。多分だけど。


「あの、なにかな?」

「別に、ただ私も興味があるのよ」

「興味? 僕に、僕なんかに?」


 僕は自分のことを卑下した。

 僕みたいな普通冒険者相手に、エメラル程の強者が興味を持つなんて。

 もしかしなくても怪しまれてる。要注意人物扱いを受けている、気がした。


「ええ、そうよ。貴方、そこで倒れているブレットを倒したのよね?」

「た、倒したって訳じゃないけど……う、うん」


 一応、あれは倒したってことにカウントされるのかな?

 正直ふいうちみたいな形になっていた。

 ブレットとしても、あんな負け方は望んでなかった筈。だから、公にして欲しくないし、して上げたくなかった。


「その言葉に嘘は無いわよね?」

「嘘なんてつかないよ。でも、ブレットには内緒にしてね」

「内緒にって、目の前で倒れているでしょ」

「あっ……ブレット、ごめんなさい」


 僕は床に突っ伏して倒れ込んでいるブレットに謝った。

 平謝りにはなってしまうけど、一生懸命お辞儀する。

 そんな姿にエメラルは相応しくないと思ったのか、ブツブツ口走る。


「そうなのね……つまり、貴方がオボロ。ブレットを倒した、オボロで間違いなしって訳ね……ふーん」

「うん。えーっと、君は?」


 エメラルは僕の名前を聞いて、繰り返し口にする。

 何故視線が逸れたのか、少しだけ不安になる。

 微妙に重い空気が漂うので、僕はつい空気を入れ替えようと、口を挟んだ。


「そうね。私も自己紹介しないとダメよね」


 エメラルは自己紹介ししてくれるらしい。

 正直、エメラルって名前だけが分かっている。

 だけどそれ以外はよく聞こえなかった。改めて、僕はエメラルに声に耳を傾けた。


「私は、エメラルよ。王都の冒険者ギルドで活動している一冒険者の一人。〈《眩き宝石ルミナス・ジュエル》〉の副ギルドマスターよ、よろしくね」


 エメラルは堂々としていた。

 自分の胸に手を当てると、にこやかに答える。

 あくまでも名前と王都で活躍している冒険者であること。

 それだけを伝える謙虚さを見せるも、後半部分が気になった。


「よろしく、ルミナス……ええっ!?」

「な、なによ急に大声出して。ビックリさせないでくれるかしら?」


 つい僕は声を上げてしまった。

 エメラルや周囲の冒険者の視線が集まる。

 悪いとは思いつつも、ルミナスが悪い。だって、後半部分の言葉のインパクトが大き過ぎるから。


「ごめんね。でも、今なんって?」

「ん?」

「〈《眩き宝石》〉? あの、王都最強ギルドの一角って噂の……ええっ!?」


 僕は驚きすぎて我を忘れてしまった。

 何せ僕が王都ディスカベルに向かうに当たって、他の街で情報を集めていた。


 その中でも、特に冒険者についてはある程度だけど調べていた。

 もちろん、そう簡単に情報は出て来なかった。


 だけど何度も聞く名前があった。それこそが、冒険者でありながら独自の集団ギルドを作り上げた人達。

 王都の冒険者集団の内、その一角を統べる名前。それこそが〈《眩き宝石》〉。

 流石の僕でも知っている、超メジャーギルドだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る