第26話 決起
しばらくソファに座っていると、瑠美菜がふたりのもとに来た。
顔色が悪かった瑠美菜だったが、少しマシになり、笑顔を胡桃に振りまいていた。
そこから3人でショッピングモールを周った。
おもちゃ屋に行き、胡桃が欲しいと言ったおもちゃをすべて買おうとうする仁を瑠美菜が止め、3人で寿司を食べ、胡桃が美味しそうに笑い、それを瑠美菜が優しい微笑みで見ている。
本当の姉妹のようだと仁は思った。
いや、本当の姉妹といえば、姉妹だ。
でも、ふたりは全然違った。
太陽のような胡桃と、月のような瑠美菜。
ふたりは正反対だった。
どうしてまだ子どもの胡桃や瑠美菜が大きな責任を持たなければならないのだと仁は世の中の不条理を心の中で嘆いた。
それでも、世界は変わらない。
「あれ乗りたい!」
胡桃が指をさす。
夕日も落ち、そろそろ解散しようかと思っていた瑠美菜と仁だったが、胡桃の提案に乗ることにした。
「うわぁ、高いよ! ねえ! 瑠美菜お姉ちゃん、仁おにいちゃん!」
「そうだね」
瑠美菜が優しく返す。
胡桃が乗りたいと言ったのは観覧車だった。
仁は以前、瑠美菜と観覧車に乗ったことを思い出していた。
あの時は夕日が差し込む景色だったが、今は夜の街の明かりを眺められ、それはそれで乙なものだと仁は思った。
「くるみちゃん、危ないよ」
仁は微笑みながら、外に身を乗り出しそうな勢いの胡桃を席に戻してやる。
「本当に、綺麗だね」
瑠美菜は夜の月明かりを見ながら、言う。
「ああ」
瑠美菜のプロモーションビデオを撮影した時は、瑠美菜は本当にアイドルになるため一所懸命撮影した。
事の真相を知らなかった仁も本気で瑠美菜の支援をした。
それが今では懐かしく感じるほど遠い記憶に思える。
瑠美菜は月を眺め続ける。
母のことを考えているのだろうか。
仁は瑠美菜を見やる。
やはり、瑠美菜は月のようだ。
遠く、届かない輝きに手を伸ばすようなその姿は、どこか寂し気に夜を照らす月のようだ。
太陽の胡桃に月の成海。
ふたりはアイドルになることを約束し、そして胡桃はアイドルになれた。
時が経ち、瑠美菜の希望の光が落ち、世闇を照らす月が浮かぶ。そうして瑠美菜もじきにアイドルになれる。
そうしたら、ふたりはきっとアイドルとして輝くだろう。
輝き。
仁は聖城の言葉を思い出した。
夢を輝かせる。
もし、ふたりが一緒にアイドルになれたら、どれだけ輝いているのだろう。
仁はふたりを見た。
ころころと笑う胡桃に、優しい微笑みを浮かべる成海。
ふたりでひとつのアイドルになれたらいいのにな。
―――――――――――――。
「そうか!」
仁の頭に電撃が走った。
「どうしたの急に?」
「どうしたの仁おにいちゃん?」
瑠美菜と胡桃が驚いた様子で、仁を見やる。
「成海、夢を叶えるためならなんだってするって言ったよな?」
仁は真剣な目で真っ直ぐ瑠美菜を見つめる。
「う、うん」
焦りと驚きで何とか返事をする瑠美菜。
「俺に、考えがある」
仁は眼鏡をくいと上げる。
金のためになんだってやる。
その瑠美菜の気持ちに動かされたのかもしれない。
桐生仁の目に、本来の生気が宿る。
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