第12話 ネーミングセンスを培おう!

 「運転はリアナにやってもらう。あそこに水素が入っていて、飛んで進むんだ。」


 「でかい過ぎる………敵に狙われたらどうするんだ?」


 「お前がどうにかするんだ。頑張れよ?」


 「まさかこんな壮大な事になるとは思わなかったな。」


 「何言ってるんだ、これから魔王を倒しに行くんだぞ?」


 「そうなんだけどさ…………ずっとダンジョンの奥で暮らしてたから、まだ実感が無くてな……………」


 「世界を見てくるといい、お前は恵まれてるよ、この世界を一から見て回れるなんてな。」


 「そうかもな。」


アクセルは飛行船に向かって歩き、アルバートとリアナもそれについて行ったが、ベネディクトはその場を動かなかった。


 「じゃあな、ゾーイを頼む。」


 「分かってるよ。」


そう言ってアクセルは飛行船の中に入って行った。


 「これが飛行船…………」


赤いカーペットが敷かれた廊下は恐らく運転席に繋がっており、両脇には漆の塗られた綺麗な木の壁とドア。4つの部屋がある様で、アクセルは一番近くにある部屋のドアを開けた。


 「…………飛ぶ上にこんなに良い部屋とは、ダンジョンの何倍も快適そうだ。」


質素な部屋ではあったが、必要な家具は揃っており、ベッドは窓の横に設置されていて、寝ながら景色が楽しめそうだ。


 「何処が誰の部屋ってのは決まってんのか?」


 「決まって無いな、好きな所を選べ。」


 「ゾーイと同じ部屋でもいいよな?」


 「4つあるんだ、馬鹿な事言うな。」


 「アルバートはどうするんだ? 誰と一緒に居る?」


 「アルバート様は一室丸々使われる。」


 「え? じゃあ一室足りないじゃないか。」


 「私の部屋は無い。基本、操縦をしなくてはいけないからな。」


 「ずっと操縦してなくちゃいけないのか? 寝る時はどうする?」


 「ずっと飛んでいる訳じゃない。途中で町にも寄るからな、そこで寝ればいい。」


 「俺に操縦を教えてくれたら代わってやれるぜ? 絶対に休んだ方がいいって。」


 「こんな重大な任務を貴様に任せられるか。貴様に気を遣われるなんて不愉快極まる。」


 「心配してやってんのによ………俺はゾーイと同じ部屋でいいから一室使え。」


 「要らない。」


 「あっそ、倒れても知らんからな。」


アクセルはそう言い捨てて部屋を出た。ゾーイを探してノックしながら部屋を開けていくが、ゾーイは何処にも居ない。


 「ゾーイ? 何処に居るんだ?」


そう言いながらアクセルが操縦席の方に向かうと………………


 「あっ! アクセル! お父様と何を話していたんだ?」


ゾーイはペロパニーを膝に抱えながら一緒にお菓子を食べていた。


 「大した事じゃなかったよ…………ていうか、ペロパニーは何やってんだよ? 本当の子供みたいじゃないか。」


 「五月蠅いわね! 私の勝手でしょ!」


 「高所恐怖症らしいんだ。これから飛ぶと思うと怖くて誰かと一緒に居たいらしい。」

 

