トラ系召喚獣とスローライフ

リーシャ

第1話現代のファンタジーとスキル

日課のブラッシングを受けて、耳をピンと立てた大型の幻獣が幸せそうに目を閉じている様を私は、同じく幸福感に満たされて空気を吸い込む。


ここにコテージを建てて正解だった。

空気も良いし、環境も整っている。


人が多くいる環境が酷く合ってなかったと良く分かる。


そのせいで、長年苦しかった。


しかし、この子と再会したおかげでやっと本当の意味で呼吸出来たのだ。


「にゃうにゃう」


「よし、今日はダンジョンに行こうか」


ダンジョンというのは凡そ、いつからというのは誰にも分からないほど大昔から存在している穴だ。

200年少し前までは忌み地として軍や国が完全に管理していたのだが、研究によりダンジョンの開拓が進めばいろんなものが得られるということが知られて、少しずつ本格的にダンジョンというものを調査し、知って言った。

忌み地とされた原因は中にいるモンスターと呼ばれるバッドエネミーのことだ。


バッドエネミーはダンジョン外の存在を知れば襲ってくるモンスター。


それと、地球では現在、過去でいうところの魔法使いや魔女という存在の原因となった魔法が使える。

最近では遺伝子的に発現させられるようになったので、全員が魔法やスキルといった能力を持てる時代。


「私のスキルは前世だった。でも、これって世間じゃハズレスキルなんだって」


スキルを開花させるのは人類の義務。

拒否は許されない。

というのに、世間はスキルに優劣を付ける。

相棒に話しかけると、虎の姿をしていながらも背中に翼、額に宝石を付けた幻獣が耳をこちらに向けて、目を薄く開ける。


「ライちゃん。私達はずっとここでスローライフしようね」


「クルクル、クルクル」


喉を鳴らす幻獣種ライガー科。

パートナーたるこの子の名はライラエル。

ライちゃんと呼ぶと甘えてくる甘えん坊。


「そうだね」


ライちゃんは私の前世で共に暮らしていた幻獣なのだ。


私の前世は具体的なものはなくて、断片的なものが多い。

例えば、前世の世界では魔法使いは奴隷みたいな階級で、残酷な事や最低なこと、従いたくないことをさせられたという記憶ばかりで良いことなどないのだ。

しかし、その映像、または過去の記憶での心の支えがライラエルだった。


記憶が無理矢理引き出されたと同時に薄くあった幻獣との絆が分かるようになり、こちらの世界に呼び寄せることが出来るようになる。

そして、リーシャは1も2もなく、速攻呼び出した。

幻獣召喚は難易度エクストラだが、一度契約すると簡単。


前世という記憶により、自尊心と存在価値、倫理観を破壊された現在のリーシャにとって、なによりも必要な相方。


リーシャはその記憶のせいで長年苦しむことなった。

ろくに動けなくなり、ご飯も食べられなくなった。

ボロボロになってしまった私を回復させられるのは一つしかない。


「ライちゃん、頑張って進化したんだね」


「ぐるぐる、にょおーん」


喉を鳴らして、返事をしてくる。


「私は、今度こそ私はね」


取り返す、人生を。

前世という記憶により平穏が奪われた二度目。

記憶だけですよ、と周りは言った。

しかし、記憶は本当に起きたこと、起こしたことなのだ。

国は、人は、世間は、周りは、成功者だけを持ち上げて、取り残された私のような心が折れた者には一瞥すら遣さない。

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