見えてる…
「み、見えて…ます…ね…ぇ…」
そう恐る恐る答える私と聞いて来た電車の君をアッコとおっちゃんは交互に見比べていた。
(ん?待てよ。それってつまり…)
「貴方も見えてるって事?!…ですか?」
そう聞くと
「うん、そ、そういう事になる…ね…」
「そ、そうなんですね…えっと…じゃ、私、それじゃぁ…」
見えてるからといって彼がアッコ達をどうするか分からない。守らないと。逃げないと。
しれっと二人を抱えて立ち去ろうと立ち上がろうとすると
「ちょっと待って!」
二人を抱え込んだ腕を掴まれる。その衝撃でアッコとおっちゃんが私の膝の上にぽてんぽてんと落ちる。
思わず彼の瞳に目を奪われる。だって彼の瞳の中に自分の姿が映っているんだもん。
「ちょぉ!ちょぉ!何わてら放って二人の世界作っとんねん!」
下からのツッコミにハッとなる。
「ごめん!この二人…うちの子達なんだ…よね」
「え!そうなの?!」
彼でなく下にいるアッコに聞く。
「そうやねん」
てへっとアッコが笑う。
「えっ!じゃ『うちの子ぉ』って大沢さんだったんですか?」
「え、大沢さんって僕の名前をご存知で?」
「あ、あの…同じ会社で経理ではたらいています小田島です」
「あ!すみません。ちょっと髪型とか違っていたのですぐ気付かず…」
「い、いえ…」
恥ずかしくなって下を向く。
「そやねん。ウチが坂下さんとこ連れてってん」
下からアッコがドヤ顔で言う。
「坂下さんとこに?!」
「それだけちゃうで?デパートのパーソナルショッパーんとこも連れてってん。アンタの時と一緒やなぁ」
「あっ!」
そこで私はアッコが
『うちの子ぉもイケてなくてなぁ…』
と話していたのを思い出す。
全てをバラされたという事を察した大沢さんはお母さんにイタズラを叱られた時のような顔をした。
「もぉ、アッコは何でも話すなぁ」
「いや、アンタらが知り合いやなんて知らんかってもん」
自分もいろいろな話を、しかも大沢さんに憧れている話をしていた事を思い出す。このままいたらいろいろと話されてしまいそうだと気付き、早くこの場を離れないと!
「あ、じゃぁアッコ、アラン・ドロンの旦那様と再会できて良かったね。それじゃもう行くね」
そうお別れしようとした時。
「あ!小田島さん!だったよね?ちょっと悪いんだけどこの二人をお願いしてもいいかな?実は今日この後企画室で花見があってさ、おっちゃんがどうしても『アッコを探すんやぁ!』って言って聞かなくて連れてきちゃったんだよね。まぁ実際こうして再会できて良かったんだけど、さっきみたいに猫やカラスもここは多いでしょ?この後飲み会になったら二人をずっと見ているってわけにもいかないし…」
座ったまま上目遣いでこちらを見てくる。うぐっ!推しのそんな上目遣い。しかも周りは桜。断れるわけがない!
「わ、分かりました…」
二人を受け取り、連絡先を交換した。
「今日は早く上がらせてもらう約束でその代わりに場所取りを買って出たんだ。だから19時には迎えに行けると思う。よろしくお願いします」
胡坐に両手を膝についてペコッと頭を下げられた。
二人を抱えたまま哲子は深いため息を吐いた。アッコの家探しをしていたけど、当たり前だけど見つかったらそりゃアッコとお別れって事に気づいてなかった…
いや、うるさいし、鬱陶しいし早く気楽な一人になりたいんだけど…こんないきなりのお別れは…
だから19時まで預かれる事にホッとしていた。そして、まさか!アッコのいう『家の子』が憧れの電車の君の大沢さんだったなんて!心臓が騒がしい。
「なぁ、なぁ!なぁて!」
抱きしめるように抱えていたアッコが下から呼んでいたのに胸が、いや頭がいっぱいで中々気づけなかった。
「あ、ああ、ご、ごめん、ごめん」
「せっかく旦那と再会できたしな、二人でこんな外に出られるチャンスそう無いやん?あんな、お願いがあんにゃけど…」
アッコが体をヨジヨジ捻る。うん、ごめん、そんな可愛くない。
ポリボリポリポリ…
暗い空間、前面から光を浴びながら膝の上で二人には味噌蔵の樽のようは大きさのポップコーンの入れ物からポップコーンを取り貪り食う図を哲子は上から微笑ましく見ていた。
『映画観たいねん!仲なおりやん?なぁ』
『なぁ』
と夫婦で向き合って頷き合う姿を思い出す。仲睦まじい姿にほだされこうして二人を連れて映画に来た訳だ。
映画館を出たのは17時頃。日も暮れ始めてきた。春先だ。夜は冷える。家を出た時は陽も高く暖かったのでそんな防寒のための上着ではない。
(どうしようかなぁ。一回帰宅して大沢さんを待つ?もしかしたら花見が楽しくなって遅くなるかもしれないし…)
帰宅することを決め駅に向かう。花見はこれからが本番の時間らしく駅からたくさんの人が公園に向かっていた。
「小田島さぁぁぁん!」
その流れに逆らって大勢の中から頭を一つ出して大沢さんが走ってきた。
(うっ!)
普段じゃ見られない笑顔全開の大沢さんを見てキュン死しそうになると同時に心拍数も上がって結局死にそうだ。
なんでも今日の花見のメンバーが現れたから場所を譲ってお暇してきたんだそうだ。両肩にそれぞれを載せていたからすぐ分かったらしい。
「よかったんですか?」
「いいんだよ。場所を取っただけでもうお役ごめんだよ。そういう約束だからね」
「でも、早く帰りたかったのはアッコを見つけたかったからですよね?」
もうアッコは見つかったのだから飲み会を辞退しなくてもいいんじゃないのかというニュアンスで聞いた。
「昨日までの仕事にみんな追われていて、今日しか無いからって今日になったんだ。疲れているから今日はそんなに飲みたいと思わないし、飲み会は元々そんなに好きじゃないから大丈夫だよ」
(そうなんだ…きっと大沢さんと一緒に飲みたいって人は多いと思うけど…)
「二人をありがとうね」
そう言って両手を私の肩の方に向かって大沢さんは出してきた。これから花見をしに行く人達、飲み屋の方へと向かう雑踏の中で私達は立ち止まっていた…
(そっか、もうお別れなのか…)
アッコと別れるのが名残おしくなるとは本当に自分でもびっくりだったけどこれもまた縁なんだろう…
大沢さんの方へ渡ってしまうアッコを見るのが忍びなくて肩に力を入れてギュッと目をつむる。
「ちょっと待ったぁぁぁっ!!」
アッコが私の肩で叫んだ。
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