 「はは、意外とかわいい所があるじゃないか。」


 「だ、誰にも言わないって約束だったわよね!?」


 「そうでしたっけ?」


ペロパニーはゾーイの膝の上からゾーイの頬を引っ張り下げた。


 「いたた……いふぁいへすよ……………」


 「次は無いからね!」


 「緊張感が無いな………本当にこれから魔王討伐に行くとは思えん。」


 「私とあんたが居るのよ? 余裕でしょ。」


 「そう簡単に行けばいいがな。」


そんな話しをしていると、後ろからリアナがやって来た。


 「皆様、準備はよろしいでしょうか? これから出発致します。」


 「私は構わないが………ペロットパーン卿はどうですか?」


 「だ、大丈夫よ。も、問題無いわ。」


 「俺も準備はできてる。ていうか、持ってく物は何もないしな。甲冑と剣は積んであるんだろ?」


 「では、出発致します。」


リアナはメーターだらけで良く分からない操縦席に座り、手慣れた手つきでボタンやらレバーを引いて飛行船を動かし始めた。


 「ひぃぃ! う、動いた!?」


 「大丈夫ですよペロットパーン卿、リアナは何でもできるんです。失敗もしません。」


 「べ、別に怖がってりしてないわよ!」


 「暫くやる事はなさそうだな、俺は部屋に戻ってゆっくりしてるわ。」


アクセルは一番手前の部屋に入り、ベッドまで歩いていって、ベッドに寝ころんだ。


 「魔王か………………」


 「気になるかい? どんな人物か?」


 「うぇ!? あ、アルバート!?」


部屋に入った時には気付かなかったが、アルバートが椅子の

上で寝ころんでいた。


 「わ、悪いな、出てくよ。」


 「いやいや、いいよ。というか、一緒の部屋でもいいかい? リアナは私の部屋を使えばいいしさ。」


 「ま、まあ………いいけど。」


 「で、何だが、親衛隊や魔王の事について聞きたいかい? それとも楽しみにとっておくかい?」


 「何だよ楽しみって………………」


 「強い奴と戦いたいんだろう? 能力や性格を知らないで挑みたいのかと思ってさ。」


 「そこまでのバトルジャンキーじゃねぇよ。俺だって何事もなくあっさり終わればいいと思ってる。」


 「あっさりか、そうもいかないだろうね。魔王の保有する戦力は恐らくロストン王国の保有戦力を上回っていると思う。ベネディクトは自分が居るからギリギリ上だと思っているけど。」


 「魔王の他にやばい奴は居るのか? ギャレットとかいう奴は俺が最強だのなんだの言っていたが………………」


 「親衛隊は五人というか五匹だな。ギャレットが死んだから後四匹だが。」

 

 「強いのか?」

 

 「ああ、とても強い。が、親衛隊の中ではギャレットが一番強かった。」


 「じゃあ余裕じゃないか。というか、あんたは四天王とか言ってなかったか? 四天王も居るのか?」


 「昔の話しさ、今は誰も残っちゃいない。」


 「そうか………………魔王自体も大した事なさそうだな。」


 「デッドラインについて知りたい事はあるかい?」


 「無い……………と、思ったが、あの白髪の男は何者なんだ?」


 「ガスパールの事か? 彼はデッドライン序列第一位。最も国王を守る事に適した能力を持っている。能力の詳細は私も知らないんだ。ただ、遥かなる世界線という異名を持っているな。」


 「聖書の引用か?」


 「そうだと思うな。」


 「遥かなる世界線か、何時か戦えるといいな。」


 「そうだ、君に言っておきたい事がある。」


アルバートが思い出したかの様に言った。


 「何だ?」

 

 「ベネディクトは言っていなかったが、リネア教には大神官が居て、そいつらは神と直接交流しているそうだ。そいつらも強い。それに、もしかしたら敵対するかも知れないんだ。」


 「何故?」

 

 「自分が何者かを忘れたのか? 深緑の騎士、リネア教にとって最も恐れるべきであり、打倒しなくてはいけない存在だ。ベネディクトが言わなかったのは流石にリネア教とは対立したくなかったからだろう。ゾーイとの結婚も君にそれらしい身分と職を与えて、穏便に全てを終わらせる為かも知れない。」


 「よく分からないんだよな~、大神官が強いってのは気になるけどな。」


 「大神官は全く素性の知れない奴等だ。何人いるかも分からない。一人だけ見た事あるがね。」

 

 「どんな奴だった?」


 「オカマだったよ。」


 「オカマ? 訳が分からん。」


 「強いかどうかは分からなかった。戦った訳じゃないからね。」


 「そうか………………分からない事だらけだな。」


アクセルはアルバートを視線から外し、窓の外を見た。通り過ぎる米粒程の大きさしかない家や木々、真横を通る鳥たち、飛行船はどんどん上昇していき、遂には雲の上にまでやってきた。雲の上を滑る様に飛ぶ飛行船にロマンを感じながら外を眺めていると………………


