第3話 破局
放課後に週に一回ほど、私は杉崎くんに呼び出されるようになった。
場所は体育倉庫。
二回目からは扉も閉めきって杉崎くんに会った。
中は顔が見えないくらい暗い。視覚を奪われると他の感覚が鋭くなった。
耳元でささやかれた言葉は、脳に流しこまれたように残った。
指は肌の上を流れ落ちていくのに、どこか執拗で、触れられるとどんなところも気持ちよくなった。
倉庫には部活に使うものはなく、来る人はほとんどいなかった。
それでも一度だけ、校庭にラインをひく石灰を取りに人が入ってきたことがあった。
私と杉崎くんは跳び箱の裏にいて、人が出て行くのを待った。
声からして女子二人だった。
男子よりも女子のほうがバレたらまずい。
あっという間に噂が広まって、私は彼女たちから殺されてしまうかもしれない。
それなのに杉崎くんは状況を楽しむように私のスカートに手を入れて脚を撫でてきた。
杉崎くんの指に触れられると、どんなところも敏感になる。
女子二人はなかなか出て行かなかった。
下着の中にまで杉崎くんの指が入り込んできて、触れられると声が出た。
そうなることを分かっていたかのように杉崎くんの唇が私の口に覆いかぶさってくる。
私の声は外に出る前に杉崎くんの中に吸い込まれた。
ようやく女子二人が倉庫を出て行った。
扉を閉め忘れたようで倉庫に外の光が入り込んでいた。私は杉崎くんに恨むような視線を向けた。
「今しなくてもいいじゃない」
「そんな顔で言われてもね」
私の視界は涙のせいで滲んでいる。
きっと惚けた顔をしているのだろう。
私とは対照的に杉崎くんの顔は運動をしたあとみたいに爽やかだった。
「こんなとこでするのやめようよ。私の家来ていいから。カラオケだっていいし、とにかく学校じゃないところがいい」
「なんで? ドキドキして楽しいじゃん。こういうとこじゃないと気分乗らないんだよね」
杉崎くんは言い出したら自分の要望は曲げなかった。
私が自分の意見を主張すると、「じゃ、いいや」と言われてしまう。
私が選べるのは彼の要望を受けいれて一緒にいるか、離れるかの二択だった。
どうしたらもっと会えるようになるのかと一日中考えている私が離れる選択肢を選ぶわけがなかった。
関係が切れることがあるとすれば、彼の方からだ。
杉崎くんなら女の子をいくらでも選べるだろう。
私は彼に飽きられやしないかとおびえていた。彼とこうしていられるのは最後かもしれないという予感はつねにあって、だからこそ私は彼との情事に溺れた。
杉崎くんと会いながら、川島くんとの関係を続けていくのは難しかった。
杉崎くんは絶対に叶わない恋の相手。
川島くんは対等な関係にある相手。
二人の存在は全く違う場所にあって、私の中では矛盾することなく存在したけれど、川島くんにとってはそうではない。
川島くんとキスをしたとき、おそろしいほど何も感じなかった。
顔が離れると川島くんは熱っぽい視線を向けてきたけれど、私の顔を見ると、川島くんの顔が悲しそうに歪んだ。
「涼花ちゃんは俺のこと好き?」
消え入りそうな声だった。
人としては好きだったが、異性として好きかという質問なら、好きだとは言えなかった。
私の頭の中は杉崎くんの存在で埋め尽くされていて、他の誰かが入ってくる隙間なんてない。
でも、私は川島くんと別れたくなかった。
杉崎くんと会って心がボロボロになったとき、川島くんの存在に何度救われたか分からない。
杉崎くんからおもちゃのように扱われても、私のことを大切に思ってくれている人がいるのだと思うと踏みとどまれた。
川島くんのことを都合よく利用しているのは分かっていた。でも川島くんは替えのきかない存在だった。
同性の友達にいくら励まされても意味がない。私には私を好きでいてくれる異性が必要だった。
「好きだよ」
関係を続けるために嘘をついた。
けれど答えるのがあまりにも遅かったのだろう。
「もう無理しないでいいよ。別れよう、俺たち」
川島くんの声は震えていた。眉が真ん中にぎゅっと寄って痛みに耐えているみたいだった。
その顔を見たら、これ以上私の都合に付き合わせてはいけないと思った。
「うん。ごめんね」
川島くんに向かって頭を下げた。
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