第10話

 よし。 寝静まった頃だな

 テントの隙間から外の様子を伺うと、ちょっと前まではごそごそとテント内で話している連中の声も聞こえていたが、今はもう静かなもんだ。逆に静か過ぎてこっちが気を使わないと周りが起きてきてしまいそうな程寝静まってしまっている。


 日付が丁度変わる頃だが、今からグリズリーの探索にムルガ森林の奥地に向かうが、確実にグリズリーがいるかは分からない。爪痕のマーキングを頼りに進むが、いなければ朝までに帰って来なければならない。


 手招きでリリィを呼ぶと、それに無言で頷くリリィ。

 先生にはバレないように布団の中には二人に似せた物を詰めて仕込んでおいた。

 まぁ、あれで大丈夫だろう……


 こっそり出た俺達はムルガ森林の奥地に向かって静かに歩き出す。意外と森の中は月明かりが通り周りがよく見える。これなら松明たいまつを使わなくて済む。


 以前あった爪痕から、俺達は更に奥に向かってしばらく歩いていると、また同じ大きさのグリズリーの爪痕を発見した。


「ここにも爪痕があるな。 グリズリーがいる方向もこっちであってるみたいだ」


「はぁぁ……。 眠い。 ほんとによくやるね、こんな時までグリズリー退治なんて。 流石に野外演習の時くらいはちゃんと休むかと思ったのに」


「俺も始めはそう考えていたんだけどな、グリズリーの爪痕を焚き火に使う木を探している時にたまたま見つけちまったからな。 運が悪かった」


「え〜っ。 ついてないよぉ。 ほんとは二人でゆっくりしたかった」


「悪かったな。 でも、そうでもしないとレベルが中々上がらないからな。 強い魔物は経験値が多いのは常識だが、レベルが低ければ低いほど戦いの貢献度に応じて獲得経験値は跳ね上がる。 今の俺にグリズリーは最適なんだよ」


「でもレベル差がかなりあるから私も戦うよ。それに普通は編成組んで戦うものだし、いくらアルトでも夜にグリズリーと戦うのは心配だよ」


「いや、一人で戦わさせてくれ」


「ほんとに大丈夫? グリズリーって騎士団でも一人で戦うなんてこと絶対にしないよ」


「分かってる。 でも本当に危なかったら手を貸してくれ。 それ以外は俺一人で戦う。 そうならないように立ち回るつもりだが、いざとなったら頼りにしてる」


「う、うん。 そうならないようにしてね」


 その為にリリィを連れてきたからな。回復魔道士みたいにエリアヒールが使えるわけではないが普通のヒールは使える。万能職とは正にリリィのような存在の事だ。


 それにリリィなら一人でもグリズリーくらいなら大丈夫だろう。その証拠に魔物の出る森の中でも平気で眠そうにしている。


 普通の奴なら初級といえど、夜には探索や森になど入ったりしない。視界が悪かったり、魔物が活性化したりと不利になる条件が幾つもあるからだ。そんな入ることすらしないようなところであの余裕。

 遠征でいくつも修羅場を潜ってきてるのがこういうちょっとした時に分かるな。


「おっと……」


 森を進んで二時間くらい経ったところで二人の足が止まる。月明かりの照らされた茂みの向こうに魔物の気配があったからだ。


 それはゴブリンや、ウルフなどの小さい気配ではなくもっと大きな存在。


「見つけたぞ」


 待ち望んでいたグリズリーにようやく出会えて俺も嬉しいよ。夜にわざわざ探索しに出かけた甲斐があったってもんだ。


 背中にしまっていた斧を構え。ゆっくりとグリズリーの射程エリアに入る。

 相手は寝ていたのか、こちらの存在に気付いたものの動きがまだ遅い。


 が、そんな事は関係ない。殺るか殺られるかの世界で寝ている奴の方が悪いからだ。


「グォォォォ!!」


威嚇しながら突進してきたか。 俺を突き飛ばして、スキル[気絶]させてる間に食うつもりだろうが、あいにく俺の方が速い。

 戦う直前に勇者の加護と勇者の祝福は使っておいたからな。こっちは万全の状態なんだよ。


強攻撃ブレイクッッ!!」


 ズバァァァッッ!!!


俺は強烈な斬撃をグリズリーに食らわしたのだった。






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