 「ん? 何だ?」


雲の海の中に黒い三角形の何かが見えた。サメのひれの様に見えるが、ここは雲の上だしな………なんてアクセルが考えていると、どんどんそれは上昇していき、雲の中から巨大なドラゴンが現れた。


 「ドラゴンだ!」


 「何? ドラゴン?」


アクセルは急いで立ち上がり、操縦席の方に向かった。


 「おい! ドラゴンが居るぞ!」


操縦席の窓からもドラゴンが良く見え、そのドラゴンがこちらを睨んだと同時に口を開いた。


 「深緑の騎士よ! その命、もらい受ける!!」


その怒号とも言える声は飛行船全体を揺らし、リアナはドラゴンから距離を取ろうと舵を切った。


 「誰か対処をお願いします! この飛行船には兵器の類は搭載されていません!」


 「俺は飛べないしな…………ペロパニー、行ってくれるか?」


 「むむむ、無理! 絶対に無理!」


ペロパニーは震えながらゾーイにしがみつき、ゾーイは困り顔をしながらペロパニーの頭を撫でた。


 「すまないアクセル、私もここを動けそうにない。一人で行ってくれるか?」


 「全く………………」


アクセルは再び部屋に戻り、アルバートに相談した。


 「で、どうすればいい?」


 「私の背に乗って行くといい。」


 「せ、背に?」


アクセルはアルバートの自分の腕程しかない体を見つめ、顔を上げて首を横に振った。

 

 「無理だろ。」


 「立って乗ればいい。スケボーみたいにな。」


 「………………マジ?」


 「落としたりしないよ。」


 「………………」


アクセルとアルバートは外へと出るドアの前まで向かい、アクセルは深呼吸をしながらアルバート上に乗った。


 「痛くないのか?」


 「全然、ドアを開けてくれ。」


アクセルはドアを開け、突風が自らの体を押しのけようとする感覚に若干気圧されそうになった。


 「流石にここから落ちたら俺でも死ぬと思うんだけど?」


 「君なら骨折くらいで済みそうじゃないか?」


 「マジでやるの?」


 「当然、覚悟は?」


 「………………行くか。」


バッ!


