妖精の居る森

源なゆた

妖精の居る森

 花畑はなばたけ

 おさない『わたし』の視界をさえぎる程に背の高い花――百合ゆり――の密集地みっしゅうちを抜けても、まだ花畑。

 記憶きおくの中の風景は、本当にどこまでも続いているようで。

 ああ、あの頃の『わたし』にとって、世界はこんなにも広かったんだな、と思う。


 ただ、たのしいだけだった。


 みんなきれいで、

 みんなかわいくて、

 みんないいにおいで、

 みんないっしょーけんめー、いきていた。


 きっと『わたし』も、そうだった。

 そういうところだけをみていた、というべきかもしれない。


 世の中の辛さも、苦しみも、悲しみも、何もかも知らず。

 自分がどれほどまもられていて、どれほど幸せであるかもわからないまま、自分の気持ちを一番大事にして、生きていた。

 だから『わたし』は、家族の視界なんてまるで気にせず、花畑をけていく。


 そこには、森があった。

 さっきまでの草花とはまるで違う、鬱蒼うっそうしげる木々。


 こわかった。


 くらくて、

 おっきくて、

 うるさくて、

 なのにすいこまれるみたいに、


『わたし』はおくへと歩を進めた。


 森はやっぱり広かった。

 頭上ののざわめきの中で鳥の声がひびいても、どこに居るのかまるでわからなくて。

 辺りを見回しているうちに、ソレは目の前に居た。


――やあ、おじょーさん。ボクとあそばない?


 妖精、精霊、それとも悪魔?

 今考えてもわからないけれども、ソレは確かにそこに居て、『わたし』を見つめていた。


 てのひらくらいしかないカラダ。

 もっとちいさなハネ。

 きれいで、かわいくて、おはなのにおい。


「うん、あそぼー!」


 怖かったことなんて忘れて、はしゃいでいた。


――よし、じゃあ、おにごっこだ!


「うん!」


『おともだち』を追いかけた。

『わたし』よりも太くて大きな根っこをよじ登って越え、小川を飛び越えて走る。

 世界を置いてきぼりにするような感覚。

 もちろん当時はこんな言葉には出来なくて、


 どこでもいける!


……くらいの気分だったけれども。


 体感では、「ずーっと」走り続けて。

 ふと、『おともだち』が止まって。

『わたし』は得意気に、


「つかまえたっ!」


――つかまっちゃった。


『おともだち』は笑った。……ううん、今ならわかる。アレは、わらっていた。


――ありがとう、たのしかったよ。それじゃあ、またね、おじょうさん。


「えー、まだあそぼう?」


――そうはいかないんだ。ごめんね。ばいばい。


「そっかぁ……ばいばい!」


 精一杯せいいっぱい『おともだち』を見送った。

 その元気は、続かなかった。


 ひとりぼっち。

 さむい。

 くらい。

 さみしい。

 ママ、パパ、どこ?


 いつの間にか、泣いていた。

 泣いて、泣いて、泣き疲れて、また泣いて。

 ついには本当に泣くちからも無くなって、寝てしまった。


『わたし』が目覚めたのは、パパが運転する車の中で。

 ママが、涙を流しながらぎゅっと抱きしめてくれたのを、おぼえている。

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妖精の居る森 源なゆた @minamotonayuta

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