アルバートは翼を広げ、一気に外へと飛び立った。


 「絶対に落とすなよ!」


雲の中をくぐり、空中を右往左往しながらアクセルはバランスを取ろうとした。


 「口は閉じていた方がいい、私に唾が掛かるのと、舌を噛んでしまうからな。」


アルバートはアクセルを落とさない様に急旋回し、現れたドラゴンの横に並んだ。


 「貴様は………………アルバートか、貴様程の存在が随分矮小な姿になったものだ、それに、人を乗せるとは。」


ドラゴンは嘲りと敬意のこもった口調でそう言った。


 「私は君の事を知らないな、何者だ?」


 「魔王親衛隊カルナバルが一角、ベルナルドだ。お初にアルバート、伝説の緑龍よ。会えて嬉しいぞ。」


 「カルナバル? そんな名前になっているのか? 私が居た頃は四天王で、その前は三獄界王で、その前は…………」


 「揉めに揉めた結果そうなった。私は五天龍とかが良かったんだが、龍が私だけだから却下になってしまった。」


 「悪くない名称だが、他かに龍が居ないんだったら駄目だな。シンプルに五天魔動軍とかどうだ?」


 「軍って規模じゃないしな、悪くないが。」


 「お~い、戦うんだよな? 殴っていいんだよな? やるんだよな? 何でそんなしょうもない名づけの話しをしてんだ?」


アクセルはヨロヨロとバランスを取りながらそう聞いた。


 「アクセルは何かいい案あるか?」


 「ねぇよ、興味もない。カルナバルに決まったんだからそれでいいじゃないか。」


 「どうせまた変わる、参考にと思ってな。」


 「あのなぁ………この深緑の騎士を倒しにきたんじゃないのか? 深緑の要素は無いが、多分俺は深緑の騎士なんだぜ?」


 「どうせ勝てないからな。」


ベルナルドがため息をつきながらそう言った。


 「おい! じゃあ何で来たんだ! というかやってみなきゃ分かんないだろ! 諦めんなよ!」


 「でもなぁ、ギャレットが一番強かったんだ。私じゃ君には勝てないだろう。」


 「だ、か、ら、何で来たんだよ! 家で引きこもってろ!」


 「負けると分かっていてもやらなきゃいけない時があるんだよ。」


 「無いから帰れ、そんな事の為に死ぬなよ。」


 「何もせずに帰ったら魔王様に殺されるからな、やるだけやるのさ。」


 「えぇ………酷い奴だな、何でそんな奴に従うんだよ?」


 「私を造り上げたんだ、魔王様は。逆らえないし、逆らおうとも思わない。」


 「何でそんなに俺を殺そうとするんだよ?」


 「そう言われたからだ。ギャレットは何か知っていたみたいだったが、あいつに聞くのは面倒くさ過ぎる、肉の貯蔵庫に案内してもらう道で、肉の保存管理の話しと、美味い焼き方の話しで4時間潰された。もう二度と聞かない。」


 「二度と聞けないんだ。俺がぶっ殺したからな、くそ雑魚だったぜ、むかつくだろ?」


アクセルは慣れないながらもベルナルドを煽り、戦意を湧きあがらせようとした。


 「いや、あいつは生とか死とかに囚われない奴だったからあんまり喪失感みたいなのは感じないな、私たちは何時でも死ぬ覚悟ができてるし、深緑の騎士に殺されるなら本望だったんじゃないか?」


 「………………」


 「どうした?」


 「やる気が出ない。帰って魔王に殺されてくれ。」


アクセルは項垂れながらそう言った。


 「そんな、殺し合おうじゃないか。」


 「頼むから帰って大人しく殺されてくれ、こんな精神状態で戦いたくない。」


 「そうか………残念だが、仕方ないな。それじゃ、あの世で会おう。」


そうしてベルナルドは降下していって、そのまま帰って行った。


 「良かったな、戦わずに済んで。」


 「………………くだらん。」


アクセル達は飛行船に戻り、操縦席へと向かった。


 「あれ、アクセル? 戦っていたのか? 何の音もしなかったから、分からなくて………一撃で終わらせたのか?」


 「まあ、な。」


 「流石だな!」


 「あはは………………はぁ………………」


 「ま、まあやるじゃない。実は私も行けたけど、あんたの実力を再度確認する為にわざと行けないふりをしたの。お分かり?」

 

 「はいはい、そうでしょうね。」


アクセルはペロパニーを簡単にあしらい、部屋に戻って行った。


ガチャ


 「はぁ、何なんだよ。これで魔王も俺に勝てない~とか言ってきたらマジで引きずり回すからな。魔王を。」


 「ギャレットは君は魔王よりも強いと言っていたな。まあ、やってみないと分からないさ、気を持ち直そう。」


 「何の気だよ、俺はそもそも師匠を探す為に強くなりたいだけなのに。」


 「それが一番難しい問題って事は君も分かるだろう? 君が更に強くなる方法なんて私は思いつかない。筋トレとかはしないのか?」


 「何で鍛えるんだよ?」


 「山とか。」


 「登るって事か?」


 「君なら持ち上げられるだろ?」


 「………………お前等は深緑の騎士を何だと思ってるんだ。」


 「畏怖。それだけだろうな。」


 「何が畏怖だよ、くだら………」


その時


 「皆様、町が見えてきました。着陸します。」


どこからともなくリアナの声がしてきて、アクセルは窓の外を見ると、下の方に町があるのが見えた。


 「町か………なんて町だ?」


 「ドロントンだ。ご飯の美味しい良い町だよ。」


 「お前の言うご飯って人間の事じゃないよな?」


 「まさか………………ね?」


 「………………」

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